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腰痛剣士と肩凝り魔女  作者: 一式鍵


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04-03. 城塞都市

 それから一週間少々移動して、俺たちはベラルド子爵領とキンケル伯爵領の境界線上にある城塞都市に辿り着いた。旅の途中ではトラブルもないではなかったが、騎士たちがなんとかしてくれた。場合によってはタナさんが出たりもしたが。俺は……馬車の荷台で転がっていた。ウェラは精霊と話でもしているのか、退屈している様子はなかった。


 リヴィは休憩時間になるたびに、俺や随伴の騎士に剣術を学んでいた。俺は実演できないから、騎士たちには本当に助けられた。彼らもめきめきと実力を付けていくリヴィを見て楽しくなっていたのだろう。俺から見てもよく言うことを聞く良い弟子だった。そしてたったの一週間で、リヴィの剣技は恐るべき進化を遂げていた。


 城塞都市に着く頃には、季節は晩夏を過ぎていた。蒸し暑く感じる日もあったが、基本的には晩夏あるいは初秋である。赤い葉も増えてきた。きっとこの地方の秋は短いのだろう。


「私たちはここまでです」


 騎士のリーダーが俺たちを馬車から下ろしながら言った。城塞都市の門の前である。リヴィはリーダーに抱きついて、「ほんまにありがとう!」とお礼を言っていたが、リーダーは本気で苦しそうにしていた。その一方で少し鼻の下が伸びていたような気がしないでもない。


「リヴィ、絞め殺す前に離れな」

「あっ、ご、ごめんやで!」


 タナさんが止めなければ、騎士は本当に絞め殺されていたかもしれない。が、他の四人の騎士はそれを笑って見ていた。彼らはそれぞれにリヴィの師匠でもある。


「さびしいなぁ」


 ウェラが名残惜しそうに騎士たちや御者を見ている。御者は小さく頭を下げ、騎士たちは「もっとこっちにいればいいのに」とか言ってくれた。が、俺たちはそれに甘えてはいられない。


「他に我々に出来ることはありませんか」

「そうさねぇ。路銀はたっぷりいただいたしねぇ」


 タナさんはそう言いつつ考えている。そこでリヴィが「あっ」と声を上げる。


「ジェノスさんによろしゅう伝えてくれる?」

「もちろん」


 騎士の一人が答えた。リヴィは「おおきに!」と元気よく言った。タナさんは小さく頭を下げてから、やや厳かな口調で言った。


「あんたたちは一刻も早くガナートの所に帰るんだよ。あの男にはまだまだやることがある。いくら手があっても足りないはずさ」


 タナさんの言葉に俺も頷く。騎士たちは顔を見合わせると、一斉に敬礼して馬上の人に戻り、そのまま帰っていってしまった。


 城塞都市には拍子抜けするほどあっさりと入ることができた。騎士のリーダーが一声かけてくれていたおかげだと思うのだが。どうやらこの辺りを仕切っているキンケル伯爵は、キースよりはガナートとの関係が良いらしかった。


 城塞都市は丘の上に立ち、城壁で周囲を囲まれていた。だが、その大きさが凄まじい。人口十万、あるいは二十万はいるのではないかという住宅過密都市である。町の中央には鍛冶屋のものと思われる巨大な煙突が立ち並んでいた。おそらく武具の生産も自前でやっているのだろう。籠城戦を想定した作りの都市だ。この都市を攻めようと思ったら相当な犠牲を覚悟しなければならないだろう。


「すごい都市だねぇ」


 タナさんはリヴィと手を繋ぎながら俺たちの前を歩いている。俺はといえば、幼女ことウェラに手をひかれている不審なおじさん状態である。都市に常駐している兵士たちの視線がちょっとだけ痛い。


 都市の内部は本当に整備されていて、住宅街や商店街が明確に分けられていた。道もよくあるようなとってつけたようなものではなく、きっちりと計算された碁盤の目状に広がっていた。また、メインストリートの多くは、馬車が余裕を持ってすれ違えるほど広く、その上とても清潔だった。公衆衛生の点だけ考えたら、もしかしたら王都よりも上かもしれない。また、交易も盛んなのか、様々な商店が立ち並んでいる。生活必需品や食料品についてはもちろん、武具も売られていた。見たことのない形状の武器や、珍しい素材の防具も売られていた。


「すっごいねぇ! 人がいっぱいだぁ!」


 ウェラがキャッキャとはしゃいでいる。人がこれだけいると、誰もウェラがハーフエルフだとは気付かない。たとえ気付かれたとしても、もしかしたら誰も気にしないかもしれない。彼らは彼らの生活に忙しく、きっと他所者(よそもの)のことなど意にも介さないだろう。大都市の人間というのは、えてしてそういうものだ。


「なぁ、パパ!」


 リヴィがくるりと振り返る。その青い瞳(ブルーオパール)が昼時の陽光を受けてキラキラと輝いている。


「なんやむちゃくちゃええ匂いせぇへん!? 何の匂いや、これ!」

「ああ? うん、ピザかな?」

「ピザ? ピザってなんや?」


 全身にキラキラをまとわせながら、リヴィが俺を見ている。タナさんは苦笑していた。


「ピザってのは……俺もどうやって作ってるのかまでは知らないが、ずっと南の国を旅していた時に食べたことがあるな」

「へぇ! 南の国かぁ! パパ、いろんな国行ったん?」

「まぁね」


 俺は肩を(すく)めつつ、その匂いの発生源を探した。


「ああ、あそこだ」

「ん、あれか! ええ匂いやわぁ! むっちゃ美味しいんやろなぁ!」


 実にわかりやすいリクエストである。タナさんは「リヴィ、行くよ」と行ってスタスタ歩き始めている。リヴィは「おおおおおお」とか雄叫びを上げながらついて行った。俺とウェラは、言うまでもなくゆっくりである。


「ウェラはピザは食べたことあるのか?」

「ないよぉ。ん-……チーズと小麦粉生地の焼けた匂いだよね、これ」

「お、すごいな、ウェラ」


 実物を見てもいないのによくわかるなと感心する俺である。


「ウェラ、料理は得意なんだよ。お肉はちょっと苦手だけど」

「すごいなぁ。旅が終わったら、ウェラが作った料理を食べたいぞ」

「いいよ! 作ってあげるね。パパとママと、リヴィの分」

「楽しみだ」


 そうこうしているうちに、俺たちはリヴィとタナさんのいる場所にたどり着く。


「パパ、おっそーい! って言うてもしょうがないんねんけどな。ところで、これ、なんて書いてあるん?」


 リヴィが看板の文字を指差した。

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