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腰痛剣士と肩凝り魔女  作者: 一式鍵


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03-11. 反乱

 キース派が黙っているわけはないと思っていた。だが、まさかこんなすぐに城を取り囲んでくるようなことが起きるとは思わなかった。まるであらかじめ全てが用意されていたかのような周到さだった。城門は城内にいたキース派の騎士によって開けられていた。中庭には数人の兵士や召使いが倒れていた。どうやら城内でも戦闘が始まっているらしい。


「多勢に無勢じゃないか、これは」


 ジェノスの案内で外に出ると、ようやく状況が見えてきた。報告によれば、城外にいるキース派の騎士は約二千。城外にはガナート派の騎士たちの姿は見えない。そして城内のガナート派の騎士はせいぜい百。対するキース派は二百を超えているとのことだった。どう考えても全員討ち死に以外の未来が見えない。


「ガナート様!」


 ジェノスが声を張る。その視線の先に、左手を負傷したガナートの姿があった。矢を受けたようだ。全く、物騒な話だ。


「ジェノスか。それに――」

「挨拶してる暇はないよ」


 タナさんが首を振る。


「リヴィ、剣を抜きな。あんたは何があってもエリさんを護れ。ウェラ、カードを用意しな。エリさん、座ってていいよ」

「いや、それはちょっと」


 俺は剣を抜こうとする。が、タナさんは「だめだ!」と一喝してくる。


「どうしてだ。今なら抜ける」

「ダメなもんはダメさね」

「理由になってない」

「アタシがダメだと言っている。何か文句でも?」


 凄まれてしまった。俺は肩をすくめる。確かに無理して剣を抜いたって、十人倒せれば御の字だ。こんな状況で、一人二人が頑張ったところで戦いの風向きは変わらない。

 

「ママ、精霊さんを呼ぶしかないと思う!」

「まださ。まだ待ちな」

「どうして? 騎士さんがやられていくよ!?」


 実際に目の前では多勢に無勢の争いが繰り広げられている。ジェノスもその渦中にあり、リヴィもそこに加わっていた。ジェノスの剣技は本当に洗練されていて鋭く、リヴィの剣技は荒削りながら重い。だが、俺は気付いた。リヴィは剣の()で相手を殴り倒しているのだ。当たりどころが悪ければ死ぬような打撃だったが、リヴィが狙っているのは腕や膝だ。死ぬ可能性は低い。


「クソ、怪我さえしてなければ」

「総大将が前に出てどうするさね、ガナート」


 タナさんが肩を(すく)める。


「ママ、精霊さんを呼ぶ!」

「待ちな。風を感じな、ウェラ」

「え?」

「今呼んだら、その精霊も狂っちまうよ」


 風?


 空を見上げても、嫌味なくらいに青い空が広がっているだけで、特におかしな気配は感じない。しかし、ウェラは何かに気付いたようだった。


「精霊さんの声が……おかしい」

「だろ?」


 タナさんは厳しい表情で頷く。


「リヴィ! 下がりな!」


 タナさんの怒声に弾かれるようにして、リヴィとジェノスが敵に背を向けて走り出す。他のガナート派の騎士たちも一斉に従った。タナさんの声には魔力でも乗っているのか? とは思ったが、訊いたら怒られそうなのでやめておく。


「ママ、なん――」


 リヴィが問いかけたその瞬間、空が割れた。俺の視覚も一瞬()くなった。中庭に雷が落ちたのだ。さっきまでリヴィたちがいた辺りの地面が、馬車五台がすっぽり収まる程度に(えぐ)れていた。


「あっぶな……!」


 リヴィのうなじに冷や汗が吹き出したのが傍目にもわかる。


「コレはアレやな、この前の狂った精霊とかいうやつやな?」


 リヴィが上を見上げて言った。そこには黒い箱みたいなものが浮かんでいる。


「でも今の一撃、キース派の騎士の被害のほうが圧倒的にでかかったんとちゃう?」

「だな」


 俺は左手で腰をさすりながら、状況を把握しつつ頷いた。


「味方の損害も(いと)わないのか、あるいは味方と思ってもいないのか」

「後者、だろうねぇ」


 いつの間にか俺の隣に来ていたタナさんが言った。


「狂った精霊は魔女の使い魔さ。()()()()()が、人間ごときを尊重するはずがないさね」


 タナさんは右手でナイフをくるくると弄んでいる。


「だけど、座標が正確すぎる。ということは、どこかに()()()()があるはずさ」


 二撃目の落雷はなかったが、代わりに無形の刃のようなものが降り注いでいる。リヴィとジェノスがいなければ、俺なんかただの良い(まと)だっただろう。


「ウェラ、精霊を呼んでおくれ」

「だいじょうぶかな?」

「次の一撃を防げば良いだけさ。すぐに帰ってもらう」

「わかった、ママ」


 ウェラは何事か呟いた。聞いたことのない言葉だった。


「ウェラ、いまのは?」

「お守りの呪文。エルフ語なんだって。ウェラはエルフ語わからないけど、これだけはなんか覚えてたんだ」


 ウェラはそう言うと、一枚カードを放り投げた。それはすぐに青空に溶けていく。


 直後、その黒い箱――狂った精霊がビリビリと震えだす。タナさんが声を張る。


「ウェラ!」

「精霊さん、お願い! みんなを守って!」


 ウェラは両手を大きく広げて、その黒い箱に正対した。視界の端に一瞬入り込んだタナさんの表情は、まるで氷のようだった。



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