表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
腰痛剣士と肩凝り魔女  作者: 一式鍵


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

21/31

03-07. 好きということ

 ベッドが何度か揺れる。娘のどちらかが身を起こしたのだ。


「うにゅ~」


 リヴィの寝ぼけた声が聞こえた。


「はっ、ウチ、見てはいけないものを見てるんとちゃうやろか!?」

「馬鹿だねぇ、リヴィ」


 タナさんは豪快に笑った。


「エリさんにできるわけないだろ?」

「それもそ……って乙女になんの話させんねや、ママ」

「いや待って、ふたりとも。なんか俺が馬鹿にされてないか?」

「ないない」


 タナさんが軽く、しかも心のこもってない声で応じてくる。刺さるなぁ。


「なぁなぁ、パパ、ママ。二人の時間を邪魔するようで気ぃ引けてはおるんねんけどな、気になって寝られんねや」

「寝てたじゃないか」


 俺とタナさんが同時にツッコミを入れるが、リヴィは意にも介さない。


「ママとパパは結婚してないんねやろ?」

「会ったばかりみたいなもんだからな」

「ふむー」


 リヴィはベッドの上にあぐらをかいた……気がする。顔が向けられない。


「でもな、ええ感じやな! ママはパパのことが好きやろ?」

「女同士、その辺は通じちまうのかねぇ」


 タナさんは小さく笑っている。その声が耳にも心地良い。


「そうさ、多分ね。アタシはこの男のことが好きなんだ」

「多分って? 好きなら好きで終わりやないの?」

「好きで終わり?」

「せや」


 リヴィは元気よく肯定する。


「ウチもな、結構モテてたんやで。ウチも好きな子がおった。二つ下の男の子やってんけどな、去年、病気で死んじまいよった」


 思わぬ告白に絶句する俺。リヴィはこの年で、どれほどのものを失ってきたんだ?


「ウチな、その子に好きやって伝えてやれんかった。最期までそばにはおったんねんけどな。きっちり言葉にして伝えてやれんかった」

「気付いてたんじゃないかな」


 俺が言うと、リヴィは「うーん」と呻いた。


「せやかて、あいつな、いっつも本読んでたんよ。うちの家出したおとんが持っていた本を全部読んだんちゃうかな。とにかく本ばかりで、ウチとなんてほとんど会話もせんかった」


 うん? 今さりげにすごいこと言わなかった? お父さんが家出?


「ああ、おとんはどうでもえぇんや。小さい頃はよう遊んでくれとったから、いい思い出の中で頑張っていて欲しいだけや」


 リヴィ――ちょっと胸が熱くなる俺である。


「あいつ、ウチのこと少しは恋愛対象(レンアイタイショー)として見ててくれたんやろかなぁ」

「その年頃で、女の子が嫌いな男はいないよ。まして自分に好意を持ってくれてる女の子には敏感なんだ」

「そんなもんなん? パパもそないやったん?」

「ああ。多分ね」


 正直に言うと、俺にも言うほどそういう経験がないから、なんとなくそう思っているだけかもしれない。俺の十代は――まだあまり思い出したくはないな。


「しまったなぁ、好きって伝えておけばよかったわぁ」

「アタシはさっき伝えたからもう未練はないさね」

「え、そうなん? いつの間に」

「あんたが寝てる間にね」


 タナさんはフフフ、と意味深に笑う。


「なぁなぁ、ママ! どこが決め手やってん?」

「顔……じゃぁないさね」


 タナさんはあっけらかんと言った。結構刺さった。気にしてるのに。


「エリさん見た目も大したこと無いし、年齢も結構行ってるからねぇ」


 さらに刺さる。俺のライフはもうゼロだ。


「確かにパパは二枚目言うより三枚目やけど、やったら、ママはどこに惚れたん?」

「そうさねぇ。アタシはね、芯のある人間が好きなのさ、多分。本人を前にして言うのもデリカシーが無い気がするけど、まぁ、そうさね。言っちまえば、一生一緒にいたいと思えたってことなのかねぇ」

「うわぁ、本気の惚気(のろけ)きたわぁ!」

「それが好きってことなのかねぇ」

「それやで! ママ、それや! それが好きってことや! ええなぁ、ええなぁ!」


 なんか身動き取れないからアレだけど、動けるなら今すぐでもここから逃げ出したい。いったいぜんたい、これは新手の拷問か何かなのだろうか。あることないこと自白してしまいそうである。


「エリさんはね、怒るべき時にはきっちり怒る――大理石の床を砕く程度にはね。身体が言うことを聞かないとしても、その時出来る最善のことをしようとする。アタシを助けた時(しか)り、ガナートを倒した時然り。多分、これはこれから未来永劫変わらないだろうさ」

「それは買い被りっていうもんだよ、タナさん」

「いいや、アタシは間違えないさね」

「魔女だから?」

「魔女は引退したんだっつってんだろ」


 タナさんの方からゴキゴキと音が聞こえてきた。


「ちっ、これだから魔法は……」


 どうやらタナさんの肩や首が音を立てているらしい。もしかして、さっきの「魔女の印」ってやつのせい? 魔法は肩が凝るって言っていたけど、そういうこと?


「さ、エリさん、仕上げするよ。寝ちまいな。これからしばらく、アタシはリヴィと乙女トークをしなきゃならないからね」

「あ、うん。乙女トーク?」

「乙女に反応してんじゃないよ、エリさん。アタシだって女さ。女ってのはね、永遠に乙女なのさ」


 なんだそれ。俺は心の中でツッコミを入れつつ……気付いたら俺はその手のぬくもりを感じながら、爆睡していた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ