表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
腰痛剣士と肩凝り魔女  作者: 一式鍵


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/31

02-11. 赤毛の少女が振るう剣

 しかし、少女は臆することなくはっきりと首を振った。


「いやや」

「……そうかい」


 タナさんは精霊を大きく吹き飛ばすと、素早くその剣を少女に手渡した。


「おおきに!」

「しっかりやりな」


 タナさんはそう言うと、俺たちのところに戻ってきた。騎士たちもそこそこ頑張ってはいたが、この赤毛の少女の戦闘力はそれを遥かに上回っていた。何より、一撃が非常に重い。タナさんが口笛を吹く。


「あれは魔法剣じゃなければ刀身がもたないねぇ。砕けちまう」


 魔法剣? 俺は隣に立つガナートを見た。


「お前の剣ってそんな高価なものだったのか」

「当たり前だ。遺跡調査での拾い物だがな」


 ガナートは腕を組みつつ、なぜか幾分得意げにそう言った。


 それにしても少女の剣術は圧巻だった。まだまだ荒削りではあるが、それを補ってあまりあるパワーと手数があった。黒い精霊が倒されるのも時間の問題だろう。俺は隣でさりげに俺を支えてくれているウェラに尋ねる。


「あの精霊は元に戻せないのか?」

「無理だよ、パパ。狂っちゃった精霊はもう普通の精霊には戻れないんだって、風の精霊さんが言ってる」

「倒すしかないのか」

「うん」

「――それでいいのさ」


 タナさんは愛用のナイフを(もてあそ)びつつ言った。


「精霊は全にして個、個にして全というやつなのさ。だから倒してやるのが一番良い。だろ、ウェラ」

「うん……」


 悲痛な顔をしながらウェラは頷いた。


「エリさん、下がりな。ウェラ、エリさんを護るんだ」

「わかった」


 ウェラは頷くと、俺の前に出た。幼女に守られるおっさんの図の出来上がりである。ウェラは何かをつぶやくと、目の前に半透明の壁を出現させた。


「風の精霊さんが護ってくれるよ」

「すげぇ……」


 そしてやっぱり出る幕のない俺である。俺が何をしているかと言うと、剣を杖に突っ立っているだけなのだ。そんな俺の隣にタナさんがやって来て、わずかに口角を上げる。


「娘に護られるなんて、父親冥利に尽きるだろう?」

「そ、そうでも、ない――気がする」

「ウェラはパパを護れてうれしいよ!」


 なんか刺さるなぁ。俺は頬を引っ掻きつつ、あの赤毛の少女を見た。


 鍛えれば王都でもトップクラスの剣士になれる――俺にはわかる。今は我流の剣技のようで、パワーに技術が追いついていない。だがそれでも、縦横無尽に動き回る黒い精霊を確実に射程に捉えている。


「ガナート、よくあんなのを捕まえられたな」

「……あいつは抵抗もしなかった」


 ガナートもその強さを目の当たりにして愕然とした表情をしていた。彼の目から見ても、あの少女の強さは本物だということがわかったのだろう。


「お前の剣、あの子にやれよ」

「なんだって? 騎士が剣を他人に譲るわけがないだろう!」

「為政者たるお前が持つべきはペンだろう。剣じゃない」

「それは……」


 ガナートは顔を(しか)め、訊いてくる。


「お前はその剣を譲れと言われたら譲るのか」

「代わりの杖がもらえるならね」

「……騎士の誇りはどこへ行ったんだ」

「お前に言われたくはないな」


 俺は首を振った。隣ではタナさんがニッと笑っている。


「エリさん、言うねぇ」

「たまにはね」


 俺は肩を竦める。


「ともかくだ、ガナート。あの剣はお前が持っていても宝の持ち腐れだ。まぁ、譲るかどうかの判断はお前に任せるけどな。次期領主なわけだし、剣が騎士の魂であることも知っている。それにあの子は別に、あの剣がなきゃならないわけでもないしな」

「おやおや、エリさん。決着がつくよ」


 タナさんが指差す先には、赤毛の少女の背中がある。騎士たちが取り囲む中で、少女と黒い精霊は一騎打ちを演じていた。少女も何箇所か怪我をしてはいたが、深くはない。良い視力()の持ち主でもあるということだ。


 少女が突き出した長剣が、精霊の首と思しき部分を貫いた。少女は足を地面に抉り込ませながら、力任せに押し切っていく。


「精霊さんが……」


 ウェラが呟く。その時には俺たちの前にあった半透明の壁は消えていた。


「還っていく……」

「終わったってことか?」


 俺が訊くと、ウェラは沈んだ表情で頷いた。


 黒い精霊は、最後に虹のような輝きを残して、消えていった。野次馬たちも集まってきていたが、事を見届けるなりあっという間に散っていく。


 そして赤毛の少女が投げ捨てられていた剣の鞘を拾い上げつつ、こちらに向かってくる。あれだけの激戦を繰り広げたにも関わらず、今にも鼻歌でも歌い出しそうなくらいに気楽な表情をしていた。


「この剣、ええな!」


 少女は剣を一度振ってから鞘に収め、俺に差し出してきた。


「それ、こいつのなんだ」

「え、そうなん?」


 少女はガナートを見て渋面になる。


「そゆことなら、ウチが預かっとく。ええな?」

「何を言うか。それは俺の――」

「預かっとくだけや。どのみちこの剣、おっさんに渡すわけにはいかへんやろ?」


 少女はニカッと笑った。俺はタナさんと顔を見合わせて、お互いに肩を(すく)めた。ガナートは眉根を寄せて、口を閉ざした。


---

ここまでお読みいただき、ありがとうございます!

もし面白いと感じていただけたら、ブックマークしていただけると励みになります。

宜しくお願い致します。

※次話から第三章です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ