02-11. 赤毛の少女が振るう剣
しかし、少女は臆することなくはっきりと首を振った。
「いやや」
「……そうかい」
タナさんは精霊を大きく吹き飛ばすと、素早くその剣を少女に手渡した。
「おおきに!」
「しっかりやりな」
タナさんはそう言うと、俺たちのところに戻ってきた。騎士たちもそこそこ頑張ってはいたが、この赤毛の少女の戦闘力はそれを遥かに上回っていた。何より、一撃が非常に重い。タナさんが口笛を吹く。
「あれは魔法剣じゃなければ刀身がもたないねぇ。砕けちまう」
魔法剣? 俺は隣に立つガナートを見た。
「お前の剣ってそんな高価なものだったのか」
「当たり前だ。遺跡調査での拾い物だがな」
ガナートは腕を組みつつ、なぜか幾分得意げにそう言った。
それにしても少女の剣術は圧巻だった。まだまだ荒削りではあるが、それを補ってあまりあるパワーと手数があった。黒い精霊が倒されるのも時間の問題だろう。俺は隣でさりげに俺を支えてくれているウェラに尋ねる。
「あの精霊は元に戻せないのか?」
「無理だよ、パパ。狂っちゃった精霊はもう普通の精霊には戻れないんだって、風の精霊さんが言ってる」
「倒すしかないのか」
「うん」
「――それでいいのさ」
タナさんは愛用のナイフを弄びつつ言った。
「精霊は全にして個、個にして全というやつなのさ。だから倒してやるのが一番良い。だろ、ウェラ」
「うん……」
悲痛な顔をしながらウェラは頷いた。
「エリさん、下がりな。ウェラ、エリさんを護るんだ」
「わかった」
ウェラは頷くと、俺の前に出た。幼女に守られるおっさんの図の出来上がりである。ウェラは何かをつぶやくと、目の前に半透明の壁を出現させた。
「風の精霊さんが護ってくれるよ」
「すげぇ……」
そしてやっぱり出る幕のない俺である。俺が何をしているかと言うと、剣を杖に突っ立っているだけなのだ。そんな俺の隣にタナさんがやって来て、わずかに口角を上げる。
「娘に護られるなんて、父親冥利に尽きるだろう?」
「そ、そうでも、ない――気がする」
「ウェラはパパを護れてうれしいよ!」
なんか刺さるなぁ。俺は頬を引っ掻きつつ、あの赤毛の少女を見た。
鍛えれば王都でもトップクラスの剣士になれる――俺にはわかる。今は我流の剣技のようで、パワーに技術が追いついていない。だがそれでも、縦横無尽に動き回る黒い精霊を確実に射程に捉えている。
「ガナート、よくあんなのを捕まえられたな」
「……あいつは抵抗もしなかった」
ガナートもその強さを目の当たりにして愕然とした表情をしていた。彼の目から見ても、あの少女の強さは本物だということがわかったのだろう。
「お前の剣、あの子にやれよ」
「なんだって? 騎士が剣を他人に譲るわけがないだろう!」
「為政者たるお前が持つべきはペンだろう。剣じゃない」
「それは……」
ガナートは顔を顰め、訊いてくる。
「お前はその剣を譲れと言われたら譲るのか」
「代わりの杖がもらえるならね」
「……騎士の誇りはどこへ行ったんだ」
「お前に言われたくはないな」
俺は首を振った。隣ではタナさんがニッと笑っている。
「エリさん、言うねぇ」
「たまにはね」
俺は肩を竦める。
「ともかくだ、ガナート。あの剣はお前が持っていても宝の持ち腐れだ。まぁ、譲るかどうかの判断はお前に任せるけどな。次期領主なわけだし、剣が騎士の魂であることも知っている。それにあの子は別に、あの剣がなきゃならないわけでもないしな」
「おやおや、エリさん。決着がつくよ」
タナさんが指差す先には、赤毛の少女の背中がある。騎士たちが取り囲む中で、少女と黒い精霊は一騎打ちを演じていた。少女も何箇所か怪我をしてはいたが、深くはない。良い視力の持ち主でもあるということだ。
少女が突き出した長剣が、精霊の首と思しき部分を貫いた。少女は足を地面に抉り込ませながら、力任せに押し切っていく。
「精霊さんが……」
ウェラが呟く。その時には俺たちの前にあった半透明の壁は消えていた。
「還っていく……」
「終わったってことか?」
俺が訊くと、ウェラは沈んだ表情で頷いた。
黒い精霊は、最後に虹のような輝きを残して、消えていった。野次馬たちも集まってきていたが、事を見届けるなりあっという間に散っていく。
そして赤毛の少女が投げ捨てられていた剣の鞘を拾い上げつつ、こちらに向かってくる。あれだけの激戦を繰り広げたにも関わらず、今にも鼻歌でも歌い出しそうなくらいに気楽な表情をしていた。
「この剣、ええな!」
少女は剣を一度振ってから鞘に収め、俺に差し出してきた。
「それ、こいつのなんだ」
「え、そうなん?」
少女はガナートを見て渋面になる。
「そゆことなら、ウチが預かっとく。ええな?」
「何を言うか。それは俺の――」
「預かっとくだけや。どのみちこの剣、おっさんに渡すわけにはいかへんやろ?」
少女はニカッと笑った。俺はタナさんと顔を見合わせて、お互いに肩を竦めた。ガナートは眉根を寄せて、口を閉ざした。
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※次話から第三章です。




