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腰痛剣士と肩凝り魔女  作者: 一式鍵


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02-07. 一騎打ち

 突風が吹き抜けるや否や、騎士の一人が怒鳴り声をあげた。


「言うに事欠いて、我々を悪魔と呼ぶか! 魔女め!」


 そして騎士たちは一斉に抜剣した。


 俺はタナさんの前に出る。


「タナさん、すまない」

「エリさんが謝る必要は、これっぽっちもないさね」


 タナさんはニッと笑い、そして後ろを振り返る。


「ウェラ、後ろ向いて逃げな!」

「いやだよ! 火の精霊さんに……」

「ダメだよ。そんなことをしたら、本当に魔女になっちまう。安易な誘惑に耳を貸すんじゃないよ、ウェラ」

「でも!」


 騎士たちはジリジリと間合いを詰めてくる。火の精霊で一網打尽――考えないではなかったが、もし万が一、こいつらの中にベラルドのドラ息子がいたら、俺たちは確実に詰む。逆に、ドラ息子がいてくれたら、精霊に頼らなくても勝機はある。


「男は殺せ。女はできれば生け捕りにしろ!」


 騎士は言う。どうやら俺は死亡確定のようだ。なら、もう、賭けに出るしかない。


「おい、ベラルドのドラ息子!」


 俺は気合を込めて長剣を持ち上げた。まだ鞘からは抜かない。


「お前の悪行は王都にも轟いているぜ。お前の親父さんは、どうやら寝たきりだそうだな。それを良いことに好き勝手やってるって、王都ではもっぱらの噂だぜ」


 半ばハッタリだったが――。


「それが何だと言うのか!」


 アタリだった。先頭の騎士がベラルド子爵家のドラ息子、ガナートであることが確定した。


 それはともかくとして、剣を持ち上げ続けるのも結構つらい。腰がビリビリと痛み始める。


「親父の権威を傘に来て、抵抗もできない人間を拉致して回る。卑怯者、鬼畜の所業だ!」

「う、うるさい! 殺せ! こいつを血祭りに挙げろ!」

「多勢に無勢。こりゃどうやったって俺に勝ち目はないよ。だけど、それでいいのかな? 騎士だろ、お前。自分が前に出る気概のない騎士についていく部下ってのはどんな気持ちなんだろうな?」


 俺が挑発すると、ガナート以外の騎士たちはあからさまに動揺した。いいぞ、ナイスだ、俺。ただし、腰がもう限界だ。


「それでどうだい、ドラ息子。騎士の名誉をかけて一騎打ちとしゃれこまないか?」

「い、一騎打ち……!?」

「怖いのか? その立派な剣と鎧は玩具(おもちゃ)か?」

「貴様!」


 よし。俺は長剣の鞘尻で地面を突いた。ようやく腰が支えられる。一騎打ち云々より、そのことに安堵する俺である。


 しかし、どうしたものかな? ガナート・ベラルドが律儀に下馬するのを観察しつつ、最適解を探る。その時だ。


「パパ、がんばって!」

「お、おう!」


 ウェラの声援を受けて、俺(の腰)は少しだけ復活した……気がする。そんな俺に、ガナートが「抜け!」と喚く。抜きたいのは山々なんだが。


「抜く必要もない」


 俺はそう言って右足を半歩分引いた。


「舐めた真似を!」


 ガナートはその鋭利な剣を掲げて打ち込んでくる。動き自体は読みやすいのだが、俺の身体はついていかない。


 まだだ。


 俺はガナートが剣を打ち下ろし始めるタイミングを待つ。俺に許された攻撃機会は、一番最初の一回だけだ。


 俺が死んだらタナさんやウェラもただじゃ済まない。負けられない。


 ガナートの切っ先が俺に向かって落ちてくる。完全に一撃必殺を狙った攻撃だ。


 俺は不意を打つ形で一歩前に出て、瞬間的に身体を低くした。そして、杖にしていた剣で地面を()いた。ガナートの剣の柄が俺の肩に当たる。ガナートは足首を払われていたので、そのままもんどり打って倒れ込んだ。俺は長剣を軸にして身体を回転させ、無様に転んだガナートの背中を蹴りつけてから、その背中に馬乗りになった。そして懐の短剣をその喉元に突きつけた、というわけだ。今の体勢は腰への負担が非常に少ない。大変理想的な勝利である。


「どうだい、ガナート・ベラルド。これが実戦だよ」

「隠し武器とは、卑怯だぞ!」

「十人でかかってこようとした奴が言うセリフじゃねぇな」

「そうだそうだー!」


 ウェラの声が聞こえる。格好良い(?)ところを見せられて良かった。


「さて、負けを認めろ。さもなくば、殺す」

「俺を殺したら、お前らもただじゃ済まないぞ」

「だが、お前は死ぬ」


 久しぶりにこんな声を出したなというような声が出た。


「認めろ、敗北を」


 俺の短剣がガナートの喉に触れる。


「わ、わかった。認める……」

「答えろ。あの幌馬車には何が?」


 俺は力任せにガナートの兜を剥ぎ取った。印象に残らない顔の男だったが、年の割には精悍だった。ドラ息子と呼びはしたが、何だかんだ言って俺より少し年上だったはずだ。


「もう一度()くぞ。何を運んでいる」

「ま、魔女だ。魔女どもを屋敷に連れ帰るところだ」


 ガナートが言うや否や、タナさんがガナートの前に回り込んで、腕を組んで見下ろした。


「魔女、ねぇ?」


 タナさんと俺の目が合う。俺は「だな」と頷いた。


「あの街でアタシらを襲うようにけしかけたのも、あんたらか」

「俺は懸賞金をかけただけだ!」

「なるほど。おかげさまで、アタシたちは温泉を愉しむ権利を侵害されたんだけど、そのことについての申し開きはあるかねぇ?」

「魔女は皆殺しにしなければならない! 我がベラルド領に飢饉や疫病は持ち込ませはしない」

「はん!」


 タナさんは顎を上げる。威圧感が半端ない。


「そういうことだからって、馬車五台分も女子供をかっさらってきたと! さしたる証拠もなしに! 魔女の何たるかを知ることもなしに!」


 ガナートの前にしゃがみこんだタナさんの目が据わっている。俺でも怖いのだから、ガナートは失神寸前だろう。同情しないではない。

 

「エリさん、こいつら皆殺しでいいかねぇ?」

「簡単な話だけどな」


 ハッタリだ。騎士たちを見れば、それぞれに顔を見合わせて狼狽(うろた)えている。


「おい、ガナート。良いことを思いついた」

「な、なんだ……?」

「俺たちをお前の屋敷に連れて行け」

「なにぃ!?」


 わかりやすい反応をするガナート。タナさんを見ると不敵に笑っている。


「お前を人質にする。死にたくなければ言われたとおりにしろ」


 俺は努めて感情を抑えてそう言った。


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