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騎士団を追放されましたが、竜族と工都でまったり過ごします

作者: すなぎも
掲載日:2025/10/25

「ノーチェ・エルド。お前を王都騎士団から追放する」


 騎士団長室に入って、最初に投げかけられた言葉はこれだった。

 あまりの唐突な言葉に、つい瞬きを繰り返してしまう。


「そ、それは。クビということでしょうか?」


「そうだ。前線に立たぬ部隊長に価値はない。以上だ」


「そ、そんなことないです……。前線に出ることだけが戦いじゃ、ないと思います。もともと私は戦術師ですから、仲間の安全を考えて作戦を組み立てて。それで」


「言い訳は聞かん。そもそもお前のような若い女が部隊長になったことすら腹立たしかったんだ。前線で部下を引っ張れぬ者に、隊長は務まらん」


 言い返そうとしようとしたが、騎士団長の鋭い視線に、言葉が出なくなる。

 胸が熱くなった。悔しさと、情けなさと、少しの恐怖。


「……わかりました。今まで、ありがとうございました」


 私は頭を下げて、部屋を出た。

 騎士団長の命令は絶対。

 言い合ってもいい結果が得られないことはわかっていたから。


 官舎に戻って棚から本を出す。

 主に魔物の特徴と、部下達の強味と弱味をまとめて記したもの。

 騎士団長が言うように、私には最前線で剣を振るえる腕はない。

 だから、知識と作戦で強力な魔物と戦って来た。


 そうやって功績を築き上げて、部隊長まで駆け上がった。


「しょうがないよね。きっと、時代じゃないんだから……」


 埃の被った鎧は置いていく。

 持ち物は最小限に留めて部屋を出る。


 数年過ごした部隊長室に頭を下げて、私は騎士団を出た。


♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢


 考え事をしながら王都を歩く。


 これからどうしよう? そもそも私はなんで騎士団にいたんだっけ?


 小さい頃から読書が好きだった私は物心ついた時から魔物図鑑を読み漁ってた。そのおかげで誰よりも魔物について詳しくなって、ひょんなことから魔物に詳しいことが騎士さんに知られて、それが買われて騎士になって、いつの間にか部隊長になって……。


 そうだ。魔物の事がもっと知りたくて、私の知識があっているのか知りたくて。


 だから騎士団に入って戦術師として魔物を倒していたんだ。


「これからは自由に魔物を倒せるんだ。好きな魔物を、好きな時に倒せる。どうせなら前向きに捉えよう」


 誰にでもなくそう言ったところで、鎖が擦れる音が聞こえた。

 考え事をしながら歩いていたせいで、奴隷市に来てしまったようだ。


「男奴隷は売れにくい。見た目がよくても意味ねえ。安くするから買うか?」


 売人に声を掛けられ、つい視線がそちらへ向かってしまった。

 鉄の檻の中で、一人だけ立ち、腕を組んでいる男性がいる。


 背が高く、牢に寄りかかっている姿は奴隷の態度には見えない。

 人間のようでいて、人間がよくやる無駄な身じろぎを一つもしない。


 目が合った。

 灰色の瞳の奥に、呼吸のたび薄く角の紋が閃く。


 竜族だ。


 初めて見た。本で読んだだけの知識が目の前にいる。

 人間の姿へ擬態している時の筋の張り方、肌の渇き、瞳孔の絞り方。

 なにより、時折見せる、瞳に浮かぶ角の紋章。


 無駄に高かった本に書いてあったことは本当だったんだと、胸の奥が熱くなった。


「嬢ちゃん、見る目はあるな。こいつは働くぞ」


「健康な人間なんですか?」


「ああ、元気が有り余ってるようで、ここに来るまでに暴れ回って大変だった」


 竜族の擬態だって気付いていない様子。

 それはそうだ、竜族は伝説の種族。

 お目に掛かることすら普通に生活してたら叶わない。


 本来は奴隷として売られるわけがない種族。


「おい、お前。ちょっと前に来い!」


 売人が言うと、竜族がこちらに歩み寄る。


 背が高い。私より頭二つぶんぐらい大きい。

 がっちりとした筋肉と溢れる魔力。

 その気になれば、この檻なんて壊して逃げれそうだけど……。


 それが出来ないのは、奴隷契約を結ばれてるから。


 私は小さく魔法を唱えて、彼の顔までの空気の道を作った。


 これで、他の人には声が聞こえない。


「竜族が、なんでこんなところに」


「……言う必要はない」


 拒絶が混ざる、強い言葉。だけど、どこか寂しそうな色を感じる。


「魔物を倒して生計を立てようと思ってます。お手伝い、してくれますか?」


「奴隷契約はしない。主従契約なら受ける」


 私は頷いて、売人に声を掛ける。


「この人、買います。お安くできますか?」


「おうともさ。問題児が売れて清々する、安くするぜ! 契約はどうする?」


「いりません」


 私の声に、売人が目を大きく開き、言葉を失う。


「ばっ、ばか言っちゃいけねえぜ嬢ちゃん! こいつは野蛮だ! 悪いことは言わねえ、奴隷契約を。せめて主従契約を結ばねえと言うこと聞かねえぜ!」


 焦る売人に、静かに首を横に振る。


「相棒を探しているんです。奴隷も、主従も。好きじゃないので」


 竜族の灰瞳が、わずかに細くなる。角の紋がひとつ脈を打った。


「私は命令が苦手です。お願いを聞いてくれると助かるのですが……」


 細められた目が、閉じられる。


「ふんっ」


 と鼻が鳴らされると。


「命令は嫌いだ。頼まれたら考える」


 私にとっては充分な返事。


 売人は鼻で笑い、告げて来た金額をそのまま払う。


「嬢ちゃんに感謝するんだな。契約なしなんざ普通は有り得ねえぞ」


 檻の鍵が外れる音が、大きく響いた。


♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢


 王都を出たところで、彼はライアスと名乗った。

 口数が少なく、私からはなかなか喋りかけられない。

 体格差のせいもあるけど、なにより竜族なことに緊張してしまう。


「なあ」


 その声に、ビクッと肩が跳ねる。


「どこに行くんだ」


「ああ、はい。えっと。まずは、工都に向かおうと思っています。私は魔物を研究するのが好きなので。ギルドに所属して、魔物を倒してお金を稼ぎながら、研究しようかと思っています」


「魔物を倒す? お前が?」


 言葉にせずともわかる、「お前みたいなちびっ子が?」という視線。

 騎士団に入ってから何度も向けられ、部隊長になってからも向けられ続けた視線。

 私はそれを、侮蔑だとは思わない。


 むしろ、竜族も同じ視線を送るんだと、感心してしまう。


「私は戦術師です。倒し方を伝えるので、やるのはライアスさんがお願いします」


「なるほど。それで人手が必要だったのか」


「そうです。ライアスさんは竜族ですけどね」


 その言葉に、ライアスさんは首を捻る。


「なぜ俺が竜族だと」


「難しい話は街に着いた。今は安全に街まで行きましょう」


 行って、先を歩くと、後ろから呆れたため息が聞こえて来た。


 振り返り、私は手を差し出す。


「私はノーチェ。ノーチェ・エルドです」


 ライアスさんは。少し私の顔を見た後。


「竜族のライアスだ。よろしく頼む。……わからん奴だ」


 首を傾げる彼は、私なんかよりよっぽど人間らしいのかも知れない。


♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢


 ノーチェ・エルドが騎士団を追放されて数日が経ち、騎士団の状況は一変した。

 主力の騎士達が、ノーチェの追放は不当だと申し立て、騎士団を去ったのだ。


 今までノーチェの部隊が対応していた強力な魔物を相手に、残った騎士達は惨敗。

 複数の部隊を送り込むも、結局は討伐しきれず、何人もの死者を出した。


「なぜだ、なぜ勝てん!」


 会議室で騎士団長のアイズがテーブルを拳で叩く。


 周りの部隊長たちが緊張した面持ちで動けぬ中、静かに一歩進み出たのはリサ。


 ノーチェの元部下で、副隊長を務めていた騎士だ。

 女性でありなが、その剣術は騎士団の中でも随一と言える。


「理由は明白です、アイズ団長。貴方は不当にノーチェ隊長を追放した。それが原因だということは誰だってわかっているはずです」


「きっ、貴様! オレが悪いと言うのか!」


「吠える暇があったらノーチェ隊長に頭を下げて連れ戻してください。こうしている今も、魔物に殺されている民がいるんですよ」


 怒りが満ちる言葉に、周りの部隊長たちも同意の沈黙を続ける。


 騎士団長が大きく息を吸い。


「ノーチェは無能だ! 部隊長であれば自ら先陣を切って部下達に」


「黙れ見苦しい!」


 騎士団長の声は、いつの間にか部屋に来ていた王の怒号で遮られた。


 会議室の端、布の影から王が進み出る。

 どうやら最初から話を聞いていたらしい。


「アイズ騎士団長。君がノーチェ・エルドを不当に追放したというのは事実か?」


「ふ、不当などではありません! アイツは隊長になってからなんの戦果も挙げておらず、それなのに時期騎士団長との噂を聞いたので私は!」


「私が見た報告書と、君が見た報告書は別物なのか?」


 王の側近が机に並べたものは、騎士団長の印が押された報告書。

 それはどれも、ノーチェの部隊が挙げた見事な戦果。


「見てください! ノーチェは一度も魔物の討伐をしていません!」


「本人が倒さなければ、戦果でないと?」


「騎士である以上、戦果は己の手で」


「もう黙っておれ!」


 王の言葉に、会議室が緊張に包まれる。


「アイズ。貴様の職を解き、謹慎を命ずる」


「なっ……。そ、そんな」


「部隊の戦果は隊長の戦果。目障りだ、こやつは牢にでも入れておけ」


 王の側近に両肩を掴まれたアイズは、瞳孔がきゅっと縮み、焦点が合わなくなる。

 項垂れ、糸が切れた人形のように、部屋の外に引きずり出された。


 王はリサに目を向ける。


「君が交渉役だ。なんとしてもノーチェを連れて帰るんだ。いまの騎士団を立て直すのに、彼女の力は必要不可欠。これは最重要任務とする」


 リサは跪き、短く答えた。


「はっ! ……ただ、あの方は戻らかも知れないので、代案も持っていきます」


「彼女を一番近くで見て来たのは君だ。信じよう」


 リサをの肩を叩き、王は部屋を後にした。


♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢


 工都リントヴァルトに住んでから数日が経った。


 私の日課は、朝にギルドに顔を出して、魔物の討伐依頼を確認。

 興味がありそうな魔物がいたらそれをライアスさんと狩りに行く。


 狩った魔物はその場で細かく解剖しながら記録に残す。


 新しい発見があったり、次にまた戦う時、有効な物質や戦術を閃いたり、この時が一番の楽しみ。まだまだ学べることが沢山あるんだと、色んな魔物と戦い、試したい。


 鱗や爪は素材屋さんに売り、食べられそうな部位はご飯屋さんへ。


「儲けにならん。魔物からとれた素材をもっと高く売るべきだ、ノーチェ」


 ライアスさんが腕を組みながら不機嫌そうに言う。


「そんなことないです。食費も研究費も稼げてますから問題ありません」


「他の冒険者に睨まれるのは俺なんだぞ? 相場を壊してるってな」


「それは、私の知るところではないので……」


「じゃあ次からノーチェが文句を言われるんだな? 俺の背中に隠れるなよ」


「それはダメです! 私は人と話すのが得意じゃないので!」


「胸を張って言うことじゃない! あと単純に稼ぎが少なすぎる!」


「交渉は面倒なので値段の交渉はお断ります!」


 そんな言い合いを素材屋さんの前でするものだから、店主も困り顔。


「うちとしては助かるんだけどねえ。安くていい武器が作れれば冒険者も喜ぶ」


「ほら! ライアスさん、店主もそう言ってます!」


「じゃあ店主から冒険者に言ってくれ! ノーチェとライアスには文句を言うなと! なんで俺が冒険者に文句いわれるんだ! 理不尽だろうが!」


「そ、それは。ほら、ライアスくん。うちも商売だからさ。冒険者はお客様だし」


「なんでそこは弱気になる! 全く、人間どもはどいつもこいつも調子がいいことばかり言いがって」


 ライアスさんは竜族ということを隠してるけど、たまにこうした言葉を零す。

 本音で言ってるからなんだと思うけど……。


「まあまあ。楽しいからいいじゃないですか」


「ノーチェは楽しくない部分を俺に押し付けてるから気楽だな」


 なるほど、竜族も嫌味を言ってくる……っと、メモメモ。


「メモをとるな! 話を聞け!」


「ライアス、そんなぷりぷりしなさんな」


 魔物の食材を渡している料理屋さんが、美味しそうなお肉を抱えてやってきた。


「ほら、これでも食べて機嫌を直せ」


「これも元々は俺が倒して格安で売った魔物の肉だろうが……」


 と文句を言いつつも、お肉を食べて「美味い」と零すライアスさん。


「と、言う事で。お昼を食べたら次の魔物を狩に行きましょう!」


「ぜひうちで食べていきなよ、ノーチェちゃん。安くするから」


「やった!」


 歩き出す私に。


「全く。本当にノーチェって奴は……」


 怒られるかな? と思ったけど、ライアスさんは、溜息をして、付いてくる。


「全ての食材を食べつくしてやる」


「ライアス、それは勘弁してくれ」


 そんな楽しい日常に、私は騎士団の状況なんて、全く把握していなかった。


♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢


 夕方、工房の戸口が叩かれた。


 剣を掃除していたライアスさんの瞳が微かに細められる。


「どうぞ」


 声を掛けると、入って来たのは鎧に身を包んだリサさん。


 私と違ってすらっとしたスタイルに凛々しい顔つき。

 鎧が似合う姿には何度も羨ましい、と伝えたことがある。


「お久しぶりです、ノーチェ隊長」


「リサさんお久しぶりです! って、私はもう隊長じゃないですよ」


「わたしにとってのノーチェ隊長はノーチェ隊長ですよ」


「相変わらず、リサさんはお堅いですね」


「部下にも丁寧語を続ける隊長ほど、お堅くはないですよ」


 年下の私にも優しく接してくれるお姉さん。


 どうぞ、と椅子を差し出すが、リサさんは首を振る。


「今日はノーチェ隊長にお願いがあり訪問しました。隊長は騎士団の現状を知っているでしょうか?」


「現状? いえ。王都を出てからは全く」


 毎日が楽しくて、王都の事なんてすっかり頭から抜けていた。


「実はいま王都は」


 そこで私はリサさんから騎士団の現状を聞いた。


 私がクビになった後、私の部隊にいた騎士達は誰も騎士団に残らなかったこと。他の部隊にいた主戦力である騎士達も、団長の態度に次々に辞めていったこと。残された騎士達で魔物の討伐任務に向かったが、壊滅状態に陥ったこと。作戦を練り、再び大部隊で挑むも、討伐には至らなかったこと。


 そして、王がアイズ団長を謹慎処分としたこと。


「そんなことに……」


「騎士団の立て直しには隊長が必要です。王もそれを認めており、特別待遇で」


「やめろ、そんなの」


 話を聞いていたライアスさんが、私とリサさんの間に立つ。

 ライアスさんには、私が騎士団をクビになった経緯を伝えてある。

 だからだろうか、苛立った顔つきでリサさんを睨みつけた。


「ノーチェはお前らに捨てられたんだ。いまさら都合がよすぎないか?」


「そんなことは百も承知だ。そのうえで頭を下げに来ている」


「頭を下げれば聞いてくれると?」


「わたしはお前に頭を下げに来たわけじゃない。ノーチェ隊長に下げにきたんだ」


「ノーチェ、こんな奴の話しを聞く必要はない。すぐに帰らせるぞ」


「いい度胸だ。誰だか知らんが相手になる」


 二人とも目をバキバキにして剣に手を添える。


「ま、待ってください! 落ち着いてくださいよ! 二人は悪くないんですから!」


 間に入って手を広げる。


「悪いのは、その……」


 えっと、この場合、誰が悪役になるんだろ?


「アイズ騎士団長です!」

「アイズって野郎だろうが!」


「い、息ぴったりですね……」


「ふざけないでください! 誰がこんな奴と!」

「ふざけるな! 誰がこんな奴と!」


 二人は視線を交わして、ぷいっ、と逸らす。


 なんとか落ち着いてくれたみたいだけど、どうしよう。


 正直な事を言うと、騎士団に戻るつもりはない。ここでの生活は楽しいし、気に入っている。ライアスさんとは打ち解けて来たし、街のみんなも優しい。魔物の研究も生き甲斐って言えるぐらいには続けたいと思ってる。


 それに、追放を言い渡された時の事を考えると、やっぱり戻れない。


 けど、騎士団のみんなや、騎士を待つ民の事を考えると放っておけない。


 気持ちを落ち着けて、現状を見直して……。


「リサさん。私は騎士団には戻りません」


「しかし、それでは」


「ですが、騎士団が受けるはずだった討伐依頼を私とライアスさんが受けます。この街のギルドに外注してください。報酬はギルド経由。騎士団の口出しの一切を禁じます」


「リーチェ。それじゃお前の研究も、素材集めも進まなくなるぞ」


 不満を言うライアスさんに、シーっと鼻に人差し指を当てて黙ってもらう。


「あと、依頼を受けるのは私達だけじゃありません。この街にいる冒険者のみなさんにも受けられるようにしてください。それが条件です」


 私のお願いに、リサさんが口に指を添えて考える。


 本来、騎士団の依頼が冒険者ギルドに流れることはない。


 それは、騎士団のプライドがあるからだ。


 冒険者に出来て騎士団に出来ないことがあってはならない。

 それが国家組織としてもプライド。


 これはある意味、騎士団が無能だから、民に助けを求めたことになる。


 アイズ団長だったら受け入れるはずもない提案だけど。


「承知しました」


 リサさんは頷き、懐からもう一枚の紙を取り出した。


「ノーチェ隊長ならそう言ってくれると思ってましたよ」


 差し出された紙には、さっき私が出した条件を、そのまま受け入れると書かれたものだ。文章の最後には王様の印が押されている。


 さすがはリサさん。私の考えを読んでたんだ。頼りになるなぁ。


「すぐに冒険者ギルドにこれを提出します。付いてきてもらえますか?」


「もちろんです。ライアスさんも一緒に」


「当然だ。この女にノーチェは任せられん」


「はっ。たかが数日一緒に過ごした程度で随分と大口を叩く」


「なんだとぉ!」


「や、止めてください! 一刻を争うんですから!」


 どうどう! と二人を引き剥がしてす。


「全く。ライアスさんも、リサさんも。頼りになるんだかならないんだからですね」


「ノーチェ。それはこっちのセリフだ」

「隊長。それはこっちのセリフです」


 変な所で息ぴったりだなぁ、この二人……。


♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢


 翌日、王都からの依頼が冒険者ギルドの掲示板に次々と張り出された。


 どれも討伐が難しい魔物ばかり。騎士団が手間取るのも納得だ。


「ぜんぶ私が対応したい……」


「バカいうな。お前は指示出しだ」


「くぅ~!」


 ギルド長に事情を説明して、私は統括となって依頼を受ける冒険者を振り分ける。

 王都の依頼、報酬が高額ということもあり、冒険者は殺到。

 その殆どが顔馴染なので、適材適所の魔物に振り分けていく。

 その際に魔物の弱点や注意点、安全な戦い方をまとめたメモを渡して説明。


 すぐに危険な依頼は片付いて、数日後にはほとんどの依頼がなくなっていた。


「あぁ。私が行けてたら大量のデータが取れたのに。もったいない……」


「全く。幼い顔して恐ろしいことを言うな」

「相変わらず。可愛らしい顔をして恐ろしいことを言いますね」


 こんなチャンスは滅多になかったのに。

 もったいないことしたなぁ……。


♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢


 王都からの最後の書状は短かった。

 

『戻らずともよい。だが、困ったら頼らせてくれ。感謝する』


「随分と偉そうじゃねえか、王って奴は」


「王様ですから。感謝されただけでも最大の賛辞ですよ」


 それに、感謝されるためにやったわけじゃない。


 みんなを守りたかったから受けたこと。


 本当は魔物の生態をより詳しく調べたかったけど、今回は残念ながら……。


 書状を脇に置いて、私は地図を広げる。


「ライアスさん、明日は森の奥地に行く予定です。付き合ってもらえますか?」


「当然だ」


 戦いの準備をするために、魔物の詳細が記されたメモ帳を確認する。


 好きなことをして自由に生きる。

 魔物を倒して、知識を増やして、街の灯りを守る。

 王都でなくても、騎士団にいなくても、平和を守れる場所はある。


 風に吹かれてページがめくれた。


 そこには白い余白が広がっている。


 新しい記録のための余白。


 新しい明日のための余白。


「ふっ。楽しそうな顔しやがって」


「ライアスさんも、悪くないって顔してますよ」


 明日も楽しい一日になりそうです。

少しでも面白いと思っていただけましたら、評価やブックマークをいただけましたら幸いです。

よろしくお願いします。

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