表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/86

「勇者姫なんて呼ばないで!」

雨上がりの森。濡れた葉からぽたりと雫が落ち、静かな音が響いていた。

さっきの戦いの余韻がまだ残っている。あのまぶしい光、崩れ落ちた魔物たちの影――そして、僕の手に握られた聖剣エルセリオン。


「……こわい」

小さくつぶやき、僕は震える手を胸元に寄せた。華奢な指はまだ剣の感触を忘れられない。

自分が振るったなんて、とても信じられなかった。


「ナギ!」

駆け寄ってきたフィオナが、僕の腕をぎゅっと掴む。彼女の掌は温かくて、じんわり涙がにじむ。

「ありがとう……! あなたがいなかったら、みんな……!」

その目は本気で感謝していて、余計に心が痛む。


ドランも大きな手で僕の肩を叩いた。

「よくやったじゃねぇか! 華奢な体なのに、あんな光をぶっ放すなんてな!」

「ひゃっ……!」と情けない声が裏返る。思わず裾をぎゅっと握って、赤くなった頬を隠した。


リィナは腕を組み、そっぽを向いたまま鼻を鳴らす。

「べ、別にあんたがすごいなんて思ってないんだから。ただ……少しは見直しただけよ」

その横顔は赤くて、むしろ一番照れているのは彼女かもしれなかった。


セレスは冷静に、聖剣を見つめていた。

「やはり……伝承通りだな。“女の心を持つ者のみが聖剣を抜く”。そしてその力は、人を守ろうとするとき顕現する」

「女の心……」僕は呟く。

胸がちくりと痛んだ。だって僕は男なのに。女の子にしか見えないって笑われて、気持ち悪いって追放されて……。


そのとき、剣から声が響いた。

『むぅん! 見事な一撃だったぞ、勇者姫!』

「ゆ、勇者姫って呼ばないでよぉっ!」

顔が一気に真っ赤になる。僕は剣をぶんぶん振って否定したが、ブレードさん――聖剣エルセリオンの声は高らかに笑った。

『ははは! 可憐にして勇敢、儚げで強靭! まさしく勇者姫にふさわしいではないか!』

「ち、違うっ! 僕は……僕は男で……っ」

声が裏返り、涙目で抗議する自分が余計に情けなかった。


それでも、みんなの視線は嘲笑じゃなく、どこか温かかった。

その温もりに、胸の奥がじんわり揺れる。

――もしかして、僕は……ここにいてもいいのかな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ