プロローグ
やかましく鳴り続く目覚まし時計の音が、早朝の室内に響いていた。
「まったく…まだ眠いってのに…」
俺は、布団からゆっくりと起き上がり、騒音の元である時計のベルを止めた。
「……?」
寝ぼけ眼をこすりながら時計を見てみると、時刻はまだ7時。家を出るにはまだ早い時間だ。
家、といってもココは学園内の寮なんだがな。
…にしても何で俺、こんなに早く目覚ましかけてたんだ?
ふと机に目をやると、まだ新しい学生証が開かれていた。
そこには無表情で写る自分の顔と、無機質な文字で、天草 雄人 と記されていた。
ああ…そういや、今日から二年。新学期か。だるいな……。
俺は、まだ覚醒しきってない体を起こし、ベッドから立ち上がった。
寝違えたのか、体の各所がバキバキと鳴って痛い。正直、あまり爽快とは言えない目覚めだ。
でも今日は学校だ。いつもより起きた時間は早いが、そんな悠長にしてもいられない。
俺は洗面所で顔を洗い、髪を整える。
わりと俺は寝ぐせがつきやすいので、直すのに苦労した。
髪を整え終えた所で、自分の腹が減っているのに気付いた。
いつもは朝食を食べないんだが、仕方ない。たまには自分で作るか。
寮生は基本、学園内の食堂や購買などで買うやつが多いが、自炊するやつも少しはいる。
俺は普段は前者なのだが、今日はどうも食堂まで行く気にならん。てか、遠いし。
冷蔵庫から卵やベーコン、レタスを取りだし、簡単なベーコンエッグを作る。
我ながらなんとも味気ない。
そう思いつつ、料理を食べた。
***
「ふう…」
その後、あまり完成度の高くない朝食を食べ終えた俺は、まだ幾分か時間があったので、朝のテレビを見ていた。
画面には、真面目そうなキャスターがニュースを淡々と伝えている姿が映っていた。
チャンネルを変えてみるが、どれも同じ様な番組ばかりだ。
…つまらないな。
これは何もこの朝の番組に限った事じゃない。
最近、俺は繰り返されるだけのこの淡白な日常に少しだけ嫌気が差していた。
「何か面白い事起こらねーかな…」
俺は1人呟く。この部屋には誰もいない。発した声は反響する事もなく静寂に溶ける。
だからそれは自問自答に他ならないが、そう言う事で何かが起きる様な…そんな気がした。
『―そんなだから君は…!』
ふと、脳裏にある少女の言葉が浮かぶ。
それは、俺にとって最も言われたくない言葉で。それでも、俺を思って言ってくれた一言だった。
あまり思い出したくはない。ちょっとしたトラウマみたいなものだから。
それでもたまに思い出す。繰り返しのような日常は、否応なしにあの日の記憶を呼び覚ますのだ。
ちらりと時計に目をやると、時刻は8時45分。もうそろそろ学校に行っても良さそうな時間帯だ。
俺はカバンに道具を詰め、玄関へと向かった。
出ていく際に、壁にかけてある一枚の写真が目に入った。
幼かった頃の自分と幸せそうに笑う両親と1人の少女。
そこには確かに誰もが描く、理想の『家族』が写っていた。
未練がましいと思いつつも捨てられなかった写真だった。
俺はその写真から目を背けると、久しく言っていなかった言葉を口にした。
「いってきます。」
返事などあるはずは無く、誰もいない室内には、ドアを閉じる際の重たい音だけが響き渡った。