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アウラの声が落ち着くと同時に、帳の向こうから足音が近づいてきた。
セシルが顔を上げたそのとき、扉が静かに開かれた。
「……もう掃除は終わったかしら?」
アリシアがゆるやかな身のこなしで部屋へ入ってくる。
白いリネンの衣装を陽の光が彼女の姿を神々しく照らし、まるで神殿に祀られる像のようだった。
「お戻りですか、王妃様」
アウラが立ち上がり、軽く膝を折って頭を下げる。
「ええ。謁見はあまり長くならなかったわ」
アリシアは室内を見渡し、わずかに頷いた。
「セシル、アウラに仕事を教えてもらった?」
「はい…まだまだではありますが…」
「……あなたのその謙虚さ、時に武器になるかもしれないわね」
くすりと微笑んで、アリシアは腰かけると、アウラに振り返った。
「神殿の準備、どうなってるかしら」
「ハトシェプ様から報告がありました。神官たちはすでに祭壇の掃除と装飾に取りかかっているとのこと。香料と果実、捧げ物も午後には届くそうです」
「良かった。……じゃあ、私も様子を見に行くわ」
アリシアは立ち上がりながらセシルの方をちらりと見た。
「アウラとセシル、あなた達もいらっしゃい。王宮の中も一緒に案内するわ」
セシルは一瞬戸惑ったが、すぐに応えた。
「……はい。ご一緒させていただきます」