神と人
ある大罪人が居た。
多くの罪を犯し、多くの人間から恨みを買った彼は、ある時病魔に侵された。
因果応報という奴だろうか。
一人、寝床で苦しんでいるとそこに一人の少女が現れた。
どこから現れたのだろうか。
そんな疑問を抱く前に少女が尋ねる。
「ねえ、あなたは死にたくない?」
その問いは不思議なほどにすっと大罪人の心の奥深くにまで沁み込んだ。
理屈などではなく直感する。
彼女は人間ではないと。
故に彼は縋るような想いで答えた。
「死にたくない」
すると少女はにっこり笑って言った。
「叶えてあげる。その願いを」
そう言うと同時に彼女はすっと姿を消した。
その三日後。
大罪人は息を引き取った。
その遺体は回収されるとそのまま集団墓地へと埋葬された。
しかし。
大罪人の身体は死んでいたが心はまだ死んでいなかった。
彼は自らの身体が痛み、腐っていくのを感じながらも、指一つ動かす事が出来ず、そのまま暗い墓地の中で目を見開いていた。
何がどうなっているのか分からないまま彼は助けを求めようと声を出そうとしたが、体が死んでいるためにそれは叶わなかった。
身体は動かず、声も出せず、何も出来ないのに心だけが残っている。
パニックになって叫ぼうにも声は出ない。
暴れようにも身体は動かない。
一体何なのだ、この状況は。
そんな最中。
ふと蘇る三日前の記憶。
『叶えてあげる。その願いを』
あの少女はそう言った。
確かにこの状態は『死んでいない』と言える。
だとするならば自分は一体いつまで生き続けるのだ?
発狂しそうになる中で大罪人は必死に何かが変わるのを願い続けた。
無駄だった。
永久に。
ところ変わって、とある司祭があの少女の下へやってきた。
彼女は司祭を見ると笑顔で手を振り尋ねてくる。
「どうしたの?」
司祭は冷たい言葉で言った。
「あの者の死を奪っただろう」
「うん。あの人、それを願ったから」
悪びれもなく返された言葉に司祭は僅かばかり沈黙していた。
何を言えば良いのだろうか。
例えば、あの男は大罪人であったがここまでする必要はなかったとでも言えば良いだろうか。
それとも、人の命をなんだと思っているのだと感情に任せて怒鳴り散らせばいいのだろうか。
悩んだ末に出た言葉はあまりにも惨めなものだった。
「人は人が裁く。人の世界に手を出すな」
すると少女は不思議そうに問う。
「私が間違っていると言うの?」
司祭は閉口する。
それは答えに窮したからではない。
「神である私と人であるあなた。どちらが正しいと思う? 人間であるあなたが神である私を否定するの?」
この逃れようのない事実にひれ伏すしかないからだ。
司祭は無言のまま踵を返して少女の下を去った。
そうだ。
人と神では間違いなく神の方が正しい。
何故なら、人は神よりも劣ったものであるのだから。
だが、しかし。
この言いようのない気持ちは何であるのだろうか?
神に対して抱くべきではないどす黒い気持ちをため息と共に吐き出して司祭はそのまま教会へ戻った。