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第五話

 さて、蘭姫様の問題が一つ解決をしたが、今後の成長は見守る必要があるだろう。


 俺としてはどこで蘭姫様が癇癪姫になってしまうのか、未だに見極められないが、それでも現状の蘭姫様は、幼女として愛らしくて、このまま健やかに育って欲しいと思う。


 次の問題として、美波藩の劣悪な環境を改善しなければいけない。


 蘭姫様の相手をしながらも、溜まっていた仕事は片付ける必要がある。


 現状の美波藩は最低最悪な状況だ。


 強引に年貢を納めさせて、藩主や家老は潤っているが、民の中では飢えて死ぬ者が出ている。


 すでに劣悪な環境が完成しつつある。


 藩主である美波藩主夫婦は、娘を城に残して江戸暮らし。

 年貢だけを搾り取って、自分たちは好き勝手に遊び暮らしていやがる。


 また、家老や商人なども、藩主がいないのを良いことに、好き勝手に財政を圧迫して、私腹を肥していた。


 さらに城下町を守るはずの結界まで、予算が足りていないということで後回しにされていた。


 ここまで最悪な環境で、代官としての仕事を回されれば嫌気がさしてしまうのも頷ける。


 悪代官である桜木鷹之丞が悪いのではなく、美波藩全体が腐っていた。


 そう思えば、凡人ながらも桜木家の父上や、同心たちがなんとか財政を整えて、藩として成立していたことが奇跡とも思えてくる。


 このままではお取り潰しになるか、赤字藩としてブラックリストに乗るだけだ。


「美波藩の主な収入源は、農作物と浜辺で取れる海産物。悪くはないが、大きな利益にはなっていない。逆に負の財産と呼ぶべきは遊廓だな」


 江戸幕府では、藩主にある程度の裁量を任せて藩の運営をさせている。


 そのため美波班は10万石という中堅の藩として、普通に生活をしていれば何の問題もなかった。


 だが、劣悪な環境になってしまった財政を圧迫した要因として、三つの出来事がある。


 1、藩主が江戸で遊ぶことを覚えて、藩のお金を使い込んでいる。

 2、藩主が、江戸で楽しかった遊郭を自分の藩でも再現しようとして、失敗したが、それによって集められた遊女たちを放置。(藩主が中途半端に政策を進めているので、年貢から現在も支払いを行なわれている)

 3、度重なる藩主の行いによって、財政が回らなくなり、皺寄せを受けた民への年貢が厳しくなり、餓死者によって人口が減少している。


 この三つが美波藩の諸悪の根源として、今でも蔓延っている。


 というか原因は一つだ。


 全ては藩主が悪い。


 あの醜く太ったデブが諸悪の根源だった。


 藩主を罰することは、江戸幕府に頼まなくてはいけない。

 だが、今すぐに動いてくれるかと言えばそうではない。


 江戸幕府にとっては傀儡として、美波藩主は使い勝手が良い。

 むしろ、遊び呆けて勝手に借金を作り、幕府に泣きついて、奴隷のように働く方が便利な道具に成り下がるのだ。


「最悪過ぎるだろうが!」


 なんとか蘭姫様の教育だけでも、梅婆の手腕で変えることが出来れば未来への憂いは一つ取り去れる。


「新之助! 藩内を見回る! 馬を出せ」

「はっ!」


 俺は城下町を見るために馬を走らせる。


 城近くには、商人や同心などの家があり、まだ見ることができる程度の生活を送っていた。さらに陰陽術で作られた結界も保たれている。


 だが、さらに城下を降れば、整備されていない土のぬかるんだ道路に、お世辞にも綺麗とは言えない街並み。結界には綻びが見られ、妖怪や鬼の侵入を許してしまう。


 城下町の端に辿り着けば、農民が寝泊まりする長屋が立ち並ぶ区域に入り、街の匂いが腐敗臭が増えて、臭くて敵わん状態になっていた。


「これは!」

「飢饉や流行病で死んだ者の処理を行えていないのです」


 城下町でこの状態では、農民として、城下町の外で暮らす者たちはどうなっている? というか放置された遺体は屍鬼として鬼化してしまうのにそれを知らないのか?


「与力を雇ってすぐに街の整備をさせよ。陰陽師を呼んで結界の張り直しもだ」

「はっ!」


 新之助は、俺の指示を聞くとすぐに同心に呼びかけて、与力を雇って死体を集めて火にかけてくれた。

 

 さらに、川の汚染を止めるために、川を綺麗にするために農民に協力させて清掃が行われた。


 これはかなりの大仕事だが、まずは街の整備から始めなくちゃいけない。



「皆の者よ! よくぞ働いてくれた。まずは腹を満たすがいい」


 年貢を預かる倉を開いて、何かあった際に集められた米を町民たちに振る舞う。

 これには死んだ魚のような目をしていた者たちも集まってきて、必死に腹に収めた。


「皆の者よ! 聞いてくれ。現在、美波藩は未曾有の危機に瀕している。我は此度、美波藩の代官に就任した桜木鷹之丞と申す。三日に一度だが、こうして米の提供を行う。そのため日々は稗や粟を主食にして、魚や野菜を取れ。どうか生きてくれ。貴殿らこそが美波藩の宝だ!」


 俺の言葉に農民や町民は涙を流して平伏してくれた。


 年貢の取り立ては藩主に送る分も有るので、全てを使うことはできない。

 だが、桜木家が多少割りを食うだけで、町民に恩を感じてもらえれば安いものだ。


 だが、甘い顔ばかりをしていると、俺のような小僧は舐められることもわかっている。


「我は必ず約束を守る。だからこそ願う。町民よ、今よりも働け。農民も働け。漁師も働け。貴殿らが働くことで、皆が手に手を取り合って生き残るのだ。その輪を乱す者が入れば我に言うがいい。ちゃんとした調査を行って沙汰を言い渡してくれる」


 俺は近くにあった細い木を一刀両断する。


 以蔵先生の教えで、剣術を初めて一ヶ月が過ぎて、これぐらいの芸当なら俺にもできるようになった。


 ありがたいことに桜木鷹之丞の体は優秀で武芸に秀でた体をしていた。


 目の前で行ったことはパフォーマンスだが、復讐や、武士の気持ちで切り捨てごめんと殺される町民や農民は大勢いた時代だ。


 俺が本気で望んでいることがわかれば、多少は動いてくれるだろ。


「ほっ、本当に働けば米を食わしてくれるのか?」


 それは幼い少年だった。

 瘦せ細ってお世辞にも健康そうには見えない。


「この美波藩代官、桜木鷹之丞が約束したのだ。武士に二言はない」

「わかった。働く!」

「うむ。皆も聞いたな。武士に二言はない。もしも、怠けたり、輪を乱すならば、切り捨てる。覚悟しておけ」


 沈黙していた町民たちが、一斉に歓声を上げる。


「桜木鷹之丞様バンザイ!」

「桜木鷹之丞様バンザイ!」

「桜木鷹之丞様バンザイ!」


 口々に俺を称賛する言葉が上がり、俺はいくつかの各区を回って同じことを繰り返した。


 これでどれだけの人間が働くのかわからない。

 だが、確実に脱落者や輪を乱す者は現れる。


 その時には処罰を与えなければいけない。


 気は重くはあるが、これは未来の大勢を守るために必要なことなんだ。

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