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ゲンの拳骨  作者: 糸東 甚九郎(しとう じんくろう)
49/51

其の四十九  師範となった二人の再会

 平成九年、夏。


「・・・・・・――――あれから、来年で十年経っちまうなぁ・・・・・・」

「そうかぁ・・・・・・。千草さんが亡くなって、もう、そんな経つんだっぺか・・・・・・」


 ゲンは、中学生の全国空手道選手権の会場で、島村と久々に再会した。

 競技の合間、二人は自販機コーナーで茶を飲みながら、しみじみと話をしている。


「千草さんが亡くなったって聞いた時は、信じらんなかったっぺよ。あの時、五十八歳だったんだっぺや? まぁだ早すぎた・・・・・・」


 島村は残念そうに、そう言った。


「真っ先に吹っ飛んできてくれたのは島村だったなや。近くにいる神宮司家や早乙女家の者より、島村が一番早く弔問に来たんだったな」

「そりゃ、そうだっぺよぉ・・・・・・。あぁ、思い出しただけでも、涙が出てくっぺ」

「青川のやつにも、島村が連絡してくれたんだったな。その節はいろいろ世話かけて悪かったべ」

「悪いことあっかや。・・・・・・青川は、号泣してたなぁ。あいつ、東京にいた頃に千草さんと知り合ってから、ずっと気に入ってたみたいだしな。葬式じゃゲンよりも泣いてたっぺ」

「えれぇ迷惑な泣き方だったな、青川の奴は。あいつが千草の旦那と間違われそうだったんだぞ」

「それぐらい、千草さんが亡くなったのが衝撃だったんだっぺ。百合紅葉で千草さんと同期だったあの二人も来てたけど、突然のことだったから、言葉を失ってた。ショックだったっぺね・・・・・・」

「式中はあの二人も、ずぅーっと泣いてたかんなぁ・・・・・・。千草は、みんなから好かれてたんだ。あの葬式の時の弔問客全員、千草のために涙をからっぽにしてくれたんだ・・・・・・」


 そこへ、中学三年生になったゲンの孫娘が、ひたひたと足音を立ててやってきた。


「こんなとこにいた。・・・・・・じーちゃん。午後の試合に向けて、動き、見て欲しいんだけど?」

「あー、もうちょいしたら行くから、先に身体あっためとけや。他の二人にも言っとけー」


 孫娘は「わかった」と返事し、白い道着の裾を手で整え、廊下の方へ歩いていった。

 その顔立ちと雰囲気に、島村は「千草さんに似てんなぁ」と、驚いている。


「自分でも最近、思うよ。・・・・・・ありゃ早生まれで、今度の二月で十五になんだわ。初めて会った時の千草が十九だから、どんどん似てきてる、ってな。・・・・・・性格もどことなく、似てんだわ」


 ゲンはふっと笑い、廊下の方を見つめている。

 島村は「孫のが千草さんより気が強そうだっぺがな」と、笑っている。


「しかしまぁ、今や本当にお互い道場主だとはな。・・・・・・手塩に掛けて仕込んだ互いの孫娘や弟子が、こうして相見えるなんて、こりゃまた楽しかんべ。・・・・・・なぁ、島村?」

「血の雨が降る本当の戦じゃなく、こういう戦いだったら、うちの海道館(かいどうかん)道場(どうじょう)は大歓迎だっぺ」

「千草も、どっかで見ててくれてっかもしんねぇべな。・・・・・・さぁて、そろそろ行くとすんべか」

「互いの孫娘が同じ年齢で、全国大会で会えるなんて、数奇な運命だっぺよ、ゲン」


 ゲンと島村は互いの拳をこつんと合わせ、それぞれの孫娘や弟子が待つ方へと歩いていった。


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― 新着の感想 ―
ゲン、元気だなあ。 千草より少し年嵩だから現在七十くらい? それでまだ道場主をしてるのか、島村も。
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