其の三十五 二〇隊
暗い闇の中で、がごんという重い音がした。
数秒後、ばすっという音と共に、マッチの火による朱色の光がぼわりと丸く広がった。
「よし! さすがに誰もおらんな。・・・・・・早乙女! 島村! 早く来い」
青川は格子状の蓋を手で退かし、筒状の四角いダクト口から小さな保管室へと降りた。続いて、ゲンと島村がそこへ降りた。
地下保管庫は狭く、店に並べられる前の様々な商品が梱包されたまま置かれている。
「かー。狭ぇダクトだったぜ。清掃人に委託もしてねぇんだな? ホコリだらけだ」
「ゲンに言われるまで、おらは完全に失念してたよ。自分らでやった工事なのに、ここから水引屋内に入る発想は、まったく頭に無かったっぺ」
「島村はあれからもあっちゃこっちゃ現場をやってたんだろ? なら、しゃーねーべ」
「とにかくこれで、水引屋には入り込めた。あとは、六階にいる神宮司千草さんを救い出すのと、板内の蛮行を少しでも早くやめさせなくてはな」
「ああ、そうだな。・・・・・・青川、この保管庫の上は・・・・・・一階の何売り場なんだや?」
「確か、反物や着物の類だったと思うが・・・・・・。それがしも、そこまで詳しくは・・・・・・」
「ま、蓋を開けてのお楽しみ、ってことか。・・・・・・うっしゃ、行くか!」
「一階に出る蓋はあれだ、ゲン」
ゲンは暗闇の中で「よぉし」と腕をぐるりと回し、数段ある階段をゆっくりと踏みながら蓋を少し押し上げた。
「(どうだ、早乙女? 敵はいるか?)」
きょろきょろと、細い隙間からゲンは周囲の様子を確認。
「だいじだ! 運良く誰もいねぇ!」
「・・・・・・ふぅ。やるだけ、やるしかなかっぺな。・・・・・・絶対、死んだりしねぇぞ!」
島村はゲンの後ろで、何度も深呼吸して気持ちを落ち着かせている。
「一気に押し上げるぜ。いいか、二人とも!」
ゲンの言葉に青川と島村は「了解!」と小声で返事をした。
保管庫の蓋はぐいと押し上げられ、ゲンが素速く出るとすぐに青川、島村が続いた。
「・・・・・・廊下の向こうから声がする。黒曜団の連中がいやがるな!」
「早乙女。敵連中は銃火器を持っているはずだ。それと・・・・・・それがしたちは、水引屋の階層構造はわかっている。だが、それは板内も・・・・・・」
「・・・・・・なるほど。確かにそうだ。あの野郎も、同じ工事に携わってたんだからな」
「ああ。もしかすると、それがしたちがどう動いてくるかも・・・・・・」
青川はやや、苦い表情をした。島村は「・・・・・・バレる恐れもあるな」と、青ざめる。
ゲンは真顔になって少し、考え込んだ。
廊下の向こうからは、少しずつ、黒曜団員数名の影が近づいてきている。
* * * * *
その頃、板内は六階に戻り、副木、立波、屯の三人も同階に集めていた。
「――――・・・・・・と、いうわけだ。屯は引き続き、屋上で黒気球作戦の遂行準備に当たれ。副木は三階に行き、四階へ繋がる階段を団員で封鎖させよ。立波はここで、檜垣と共に人質を見張れ!」
三人はぴしっと背筋を正し、「了解!」と一礼。だが、檜垣はやや首を傾げている。
「団長ぉ? 一階や二階はこのまま、ヒラ団員に任せておいて良いんでありんすか? あの早乙女源五郎が侵入したとあらば、生半可な者では、敵わないと思いますえ?」
「案ずるな檜垣よ。団員には銃火器類や軍刀も与えておる。仮に早乙女が二階を突破しても、三階の副木相手では、まともな身体でいられないだろう。身共のいるここまでは、五体満足で上がってくることは不可能だ。ふっふっふ・・・・・・」
「押忍! お任せ下さい、板内団長! 自分が、早乙女源五郎など簡単に叩き伏せてきます!」
「ああ、任せたぞ。身共は吉報を待つ。では、行け!」
「押忍!」
「んじゃわても、屋上へ戻るだにー」
副木と屯は、それぞれの場所へと散っていった。
「団長。そういやぁ、屯の奴はどこであんな兵器の知識を? 復員兵とはいえ、詳しすぎますぜ」
「知りたいか、立波」
「ええ、気になります」
「屯は、軍隊時代に化学兵器や新兵器開発に携わる工廠として従事しておったのだ。かの特殊化学部隊と呼ばれた、一二三部隊というやつだ」
「いっ、一二三部隊ですかい! そ、そいつは、確かに納得・・・・・・」
「今でこそ、東洋江建築の技術員として働いている屯だが、身共が社に属している頃から、一二三部隊で培ったものをいつか活かしたいと言っていてな・・・・・・。こうして、黒曜団の準団員として尽くしてもらっているというわけだ」
「一二三部隊については、おれも戦中に部隊仲間から存在は聞いたことがありやしたが・・・・・・。まさか屯がその隊員だったとは。同じ軍内でも、所属していることは箝口令が布かれていたと」
「ああ、そうだ。帝国軍の者でさえ、その存在は噂程度でしか知らぬ。詳細は極秘だったからな」
「そう言えば・・・・・・だ、団長は、どちらの部隊だったんですかい? 確か、人間魚雷に・・・・・・」
「身共は余戸浜海軍蓮水二〇隊だ。早乙女らのいた南方防戦四〇八部隊の上部隊だったのだ」
「そ、そうだったんですかい! だったら尚更、上部隊の団長が下部隊のモンをシメんのは当然ですな! あの、早乙女源五郎を、我々の火力でバラバラに粉砕してやりましょうや!」
勢いづく立波に、板内は「ここに来られればの話だがな」と笑っている。
「(源五郎さんは、こんな人たちに負けない! ・・・・・・信じてます。源五郎さん・・・・・・)」
千草は縄の状態を気にしつつ、板内らの話に耳をずっと傾けていた。




