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ゲンの拳骨  作者: 糸東 甚九郎(しとう じんくろう)
35/51

其の三十五  二〇隊

 暗い闇の中で、がごんという重い音がした。

 数秒後、ばすっという音と共に、マッチの火による朱色の光がぼわりと丸く広がった。


「よし! さすがに誰もおらんな。・・・・・・早乙女! 島村! 早く来い」


 青川は格子状の蓋を手で退かし、筒状の四角いダクト口から小さな保管室へと降りた。続いて、ゲンと島村がそこへ降りた。

 地下保管庫は狭く、店に並べられる前の様々な商品が梱包されたまま置かれている。


「かー。狭ぇダクトだったぜ。清掃人に委託もしてねぇんだな? ホコリだらけだ」

「ゲンに言われるまで、おらは完全に失念してたよ。自分らでやった工事なのに、ここから水引屋内に入る発想は、まったく頭に無かったっぺ」

「島村はあれからもあっちゃこっちゃ現場をやってたんだろ? なら、しゃーねーべ」

「とにかくこれで、水引屋には入り込めた。あとは、六階にいる神宮司千草さんを救い出すのと、板内の蛮行を少しでも早くやめさせなくてはな」

「ああ、そうだな。・・・・・・青川、この保管庫の上は・・・・・・一階の何売り場なんだや?」

「確か、反物や着物の類だったと思うが・・・・・・。それがしも、そこまで詳しくは・・・・・・」

「ま、蓋を開けてのお楽しみ、ってことか。・・・・・・うっしゃ、行くか!」

「一階に出る蓋はあれだ、ゲン」


 ゲンは暗闇の中で「よぉし」と腕をぐるりと回し、数段ある階段をゆっくりと踏みながら蓋を少し押し上げた。


「(どうだ、早乙女? 敵はいるか?)」


 きょろきょろと、細い隙間からゲンは周囲の様子を確認。


「だいじだ! 運良く誰もいねぇ!」

「・・・・・・ふぅ。やるだけ、やるしかなかっぺな。・・・・・・絶対、死んだりしねぇぞ!」


 島村はゲンの後ろで、何度も深呼吸して気持ちを落ち着かせている。


「一気に押し上げるぜ。いいか、二人とも!」


 ゲンの言葉に青川と島村は「了解!」と小声で返事をした。

 保管庫の蓋はぐいと押し上げられ、ゲンが素速く出るとすぐに青川、島村が続いた。


「・・・・・・廊下の向こうから声がする。黒曜団の連中がいやがるな!」

「早乙女。敵連中は銃火器を持っているはずだ。それと・・・・・・それがしたちは、水引屋の階層構造はわかっている。だが、それは板内も・・・・・・」

「・・・・・・なるほど。確かにそうだ。あの野郎も、同じ工事に携わってたんだからな」

「ああ。もしかすると、それがしたちがどう動いてくるかも・・・・・・」


 青川はやや、苦い表情をした。島村は「・・・・・・バレる恐れもあるな」と、青ざめる。

 ゲンは真顔になって少し、考え込んだ。

 廊下の向こうからは、少しずつ、黒曜団員数名の影が近づいてきている。


 * * * * *


 その頃、板内は六階に戻り、副木、立波、屯の三人も同階に集めていた。


「――――・・・・・・と、いうわけだ。屯は引き続き、屋上で黒気球作戦の遂行準備に当たれ。副木は三階に行き、四階へ繋がる階段を団員で封鎖させよ。立波はここで、檜垣と共に人質を見張れ!」


 三人はぴしっと背筋を正し、「了解!」と一礼。だが、檜垣はやや首を傾げている。


「団長ぉ? 一階や二階はこのまま、ヒラ団員に任せておいて良いんでありんすか? あの早乙女源五郎が侵入したとあらば、生半可な者では、敵わないと思いますえ?」

「案ずるな檜垣よ。団員には銃火器類や軍刀も与えておる。仮に早乙女が二階を突破しても、三階の副木相手では、まともな身体でいられないだろう。身共のいるここまでは、五体満足で上がってくることは不可能だ。ふっふっふ・・・・・・」

「押忍! お任せ下さい、板内団長! 自分が、早乙女源五郎など簡単に叩き伏せてきます!」

「ああ、任せたぞ。身共は吉報を待つ。では、行け!」

「押忍!」

「んじゃわても、屋上へ戻るだにー」


 副木と屯は、それぞれの場所へと散っていった。


「団長。そういやぁ、屯の奴はどこであんな兵器の知識を? 復員兵とはいえ、詳しすぎますぜ」

「知りたいか、立波」

「ええ、気になります」

「屯は、軍隊時代に化学兵器や新兵器開発に携わる工廠(こうしょう)として従事しておったのだ。かの特殊化学部隊と呼ばれた、一二三(イチニーサン)部隊というやつだ」

「いっ、一二三部隊ですかい! そ、そいつは、確かに納得・・・・・・」

「今でこそ、東洋江建築の技術員として働いている屯だが、身共が社に属している頃から、一二三部隊で培ったものをいつか活かしたいと言っていてな・・・・・・。こうして、黒曜団の準団員として尽くしてもらっているというわけだ」

「一二三部隊については、おれも戦中に部隊仲間から存在は聞いたことがありやしたが・・・・・・。まさか屯がその隊員だったとは。同じ軍内でも、所属していることは箝口令が布かれていたと」

「ああ、そうだ。帝国軍の者でさえ、その存在は噂程度でしか知らぬ。詳細は極秘だったからな」

「そう言えば・・・・・・だ、団長は、どちらの部隊だったんですかい? 確か、人間魚雷に・・・・・・」

「身共は余戸浜海軍蓮水二〇隊よこはまかいぐんはすみニーマルたいだ。早乙女らのいた南方防戦四〇八部隊の上部隊だったのだ」

「そ、そうだったんですかい! だったら尚更、上部隊の団長が下部隊のモンをシメんのは当然ですな! あの、早乙女源五郎を、我々の火力でバラバラに粉砕してやりましょうや!」


 勢いづく立波に、板内は「ここに来られればの話だがな」と笑っている。


「(源五郎さんは、こんな人たちに負けない! ・・・・・・信じてます。源五郎さん・・・・・・)」


 千草は縄の状態を気にしつつ、板内らの話に耳をずっと傾けていた。


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― 新着の感想 ―
まさかの手作り兵器! いやまあ、一点物は大抵手作りなんだけど。オリジナルでも真似っこでも、量産品でなければこの時代は手作りなんだろうけど! …………ジャム、多そうだなあ。
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