其の三十四 正面突破か、それとも・・・・・・
ゲンは屋上から放たれる回転銃砲機や、各階から飛んでくるアームストロング砲の弾に、手をこまねいていた。
「くそったれ! これじゃ、千草さんを助けようにも、水引屋の中へ入れやしねぇべ!」
「落ち着け、ゲン。考えろ。とにかく、考えるんだ。必ず突破口は・・・・・・」
近くの建物の陰に隠れたゲンと島村は、何とか水引屋の中へ突入できないかと様子を常に窺っている。しかし、黒曜団が周囲に向けている銃口の数は多く、隙を見出せない。
「くっそぉ! こうしている間にも、千草さんは・・・・・・」
ゲンはぶつけようのない怒りを、足下のモルタル片にぶつけた。モルタル片はゲンの拳で粉々に砕け散った。
「何たるザマだ。情けないな、早乙女!」
「何だと!」
「誰だっぺ?」
突如、後ろから誰かが二人に声をかけた。そこには、下駄履き姿の大柄な男が立っていた。
「あ、青川っ! おめぇ・・・・・・」
「ど、どうしたんだっぺか!」
「どうしたもこうしたもない。それがしも、この大騒動に、居ても立ってもいられなくなったというわけだ。神宮司千草さんを救えば、きっと、それがしに想いを寄せて夫婦になってくれるであろうからな! がっはっはっは!」
「相変わらずバカな思考回路だ・・・・・・。だがよ、青川? 俺が思ってた以上に、板内らの兵力が凄まじいんだ! 水引屋の中に入らねぇことには、千草さんを救い出せねぇ!」
「早乙女。それがしは、水引屋の正面は警官隊に任せればいいと思うぞ」
「警官隊だって、ああして並んで盾を構えてるだけで精一杯だっぺ。進駐軍もあっけなくあいつらの兵器で撃たれて死んじまったんだ。水引屋に向かって突撃したら、間違いなく十死零生は確実だっぺよ」
「十死零生だと? 島村、何を言っているんだ。それがしは、あの銃弾や砲弾の嵐に特攻せよと言っているのではないぞ? ・・・・・・早乙女も島村も、忘れたのか? 水引屋は、それがし達が築いた建物であることを」
青川は得意気な表情で、足下に砂と土を寄せ、指で図を描き始めた。
「――――・・・・・・で、この地下保管庫の蓋を下から起こせば、水引屋一階の荷受け室に出る」
「な、なるほど! 思い出したぜ! 確かに、それなら入り込めらぁ! 地下保管庫を工事したのは、俺らだったなぁ! 懐かしいぜ!」
「懐かしんでる場合じゃなかっぺ、ゲン! 問題は、地下保管庫にどう入り込むかだよ」
するとゲンは、水引屋の隣にあるビルを指差した。
「忘れちまったか、島村? 水引屋と隣のビルは、地下保管庫の通排気孔は繋がってんだぞ」
「あ! そ、そうかっ! あの通排気孔のダクトなら、おらたちの体躯でもギリギリ通れっぺ!」
「そういうこった! ・・・・・・悪ぃな、青川。おめぇが来てくんなかったら、俺ぁ正面から突っ込んでの特攻じみたこと、やったかもしんねぇ」
ゲンは青川の肩をぽんと叩き、「色々ぶっとばして悪かったな」と頭を下げた。
「礼はあとだ、早乙女! とにかく、今早乙女が言った通り、隣のビルから潜り込もう」
「よ、よし。そうだな! ・・・・・・こりゃ、まるで戦争だっぺ。戦後四年経つのに、またこんなことになるなんてなぁ」
「愚痴言ってても始まんねぇぞ、島村! 板内らは、千草さんを無事なままでいさせるとは限らねぇ! とにかく、行こう!」
「それがしは、この作戦に神宮司千草さんと良き関係になるかどうかが懸かっているのだ! 必ずや、救い出してみせる!」
「ばか。まだそんなこと言ってんのけ! とにかく、あっちに回り込んで入り込む準備だ!」
ゲン、島村、青川の三人は、黒曜団から見えないように身を屈め、瓦礫片や街路樹の枝で顔や身体を隠しながら警官隊の後ろをこそこそと動き、水引屋の隣のビルへと向かう。
その様子に、金藤が真っ先に気付いた。
「(え! ちょ、ちょっと、先輩たち? 何やってるんですか! 危険ですよ!)」
「(ばか! 金藤はそっちで警察の仕事してろ! 板内らに気付かれちまうべよ! こっち来んな)」
「(さ、三人で何を! どこに行く気ですか!)」
「(いいから、おめぇは何も見なかったことにしろ! 俺ぁ、千草さんを救いに行く)」
「(む、無理ですよ! あの銃弾の中、どうやって行くつもりですか!)」
「(そっちからは行かねぇ! いーぃから、とにかく俺らのことは放っとけ! あっち行け)」
「(ほ、放っとけと言われてもー・・・・・・。あー、もー・・・・・・。先輩と絡むと、本官はいつもこんな役回りばかりだなぁ・・・・・・)」
金藤は呆れたような溜め息をついて「死なないで下さいよ」と言い、警官隊の列へ戻った。
「ありがとな、金藤! 千草さんを助け出したら、おめぇも交えて飲みの席でも設けてやるぜ!」
「よし、行くぞ早乙女!」
「ゲン、早く早く!」
「おぅ!」
三人は、燃えさかる焔や瓦礫の間を抜け、うまく隠れながら隣のビルへ入っていった。
各階の窓から銃口やアームストロング砲を外に向けた黒曜団員たちには、気付かれていない。
警官隊の隊長が、「閃光弾準備!」「放水隊、戦闘準備!」「捕縛隊、配置につけ!」という各号令を全体に出した。すると警官隊の後ろに、水のタンクを積んだ大型の車両が数台到着。
「こりゃあ・・・・・・大戦の再来だ。戦後に武装解除されたけど、完全に、戦場の雰囲気だ・・・・・・」
金藤は、ごくりと生唾を飲み込んだ。
「(先輩たち・・・・・・。いったい、何する気なんですか? まさか黒曜団を、自分たちで?)」
次の作戦準備を整えた警官隊と黒曜団の睨み合いは、なおも続く。




