其の二十二 板内の笑み
水引屋内を、数名の男が歩いている。黒曜団の板内たちだ。
「押忍! 板内団長! 確認完了しました! どの部分も、しっかりと、準備されております!」
「団長。確認漏れはなさそうですぞい? どこも、しっかりと準備されておりますぞい!」
「ご苦労。・・・・・・身共が手がけたこの水引屋だ。隅々まで熟知しておる」
「押忍! さすが、団長であります!」
「あれだけ準備されていれば、間違いなく、華を飾ることができますぞい!」
副木と立波は、板内の左右で店内を見回している。
板内は「まもなく指示するからな」と、売り物の紙風船と線香花火を手に取り、笑っている。
そこへ、ヘルメットを被ったちょび髭の中年男性が駆けてきた。
「へぇ、へぇ、へぇ。・・・・・・板内さま。屋上の準備を、先程、終えてきゃーしたがね! いつでも、号令がありゃー、わてがやりますわいな!」
「そうか。わかった。・・・・・・お主も、正式な黒曜団員ではないにも関わらず、このような作業を依頼してすまない。ご苦労だったな」
「へぇ、へぇ! この屯殿平にかかりゃー、あの程度の仕掛けは、朝飯前だぎゃーね! 東洋江建築より、板内さまの仕事の方が、下請けしても金がぎょーさん貰えて嬉しいもんだぎゃ!」
屯というヘルメットの男は、手に持ったスパナをくるりくるくると回し、下品に笑う。
「副木、立波、そして屯。・・・・・・身共に賛同してくれたこと、恩に着るぞ」
「押忍! 自分はぁ、板内団長に人生を捧げたであります! この国を憂い、団長と共に、素晴らしき国へと進化させるであります!」
「おれも同じでありますな。団長。恩を感じているのは、我々の方ですぞい」
板内の前で、副木と立波は片膝立ちとなり、跪いた。
屯は、「わてはまだ作業が」と言い、板内にぺこりと頭を下げて、どこかへ行ってしまった。
すると、屯と入れ替わるようにして、前から檜垣が歩いてきた。
「檜垣・・・・・・。その顔は、もう、万全ということでよいのだな?」
「はぁい! 完全に、モノは揃ったようですわ。いつでも、始められるでありんす」
「そうか。・・・・・・ふむ」
副木と立波は直立不動で、静かに板内の後ろで待っている。
「団長。いよいよでありんすねぇ? この国の新たな再興に大きな華を添えて、それはもう盛大に歴史の転換点を見届けたいと思うでありんす」
「檜垣もこれまで、戦前も戦後もこの国の脆弱な部分や闇を、葦原遊郭街から幾度となく見てきたことだろう。敵国に骨抜きにされた脆弱な傀儡政府など、信用ならんからな。黒曜団は、強き善き日本の姿を尊んで華を添え、もう一度その栄華を興すことができるのである」
板内は鋭い瞳を輝かせ、檜垣に気迫の篭もった笑みを見せた。
副木と立波は「さすが団長!」と板内を讃え、床に手を付いてその場で跪いた。