其の十九 とばっちりではないのか
「え! な、なんですって! そ、それは・・・・・・どういう・・・・・・」
数日後、島村は東洋江建築の部屋の一隅で、烏丸に呼び出されていた。
「どうもこうもない! 島村! お前、青川があの早乙女に暴力を振るわれることを、黙ってその場で見て見ぬ振りをしていたそうではないか! そんな野蛮な件に関わったことは、大問題だ!」
「待って下さい! 誤解だっぺ! あ、あれは、青川・・・・・・・主任が、ゲンに決闘を申し込んで、おらはそれの立会人ってことで・・・・・・」
「決闘などという時代錯誤なこと、法律で禁止になっているのは知っているだろう! 青川本人もケガをして現場にしばらく出られん。作業現場にも支障が出ているんだ! 青川も怒っている!」
「そ、そう言われても・・・・・・。ゲンに手紙まで送りつけて、自ら勝負を挑んだのは、青川主任ですよ? なのに、それでケガしたからと言って、怒ってるって言われても、ちょっと、わけがわかんねぇっぺよ・・・・・・」
「黙れ! 島村は、自分の立場がわかっていないようだ。お前は我が社の社員なのだぞ? 同じ社員の、しかも立場が上である青川がそんな状況であったのに、お前は止めることもせず早乙女側の肩を持つとは、言語道断だ! 社内倫理規定に基づき、お前は、それ相応の処分になるぞ!」
「そっ、そんなばかな! おらは・・・・・・」
「言い訳はいい! だいたい、水引屋グループと我が社のいい縁となるはずだったものを、追い出した早乙女に横槍を入れられたようなものだ。それをお前も黙って見過ごしたも同然なのだから、我が社に背いたも同じ事だ! ・・・・・・近日、処分が下る。それまでお前は、謹慎とする!」
「ま、待って下さい烏丸専務! あれは休日のことだし、おらは別に・・・・・・」
「うるさい! 話は終わりだ!」
烏丸は丸めた新聞紙で壁をばしんと叩くと、強い足取りで靴の音を響かせ、専務室へと戻っていった。
「な、なんなんだよ。・・・・・・青川がゲンに負けたのは、実力差だっぺよ。なんで・・・・・・」
島村は項垂れて、床の継ぎ目をじっと見ている。
廊下の天井から吊された電球は、チカリチカリと明滅し、点いては消え、消えては点きを繰り返している。
そこで立ったままでしばらく俯いていた島村のもとへ、女性の事務員が小さな封筒を持って寄ってきた。
「・・・・・・あ、いたいた。島村さん? 総務課に手紙が届いてましたよ?」
「え? あ、ああ、はい。ありがとう。・・・・・・何だっぺ?」
島村は事務員から封筒を受け取り、その後ろの差出人名を見た。それは茨城の実家からだった。
「ん? 何だっぺか? ・・・・・・。・・・・・・え! な、なんちゅう・・・・・・。どうすっぺかなぁ・・・・・・」
中の手紙を読んだ島村は、表情を曇らせ、その場で頭を抱えてしまった。