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ほんの少しの緩和

ステラと陽気な侍女は時々シリウス王子と孤児院に行っている。

教室には入れないので庭でアリッサと待っている間におしゃべりを楽しんでいる。

お互い家族に会いたい寂しさを紛らわすことが出来るだけでも幸せなのかも知れない。


半年が過ぎた頃初めて王弟殿下を見ることが出来た。

離れた場所から頭を下げていたのではっきりとは見えなかったが夫のように大柄で騎士の様に逞しい風貌だった気がする。


「素敵よね、もっとお側でご挨拶したいわ。」

「よく見えなかったわ、でも国王とは似ていないのね。」

「好みの問題だけど王弟殿下はすっごくモテたらしいわよ。独身の今もらしいけど。でも国王が怖くて再婚は難しいって噂なの。今は正妃に夢中だからいいけれど気まぐれだからね。」

「正妃様も無理矢理嫁がされたの?」

「それがね、自らなんだって!何処が良かったのかしら。」


自ら嫁ぐ?あの悪名高い王に?妃候補が何人も殺されたのを知らないはずはない。

はっきり言って見目も大したことはない。

夫のソルムのが何倍も見目麗しいくらいだ。


(何か目的があるのかしら。正妃に決まったのも早かった。夢中になるほど美しいとしても色欲王がひとりで満足するとは思えない。)


だが王妃が決まってから少なからず平穏な日々が続いている。


ステラはもやもやとした気持ちがおさまらない。

王宮に戻っても少しぼんやりしていた。

だからシリウス王子の話はあんまり聞いていなかった。


「叔父上の王弟宮の料理長の娘なんだそうだ。」

「ショーン様がよほど気に入ったのですね。」

「そうだ、ショーンが将来妻にすると言っていた。」

「そうですか、シリウス様にも相応しいお相手を見つけねばなりませんね。」

「まだいらぬ。今は勉強が楽しいのだ。王宮の教師も良いがガブリエル様の授業が気に入っている。」

「アイザック様もガブリエル様もまだ学生ですからあまりお会いできませんね。シリウス様もいずれ学園に通う様になるでしょう。それまでは王宮でしっかり学びましょうね。」

「うむ。まずは菓子をくれ。そのクリームもたっぷりな。」



正妃のおかげで王宮内は緊張が緩和されている。

貴族の息子や娘達は今のうちにと婚約期間も短縮し婚姻を急がされた。


シリウス王子の侍女頭のルイーズからは夫に手紙を出す事が許された。

許されたというより今なら大丈夫だと判断されたからだ。

手紙を書いても敵国に渡った為に届かないのではないかと思ったがルイーズの夫であるマーカス侯爵が伝手を使い出してくれたと同時に夫と子供達からの手紙や贈り物を渡してくれた。


「監視が厳しくて私も夫と会えなかったのよ。今なら監視が緩くなってるわ。退職する者も僅かにいるけれどステラは王子に気に入られているから。」


ステラは胸がいっぱいで聞こえていない。

震える指で手紙を開けた。



愛するステラ

今もずっと君だけを想っている。

必ず迎えに行く。ルーナを探し出そう。


1枚目にはそんな内容が書いてあった。

あとの2枚はリオとアクアの事がびっしり書いてあった。

成長した絵姿も同封されている。

涙で滲まない様に両手を伸ばして穴が開くほど眺めた。


敵国はとても豊かで平和らしい。

魔法使いの多い国で国中至る所で魔法の道具が使われている。

魔獣が攻めてくる事が多いが騎士団が魔法使いで構成されている為に街は安全だそうだ。


ステラが困惑したのはソルムが騎士団に入った事ではなくソルムの剣に水と火の魔法を子供達が付与した事だった。


ステラ、君の魔法はたぶん加護だ。リオとアクアにも俺にも加護がかけられている。

ルーナにもかかっているだろう、だから心配するな。あの子は傷つけられる事はない。

魔導師でもある騎士団長が君に会いたがっている。

加護は聖なる魔法だってさ。君はこの国の産まれじゃないかって。

君の育った孤児院で聞いてみなよ。


リオからも長い長い手紙を受け取った。魔法学校に通いながら力をつけている事、騎士団の宿舎に住まわせてもらえている事、たくさんの愛情が込められていた。

アクアからも概ね同じ様な事が書かれていたが少々怒りに満ちていた。

力をつけて王家を潰しに行く、大勢の殺された人の仇を取ってやると書かれていたからだ。


アクアの怒りは優しさと正義感から来ている事は知っている。

悪を許せない子なのだ。

だからステラは出来るだけ穏やかに育てた。


(ソルムが育ててるのちょっと心配。おおらかっていうか大雑把だし。ああ、今すぐ会いに行きたい。シリウス様を攫って行こうかしら。)


「ステラ、返事を出すなら渡してちょうだい。贈りたい物があるなら孤児院に行く時に街で買ってくるといいわ。」

「ありがとうございます。生きていく喜びが出来ましたし子供達からも贈り物を貰いました。」



数日後にシリウス王子に付いて孤児院に行った際にアリッサとステラは買い物に出た。

ステラは夫にも子供達にも石の付いたネックレスを買った。高価な物ではないが加護の力があるならば石に祈りを込めて贈ろうと思ったのだ。

騎士団員として魔獣の討伐に出る夫にはブレスレットも贈る。


アリッサは家族からの手紙を受け取っていた。残念ながら婚約者は他の娘と婚姻したらしい。

ただ政略結婚だったそうで仲は良くないと聞いた。

アリッサはもう何とも思ってないから平気と気丈に笑っていたが夜中に泣いていたのを知っている。

ステラはアリッサの為に祈った。幸せが訪れますようにと。



「アリッサもステラも何処に行っていたのだ?おやつはもう済んだぞ。ショーンの侍女が用意してくれた。」

「申し訳ございません。今日は買い物を許して頂いたのです。」

「ああ、今日だったな。忘れていた。何を買ったのだ?」

「私はネックレスを買いました。」

「私は化粧品を買いました。」

「欲しかったなら私に言えばいい。いつも世話になっているからな。そうだ、侍女達に贈り物をしよう。何が欲しいか考えておいてくれ。」


ステラは自由と声を大にして言いたかったが歯を食いしばって我慢した。

「お仕着せがありますし外出もしませんので欲しいものは特にないのです。ただこうして偶に買い物を許して頂けたらそれで。」

「買い物をするのは欲しい物があるからだろう?それを買ってやる。」

「いえ、私の物ではないのです。夫や子供達に贈る物を買いたかったのです。」


「夫や子供達?」


シリウスは頭が真っ白になった気がした。

侍女達に夫や子供がいるなんて考えた事もなかったからだ。

自分にいないから侍女達にもいないのは当然だと思っていた。

会いたいか?

と聞きたいが会いたいと言われても困る。

自分以外の者に愛情を向けられたら独りぼっちになってしまう。

シリウス王子は唾を飲み込んだ。


「まだ授業があるから行ってくる。買い物が終わったならこの庭で待て。」

「畏まりました。」


アリッサとステラは後ろ姿を見送った。


家族と聞いたシリウス王子は明らかに動揺していた。


「言わない方が良かったかな。」

「そうね、シリウス様は家族がいないからショックかも知れない。」

「怒って解雇されないかしら。」

「されたら嬉しいけど反応に困るわ。喜んでもダメだし悲しんで引き止められるのも嫌だし。」

「私達が辞めた後シリウス様はどうなるのかしら。正妃様のお子様が王太子になるなら他の子供達は?」

「私には解らないわ。でも最近のシリウス様すっごく王子っぽくない?あの歳であの風格。自信に満ちた感じがするわ。」

「私もそう思う。ここでどんな事を習ってるのかしらね。王太子教育を受けてるのかもって思っちゃう。」



2人は解雇になる事はなかった。

ただ手紙をこっそり遣り取り出来るようになったので前よりはずっと我慢出来た。



シリウス王子は家族の事を考えないように、自分には兄弟がいる、そう思いながら毎日を過ごすのだった。


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