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王弟殿下の孤児院

「ステラは私の側にずっといてくれ。」


とうとう言われてしまった。

通いはもちろん帰る事も許されない。

夫と子供達はとうにこの国から居なくなった。

ステラに帰る家などないのだが家族に会いたい。

息子や娘の成長を見たい。



ステラは諦めなかった。

出て行けるチャンスを待とう。その時まで。


「承知しました。シリウス王子に私が必要なくなるまではお側におります。」


王子は満足気に微笑んだ。


「今日はショーンに会いに叔父上の所へ行くぞ。ステラも来い。」


ショーンは先日父親である国王から世継ぎの資格は無いと言い渡された子供でシリウス王子と仲が良かった。

彼は今王弟殿下が保護する孤児を集めた教室に通っていると聞いた。

王城から出られた彼が心底羨ましい。ショーンの侍女であったならばとステラは考えてしまう。


(でもルイーズ様が居なかったら殺されていたかも知れない。生きていればきっと会える。)



ステラは久しぶりに王宮から出た。

馬車から見える景色の懐かしさに涙が込み上げてくる。

リオとアクアを連れて騎士団まで夫を迎えに行った道。

夫とよくデートした店。

リオのお気に入りの公園。

アクアが凍らせた水路。


このまま逃げ出したい。


「ステラ、ついたぞ。」


馬車が止まったのは大きな店の前だった。

一緒に来たもうひとりの侍女が教えてくれた。


「1階はお店になってるのよ。2階はショーン様と侍女が暮らしているそうよ。裏側に孤児院と教室があるの。この横の道から行けるわ。」


シリウス王子がお店からの匂いに釣られて入って行きそうになる。


「パン屋さんなのです。帰りに買いましょう。ショーン様がお待ちですよ。」


店よりも遥かに大きな建物が孤児院だった。

街の教会が経営する孤児院よりも立派な建物だ。


ショーン様の侍女がシリウス王子を連れて行ったのでステラと侍女は庭のベンチに座り寛いだ。

王宮では大人しくしているが本来陽気でお喋りな侍女が色々教えてくれる。


「孤児と言っても王家のお子なの。わかるでしょ?まだ小さいショーン様は侍女が付くわ。ある程度大きくなったら部屋を与えられて寮生活になるんですって。」


王弟殿下は慈悲深い方なのだろう。

実兄の落とし胤をこうして育てているのだから。


「王弟殿下は殆どこちらにはお見えにならないの。小さな子に教えているのは殿下のお子様なのよ。16歳のアイザック様と17歳のガブリエル様よ。お2人とも美しくて聡明なの。アイザック様のが殿下に似ているわ。ガブリエル様はきっとお母様似なのね。」

「王弟殿下はおいくつなの?」

「国王様より早くご結婚されたからまだ34じゃなかったかしら。国王様は少しお歳が離れているから40のはず。」


ステラは驚いた。

(40であの性欲とは。ある意味病気ね。)

「王弟殿下のお妃様はおひとりなの?」

「そうよ、国王と違っておひとりなのよ。仲睦まじいご夫婦だったんだけど。」

「だった?」

「ステラは貴族じゃないから知らなかったのね。貴族はみんな知ってるわ。他言無用よ、お妃様は国王に攫われたの。無理矢理ね。自害なさったと聞いたわ。ここだけの話先代国王も殺されたって噂があるのよ。」


あの悪王なら有り得る。

どんな方かは知らないが王弟殿下を国王に望む者のが多いのではないか?

あれよりは誰だってマシだろう。


「今は誰もが息を潜めて生きている。私思うの、この孤児の落とし胤の中から母親の復讐に燃えた子が国王を討ち倒すんじゃ無いかって。その為の教育って気がするわ。単なる願望だけど。」

「その為の教育なら座学だけじゃなくて武術も必要では?」

「ふふん、武術も教えてるのよ、馬に乗るのもね。このお店は孤児院経営なのよ、それも社会勉強だと思わない?」

「けどまだ小さすぎるでしょう?」

「遊びながら教えるんですって。誰が考えたのかしら。」


2人は小さな声でヒソヒソと小声の会話を楽しんでいた。


おやつの時間になりシリウス様とショーン様が庭にやって来た。

仲良く座る2人にケーキを切り分ける。


ショーン様の頬についたクリームをハンカチで拭うと嬉しそうに笑顔を見せた。


「母上に似ている気がする。私の侍女にならないか?」


まだ小さいこの王子は母親が恋しいのだろう。目の前で殺されたなら尚更だ。

ステラは何も言わずに頬を撫でた。

ショーン様は少し涙ぐんでいる。



「ダメだ。ステラは私の母上のような者だ。誰にもやらん。他を探せ。」


シリウス王子はステラに抱きつきながらショーン様を遠ざけた。


「ショーン様、ステラが居ないと私も困ってしまいます。こうして時々参りますのでご容赦くださいませ。」


陽気な侍女がショーン様を宥めた。


「それならば我慢しよう。私にも優秀な侍女がいる。」


さすが王族の教育を受けている子供達だ。こんなに小さいのに引くべき所を弁えている。


(リオとアクアは私の抱っこを取り合ってよく喧嘩していたわ。アクアが魔法で凍らせる前で本当に良かった。リオの火もやばかったわね。最後はぐーパンチしてたっけ。ソルムが笑いながら止めてたのが懐かしい。)


騎士団員のソルムは子供同士の喧嘩は好きにやらせろと言っていた。殴る痛みも殴られた痛みも知るべきだと。

ステラが穏やかに育てているのに2人は少し荒っぽい所があった。夫のソルムに似たのだろう。だが心根は優しい。喧嘩をした日は必ず一緒のベッドで眠っていたから。


考えているうちに王子2人は居なくなっていた。


「ステラ、家族に会いたくなったんでしょう?いいわね、子供がいて。」

「いても会えない。末の娘は人質として奪われて消息不明になったまま。何も良い事なんてない。」

「私は婚約者がいたの。引き離されて此処に連れて来られた。それから1度も家に帰れない。何年経ったかしら、婚約者はもう他の誰かと結婚しているでしょうよ。でも見目麗しい年頃の娘は国王に差し出されるか無理矢理離されたから男性も結婚相手を探すのは大変なはずよ。」


辛いのは自分だけではない。

ステラは陽気な侍女に謝った。

そしていつか此処を出ようと約束をした。

ひとりじゃない、そう思うと少しだけ気持ちが軽くなる。


「国王に見初められたら終わりよ。出来るだけ醜いメイクをしなさい、いい?顔色も悪くして。」

「ありがとう、そうするわ。」


ルイーズの魔法で陰気で地味に見えているはずだ。

それなのにショーン様は母に似ていると言っていた。

ちゃんと地味に見えているかルイーズに確認しなくては。





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