伝説の木
「シリウス、モンクスフードで暮らすなら私が働くよ。と言いたいところだけど。お父さんの薬草施設で貰うお給料じゃあ養えないんだよね。だからお妃様になろうって覚悟を決めたのに。」
「お前王宮で暮らせるか?妃になれば公務もあるし年中どこかに訪問をしなきゃならん。子供は乳母に任せきりになる。」
「でも産まれた子が王太子になるんでしょう?」
「まだ産まれたばかりだぞ。父上も薬漬けだったからあまり長生きは出来ないと思う。」
「でもお金には困らないのよね。」
2人は大きな溜息を吐いた。
シリウスが抜けたとしてまだ赤ん坊の弟殿下が育つまでの中継ぎがいれば問題ないのだ。
「ガブリエル様とアイザック様は?」
「アイザック様は絶賛引き篭もり中だ。元の美しい容姿が無くなったからな。部屋に誰かを連れ込む事もなくなって絶賛禁欲中だ。ルーナ、笑いすぎだ。」
「私はそんなに素敵とは思わなかったけれど相当自信家だったもんね。ガブリエル様も引き篭もりなの?」
「ガブリエル様はバークレー家にいる。」
「絶賛養われ中なのね。」
そこでふと気付く。
「キャロライン様がいるじゃない!」
「絶賛子育て中だ。」
元義姉のキャロラインは妃教育を受けていたはずだ。ガブリエル様がどうあれ妃の座を虎視眈々と狙う野心家だった。
「ガブリエル様に座を受け渡しましょう。」
「受けてくれる気などないぞ。」
「バークレー家にいるなら説得しやすいよ。」
義父であったバークレー伯爵はルーナが養女になってからも冷たくも優しくもなく常に無関心だった。
けれど魔法大国のカーティス殿下の側妃になると決まってからは違った。
話しかけてくるようになり逃げ出すなよと釘を刺された。
彼もまた野心家なはず。
その証拠に魔法を消した翌日には除籍されていたから。
実の娘が妃になるならば喜んでガブリエルの尻を叩くに違いない。
「それが上手くいったとして俺は仕事を探す事になる。当面の金は心配ないが将来を考えると働かねばならんのだ。それまではルーナを頼る事になってしまう。」
「私を王妃ルートに乗せたくないのね。」
ルーナはモンクスフードの薬草を化粧品に使う研究をしている。
幾つかは商品になり美しい兄嫁に販売を任せているのだが、店を出すには品数が少なすぎるのだ。
「研究を続けたいけれどお金がかかるの。それを貯める為の化粧品なのに利益が出るのに時間もかかるし。とりあえずお姉ちゃんに宣伝して貰おうと。」
現実問題はお金なのだ。皇族だろうが人間生きて行くにはお金がかかる。ましてや外で働いた事もない。おまけにまだ18歳の若造である。
「あの国あんまり欲がないの。食べ物も豊富で美味しいからみんな健康だし。神様に守られてるから治安もいいし。だから給料の相場はわかんないけど安そう・・・。」
「ふうん。俺に出来そうな事探さないとな。」
「とりあえず帰るの?私はどうすれば良い?」
シリウスはモンクスフードに一緒に帰って来た。
どうやら絶賛休暇中らしい。
「どうしてこの国に住みたいの?私はシリウスと一緒ならどこでも暮らせる。妃になる覚悟もしてたし。」
「んー、なんとなくだ。この国の人間性が気に入った。親に感謝をするって思っていても中々言えないし出来ないだろ?」
「わかる、それすっごくわかる。私ここに来た時に自分が薄汚れてると思った。なんて言うか魂が綺麗なの。羨ましいよね。」
「ここで子育てしたいと思ったんだ。ステラの厳しさと優しさに似てる気がした。」
「・・・お母さんの側にいたいからじゃないよね?シリウスって確かお母さんが大好きだったし・・・はっ、まさか。」
「いたたたたっ、うそうそ、ごめんー。」
頭にげんこつを落とされた。でも絶賛照れ隠しも入っているはず。シリウスはお母さんに母親に対する愛情を持っていると思うから。
「でもシリウスのお母さんになったね。」
「まだだ。まだ何も決まってないからな。ガブリエル様が了承してくだされば良いが。」
2人は街をふらふら歩く。
シリウスは住む場所を探しているんじゃないかと思う。
「フォレスター医院の裏の森に行ってみようよ。神話の森があるんだよ。伝説の木はもうないらしいけど。」
2人で手を繋いで歩く。
顔見知りのおじさんや花屋のおばさんが声を掛けてくれる。
シリウスが挨拶をすると黄色の花をくれた。名前はわからないけれど嬉しい。
「森の中に入ってみよう。」
シリウスは初めて来たはずなのに自分の家の庭のように歩く。
ルーナだってこんな奥まで来た事はない。
「伝説の木って多分これだな。」
「もうないって聞いたよ?違うんじゃない?」
「いや、これだ。新しく育っているんだ。まだ若木だけれど根は残っていたんだな。」
「何でわかるの?」
「んー、聖獣の気配がしたから。」
けれど姿は見えないし声も聞こえない。
「そっか、此処に帰ったのかも知れない。この伝説の木から産まれたのかな。」
「さあ、それはわからないが何となく匂いする。ルイーズみたいな香りがしないか?」
「おばあちゃんの香水森の中の泉みたいな香りだったもんね。」
「俺もおばあちゃんって呼びたかった。」
「呼べばいいよ。いっぱい思い出してあげようよ。」
そう言ってルーナは思い出した。
「おばあちゃんから手紙貰ったの。そうだ!遺産をくれるって言ってた!」
「読んでないのか?」
「うん。」
「読んどけよ。大事な事が書いてあるかも知れないだろ?」
2人は急いで家に帰った。
走って帰ったのでお母さんにもお父さんにも死ぬほど怒られた。
お腹の赤ちゃんごめんなさい。




