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花嫁を想う

古代文字を読み解き薬を作る。

幾つかは出来たけれどあとは無理だ。

同じ薬草がない。

ルーナは椅子をぎこぎこ揺らしながら腕を組み唸っていた。


(異国の薬草なんだろうな。手に入れても他の材料が揃わないと意味がない。)


こんな薬草ありませんか?と絵を添えて手紙を書いたところで草など違いがわからないに決まっている。

お手上げ状態になったので諦めた。


ルーナはフォレスター医院の裏の薬草畑にいる。

正確には畑の片隅の温室内で薬の研究をしているのだ。

煮詰まったルーナは頭をリセットしようと外に出た。

大きく伸びをして空を見上げると鳥が森に飛んでいくのが見えた。

なんとなく森に向かう。

あまり奥に行くなとは言われているが入り口の目印が見える所までなら問題ない。


ルーナは時々森に入る。

聖獣に会いたくて入るけれど全く気配は感じない。

暫くぼんやり過ごして帰るだけだ。



アクアの挙式はもうすぐだ。

私達家族の衣装合わせがあるから早めに行かなくてはならない。

大国はモンクスフードからは遠い。

船で過ごす準備もしなくては。


病院では相変わらずルーシーが働いている。

ルーシーの喘息は月のものが始まると発作が徐々に減って行った。

今では季節の変わり目に軽い発作が出るくらいで前よりずっと健康そうだ。


「ルーシー、これ。ちゃんと飲んでね。妊婦でも大丈夫だから。」

「ありがとうルーナ。もう終わるから一緒に帰ろう。」


ルーシーは学校を卒業してすぐ結婚をした。相手の男性は入院していた男の子のお兄さんで優しいルーシーに猛アタックしたと聞いた。


妊娠中の発作が心配だがルーシーはどうしても産みたいと言っている。


「前の発作に比べれば随分楽になったのよ。横になると苦しいのは変わらないけれど座って眠れるしね。肩もだいぶ解れたと思う。」


喘息の発作は呼吸が困難になる為肩で息をするのだ。だからルーシーは出会った頃から肩凝りが酷く頭痛に悩まされていた。

あまり病人が居ない事で有名な国だが開発が進むとそれに伴う病気が出てくる。

ルーナの薬の研究も一進一退なのだ。万能薬など作れないから。


「これ湯船に入れてみて。血行がよくなるから。暑くてもお風呂に浸かってよね。」

「ん、ありがとう。出発は明後日?」

「そう。今から帰って荷物詰めなきゃ。そうだ、アリアがアスランのお下がりを纏めておいたから取りに来てって。」

「わあ!今日でもいいの?夕飯を食べてから行くわ。」

「ん、解った。待ってるね。」



アスランのお下がりを譲る事はルーナには疑問だった。

2人目に残しておけば良いし亡くなった旦那さんと買った思い出もあるだろうから。

けれどアリアは全てを手放した。


「ルーシーの子が着ているのを見られるわ。その方が仕舞っておくより嬉しいの。」


よくわからないがそう言う訳でルーシー達は譲り受けたのだ。



ルーナは大きなトランクに荷物を詰めていた。

王城に入る時のドレス、船の中はゆったりめのワンピース、殆ど部屋にいる予定だから部屋着は多めに。


(旅慣れてるな、私。何回あの国に行かなきゃいけないのさ。)

 



「お父さん!お母さん!」


アクアが大声で走って来た。後ろから追いかけてくる侍女が注意をしているがアクアは振り切って走って来る。


お母さんは優しくお姉ちゃんを抱きしめると嗜めた。

お妃様なのだ。

髪を結い上げ美しいドレスを身に付けている。

何もない日でも毎日毎日ドレスを着る事から始まるのをルーナは知っている。


「お姉ちゃん姿勢が良くなったよね。背が伸びたんじゃない?」

「そうなの!わかる?カーティスの背が高くて良かったわー。ルーシーもドレス似合うじゃない!明日は式に参列する時のドレス選びよ!カーティスが払うから高〜いやつ選んでね、ふふっ。」


淑女教育は受けているのか疑わしいくらいお姉ちゃんはお姉ちゃんのままだった。

やれば出来る子なので心配はしていないし相変わらずカーティス殿下の事も呼び捨てなので仲良くやっているのだろう。

客室に荷物は運んで貰えたのでサロンよりはこじんまりした明るい部屋でお茶を飲みひと息吐いた。

普段元気いっぱいなアスランも緊張でおとなしい。


「やあ、皆さん遠い所を。お待ちしてましたよ。」


カーティスが来たので一応カーテシーをして見る。

母も条件反射でしていた。

父と兄は騎士団の礼をしたがアリアとアスランは困って頭を下げている。


カーティスはルーナを見て満足そうに頷いたのがちょっとだけイラッとした。


「ルーナ、久しいな。お前が来ると聞いた老人会が待っているぞ。明日のドレス選びが終わったら茶会に付き合ってやってくれ。王宮に呼んでおいたからな。」

「畏まりました。」


カーティスは両親と兄夫妻とも言葉を交わすと慌ただしく去って行った。それを見届けてからお姉ちゃんは扉を閉めた。


「はあーー、みんな寛いでいいわよ。なんなら靴も脱いじゃっていいから。」


お姉ちゃんが靴を脱いでソファに座るとお父さんは上着を脱ぎシャツのボタンを外し靴も靴下も脱いだ。


あとはお決まりで一斉に話し出すのだ。

誰と誰が会話しているのか解らなくて笑える。

ルーナは舟旅が疲れたのか窓から入る日差しが気持ちいいのか眠くなり目を閉じた。たまに入る風が気持ち良かった。

くだらなくて笑える会話が続く。

横になったルーナに抱きつくようにアスランがくっ付いて来た。手が暖かいから眠いのだ。



「ルーナ、起きて。夕食よ。」

「食べれそう?よく眠っていたわね。アスランは先に起きたわよ。」

「今日は家族と食べていいってさ。良かったよね、気を使いながらだと食べた気しないもの。」


今日はと言う事は明日からは皇族と食べるのかも知れない。

ルーナは起きたばかりであまり食欲が無かったが席に着いた。

テーブルマナーが必須な食事が用意されている。

結局緊張しながら食事は進む。時々お母さんの注意が入った。シリウスの乳母でマナーを心得ているのだ。

アリアにも容赦なくダメ出しがあるが彼女は楽しそうだった。



結婚式の当日

朝早くから着付けが始まる。

お母さんもアリアも大興奮して選んだドレスだ。

男性は必然的にパートナーに合わせた衣装になる。

ルーナは着慣れているのである程度ひとりで着れるのだが選んだドレスではない事に気が付いた。

着てみて解った。そのドレスは。このネックレスは。



大きな教会は既に参列者でいっぱいだ。

皇族や高位貴族が前方の入り口から順に入ってくる度感嘆の声が漏れる。

花嫁が主役だと言うのに煌びやかなご婦人が続くのだ。

まるでドレスの新作発表のショーみたいに。


ルーナは皇族でも貴族でもないけれど並んでいた。

もうすぐ名前が呼ばれる。


シリウスの腕に手を添えて頬を染めながら優雅に現れたルーナこそ主役の花嫁の様だった。

あまりにお似合いな若い2人に感嘆の溜息が漏れる。

王太子殿下のシリウスにエスコートされるルーナはどこから見ても貴族の娘だった。


普段のルーナからは想像も出来ないほど洗練された姿を見て両親は戸惑いを隠せない。

リオはドレス姿のルーナを知っているが今日は特別に綺麗だと思う。



ステラは胸が痛んだ。


カーティスと並ぶ花嫁は本当にあのアクアなのかしら。

ドタバタ走り流行り物のへんてこな服や帽子を身に付けたあの子なのかしら。


真っ白のウエディングドレスを着て少しだけ口角を上げ微笑むアクアはお妃様になってしまった。

もうひとりの娘も皇族に嫁ぐのだろうか。


あれだけ皇族に振り回されて来たのに。


夫のソルムがステラに囁いた。


「君から言い出さなければルーナはシリウス君の元に行けないよ。寂しい気持ちはわかるけれど娘の幸せを考えよう。」


ステラは複雑な気持ちで涙が堪えきれなかった。



もう少しで最終話です。

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