新たな関係は
「婚約は解消ですわね。私の役目は終わりです。あとはお父様に任せますので。」
「悪かったな。今までの礼を言う。」
そんなんでいいのかとルーナは心配になる。
ヴィオラという女はもっと香ばしい性格だったはずだ。少し前に流行った婚約破棄物語に出てくる悪役令嬢そのものだったではないか。
シリウスと別れてからまだ数ヶ月しか経っていない。
ルーナはまだ何もやり遂げていないしまず先にアクアを嫁に出さなくてはならない。
その為に早く帰って母を説得しなくてはならないのだ。
ヴィオラは潔く夜会から姿を消した。口角が上がっているのを隠しきれていないのは婚約解消が嬉しいのだろうか。
それとも全く似合っていないピンクのドレスが嫌だったのか。
いそいそと立ち去るヴィオラにはシリウスの護衛が着いて行った。
まずはこの場を収めねばならない。
ギルバート様をはじめ重鎮のお爺ちゃんはお怒りだろう。
と、思いきやお爺ちゃん達はにやにや顔で楽しんでいる。
流石ルイーズの血を引いておりますな、手が早いのは血筋だな、と声が聞こえてくる。
耳が遠いから声が大きいのだ。
「ギルバート様、私の腰を生で拝む事はできません。ご了承くださいませ。」
「驚いたけれどシリウス殿とは別れたのだろう?私は過去は気にしない質でね。婚姻に問題はない。」
婚約した訳でもなくそんな話すら出ていないに頭がおかしいのだろうか?
ピンクのパーティー自体頭がおかしいとは思っていたけれど。
もしかしたらこの夜会に同伴する事はそう受け取られるのかも知れない。
カーティスとアクアが知っていたならば。
「お姉ちゃん知っていたの?何故ギルバート様が急にエスコートに決まったの?まるで婚約しているみたいな言い方だったわ。」
カーティスもアクアも困った顔をしている。
こっちのが困っているのに。
「すまないルーナ、君とシリウスは別れたのだとばかり思っていたから。」
「別れましたよ。シリウスはまだやらなければならない事があるから。」
「ならば何故。」
「ルーナが俺以外を選ぶ訳はないと知っていたからです。だからあの場では別れた。」
「シリウスが私以外と結婚するはずはないじゃないですか。だから別れても前向きでいられたのです。」
いつか絶対迎えにくるとは言われなかったし、ルーナも待っているとは言わなかった。
けれど確信はあった。シリウスが好きなのは今までも今もこれからもルーナだけだと。
だから両親の側で待ち続けるつもりだったのだ。
「まさか仕掛けてくるとは思いませんでした。しかもこんな手癖の悪い男とは。踊るくらいなら我慢出来ましたが肩を抱く振りをして胸を触るとは。」
「気分が悪いので帰ります。シリウス、行こう。」
ルーナはシリウスの手を引っ張ると走り出そうとしたがシリウスに止められた。
シリウスはルーナを抱き寄せてゆっくり周りを見渡した。
満足そうに微笑むとルーナの腰に手を回して退出をしたのだ。
ご婦人達は興奮していた。なんて素敵な純愛なのでしょう。別れてもお互い一途に想い続けるなんて。最初で最後の逢瀬はさぞかし美しかったでしょうね。物語にされるのではないかと思ってしまう程ご婦人方はうっとりしている。
ギルバートは反省の色もないまま友人達とお酒を酌み交わす。
手癖の宜しくない事は有名だったからだ。
だから30歳まであと数年だというのに未婚のままだった。
チェスター侯は孫を見てまたかと溜息を吐いた。
ギルバートの両親はと言うと彼は単なる三男坊なので焦りや落胆はしていない。
カーティスはチェスター侯に詫びた。
ルイーズの愛した孫娘を親族に引き入れたかったがギルバートではやはり無理だったなと笑ってくれたので胸を撫で下ろした。
「あの自信に満ちた顔を見たかね?無垢な心が可愛らしいではないか。この先に幸せが待っている事を願おうではないか。」
「はい。あの国に寄り添って手助けをして行くつもりです。彼は私の弟のような者ですから。」
「姉君を娶ればそうなるだろう。カーティス殿下も逃げられない内に発表をするといい。」
チェスター侯はカーティスの肩を叩いた。
まずはアクアの両親に話さねばならない。
妹の事で落胆したアクアの肩を抱き寄せそっと退出をした。
シリウスとルーナはまだ中庭にいた。
寒いのでコートを羽織っている。
「コート可愛いな。このファーの模様は聖獣を思い出す。」
「あ、聖獣なんだけどやっぱり姿を見せてくれないの。」
「魔法を消したからじゃないのか?あの森に行ってみたか?」
「行ったけど木の場所はわからないの。」
「俺も行きたいな。彼らに礼を言いたい。ルーナを保護してくれた礼を。」
「保護したとは言え私ずっと裸で過ごしてたらしいの。服なんて無かったからしょうがないけど。」
「・・・裸に反応してしまうから帰ろう。」
シリウスはルーナに軽くキスをすると立ち上がり歩き始めた。
シリウスの客室の隣はヴィオラがいる。
ルーナは自分の客室に行こうと誘う。
「ヴィオラも今頃楽しんでいるはずだ。俺の護衛に懸想していたからな。」
「え?いつから?」
「モンクスフードから戻ったくらいだな。だからあっさり引き下がっただろ?王太子に婚約破棄されれば次の相手は中々決まらない。俺たちよりも歳上だしな。だから護衛のダンに嫁ぐにはちょうどいいんだ。」
なるほど、だから柔らかい雰囲気が混じっていたんだと改めて納得した。
結局2人はシリウスの客室で朝まで過ごした。ルーナの部屋よりずっと広い割りに窓が少なかったからだ。
カーテンを閉め切り暗闇のなかで抱き合う2人は最初のあの夜よりも余裕があり、ゆっくりゆっくりとお互いを交換し合うように確かめ合った。が、暗闇の効果からか2回目以降は獣のようだった。
朝起きた2人は朝からする元気はなくぐったりと二度寝をした。
その後ようやくモンクスフードに帰ることが出来たのだ。
姉のアクアはルーナに謝りこれからの決意を話してくれた。
カーティス様に嫁ぐ決心をした姉は凛として輝いて見えた。
ルーナはと言うとーー
結局またお互い何も言わずに別れたので船で荒れまくっていた。
寒い寒い甲板でまた叫ぶ。
「こんなんセフレやんけーーー!」
どこぞのお爺ちゃんの方言は今の心境にぴったりな気がした。




