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ジョイと呼ばれるルーナ

ルーナは王弟宮の料理人夫婦に養女として引き取られた。

夫婦に子はなく大切に育てられるだろうと王弟殿下が判断し速やかに手続きが行われて家族になった。


だが料理人は忙しい。

ルーカスは料理長だ。殿下の為に毎日3食メニューを組み栄養を考え王族の食事に相応しい盛り付けを考える。

それ以外にも従業員の食事も考えねばならない。

ルーナなど構っている暇はないのだ。

だからルーナの世話は必然的にジーナになる。

ジーナも夫の手伝いで下ごしらえがある。


何故引き取ったと誰もが言いたい程にルーナは放置されていた。


料理長故にルーナの食事だけは完璧な栄養バランスだった。

よく動き回るルーナは疲れるとぐずる事もなくひとりで昼寝をした。



《何故あの夫婦が引き取ったのだ、食事以外の世話を全くしないではないか》

《オムツは変えにくるぞ》

《我等がいなければジョイはひとりぼっちだ》


ルーナはひとりで床に寝ている様に見えるが実際は聖獣のもふもふにうずくまり寝ている。

聖獣は放置気味のルーナが心配で毎日来ていた。

ルーナから姿が見えるのかわからないが眠くなると抱きついてくるのでなんとなく見えているのかも知れない。

聖獣が話す言葉を理解し始めたのかじっと聞いている時が増えた。


《我等が話さないとジョイは無口に育つな》

《もう少ししたら我等の事を誰かに話すやもしれぬ》

《口止めせねばならんな》


王弟殿下の食事が済むとジーナが先に戻ってくる。

聖獣はそれを見届けると帰って行った。


「ジョイ、湯浴みをしましょうね。1人にしてごめんね。」

ジーナはジョイを抱きしめて頬にキスをした。


温かい湯にジーナと浸かりジョイは嬉しそうに声を出して笑った。

王弟殿下から貰った良い匂いの石鹸を使えるのはジョイを引き取ったからだ。

給金も上がって前より広い離れも与えられた。

ジーナはジョイを利用しているようで心が痛んだ。

なので一緒に居られる時間はジョイの為に過ごした。


夫のルーカスは部屋に戻っても食材の仕入れの事で忙しい。

ただジョイが食事を全部食べたのかを確認する。


「全部食べたわ。好き嫌いがないみたいね。」

「そうか、肉より魚の方が栄養価が高いからな。野菜も沢山食べさせよう。明日は果物もすりつぶすか。」


ルーカスはジョイに愛情が無い訳ではない。

仕事で忙しい親に育てられた為にこれが普通だと思っている。


「歩き回る様になったら1人にして置けないわ。厨房の隣か向かいの部屋に連れて行けるか聞いてくれない?」

「そうだな、侍女頭に聞いてみよう。」


ジーナが働いている間は手の空いたメイドや侍女がルーナの世話をする事になった。

厨房の側の部屋を与えてもらってルーナはよちよち歩く様になった。

片言で話す様になりあまりの可愛さに皆悶絶している。


《おお!昨日よりも歩いているぞ》

《奴らは知らぬだろうがジョイが最初に話した言葉はよいしょだ》

《可哀想に普通はママだろう》

《良いでは無いか、初めてひとりで立ち上がった時に出た言葉だ》

《年寄り臭いのは否めないがしょうがない》

《座る時にふぅと言うのも誰に似たのやら》


聖獣はルーナに世話係が付いてもしつこく会いに来ていた。

やはりルーナには聖獣が見えているようで指を差しては話しかけてきた。


《世話係が変な目でジョイを見ているぞ》

《あまり来てはいかんな》

《変な子だと思われたら可哀想だ》


聖獣達は外からルーナを見守る事にしルーナが庭で遊ぶ時だけ現れた。

その頃にはもう走れるまでになっていた。


ルーナは片言で聖獣に話しかける。


《ちょっと何言ってるかわからないな》

《変な子と思われるぞ》

《変な子と思われたら悲しいな》


ルーナは聖獣が何なのかを知りたかった。

聖獣の会話からルーナはこの不思議な生き物を変な子と呼ぶ事にした。

それが彼らの名前だと思ったからだ。


ジーナの仕事が終わると手を繋いで部屋に戻る。


「ジョイは今日は何をしていたの?」

ジーナはゆっくり簡単な言葉を選び話しかける。


「あのね、あのね、変なのちたの。」

「そうなの?お友達かしら」


ジーナはおおらかだ。子供は不思議な事を言う生き物だと思っている。

舌足らずがあまりに可愛くて抱き上げた。


「変なのちた。」

「変なのが来たのね。」

「変なの。」

「よっぽど変なのね。」



聖獣はちょっとショックだった。

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