シリウスの決意、カーティスの決意
カーティスが正当な後継者なのは見ていて解る。
国の重鎮が話をしに来るのは彼の父親ではなくカーティスだからだ。
討伐という名目で広い世界を見せていたのかも知れない。
魔法の腕は物足りなかったと聞くが彼はそれを補うように政治を学んだ。
だから陛下亡き今もカーティスは自分のやるべき事を理解している。
シリウスは自分の甘さに打ちのめされていた。
側から見れば彼はよくやっている部類に違いない。
だがカーティスと比べてしまうと落ち込むしかないのだ。
自分に何が出来るのか考えた時に何も出来ない自分がいた。
産まれてから今日まで王族として不自由なく暮らしている。
このまま婚約を破棄してルーナを娶れば良い。
そう思っていた。
けれどルーナは?
また窮屈な王宮で暮らせるだろうか。
せっかく会えた家族から引き離していいのだろうか。
お父さん、お母さん、お兄ちゃん、お姉ちゃん
あんなに仲が良いのに。
あんなに心から笑うルーナを見た事がない。
では王族を抜けてモンクスフードへ?
何処で暮らす?
働く?
働いた事などない。
贅沢な暮らししか知らない。
3日目に異例の速さでマーカス夫妻と王弟殿下の葬儀がひっそりと執り行われた。
深い傷を負った遺体を何日も安置して置くわけにはいかず話し合いの元3人は火葬され骨になった。
もう誰も魔法の復活を望まない様にと考えた結果だった。
起きている間ぼやっとしていたルーナはルイーズの遺体を見ると泣き崩れた。
誰に言われても離れようとせずルイーズにしがみついて皆んなを困らせたがシリウスがそっと手を引くと大人しく言う事を聞いた。
「ちゃんと息をしろ、ゆっくり吸って吐くんだ。ルーナ、ちゃんと食べてるか?」
ルーナは黙って首を振った。夜もあまり眠れていないようだ。
シリウスは心配で胸が痛む。
「ルーナ、話があるんだ。」
ルーナは小さな入れ物を窓辺に置いてずっと窓の外を見ていた。
見ている様で何も見てはいないのだろうとシリウスは思った。
ルーナはシリウスにだけは耳を傾ける。
あとはまるで誰もいないかのように。
「ルーナ、もう国に戻らねばならん。」
「私も?」
「いや、俺だけだ。」
「どうして?」
「これからの事を決めねばならん。」
「その中に私は入っていないの?」
ルーナも薄々気付いていた様に思う。
「父上もそう長くは生きられないと思う。叔父上が死に国事を考えねばならんのだ。」
「王様みたいな話し方になってるよ?」
ルーナが笑いかけてもシリウスはどう返していいかわからない程余裕が無かった。
「俺はこれから国の為に働く。俺にはそれしか出来ない。何不自由なく育てて貰った恩を返そうと思う。まだ17歳の俺にルーナの人生は背負えない。ルーナ、お前も学べ。何も出来ない2人が共にいても誰かの世話になるだけだ。」
シリウスの握りしめた拳や悲しみで溢れた表情から決意が伝わる。シリウスも苦しいのだ。
ルーナは暫く何も言えないままシリウスの拳をみつめていた。
2人きりで過ごす夜は思い描いていたものとは全く違い冷たく重い空間で現実逃避と現実を繰り返すだけだった。
これが最後になるのか、それともまた会えるのか。
2人ともその答えはわからないだろう。
短いような長いような夜を2人で過ごした。
確かめ合うようにも感じたし最初で最後の夜だと決心した気にもなった。
嫌でも朝は来る。
シリウスの背に食い込ませた爪痕は何日かしたら消えるだろうしルーナの身体中に付いた噛み跡も同じだろう。
どれだけ抱き合っても跡には残らない。
涙でシリウスの顔もわからないままキスをされた。
惜しむような深いキスに何か意味を残して欲しいと深く願う。
「見送りはいらないから。ちゃんと家族の元へ帰るんだぞ。聖獣の眠るあの国で過ごせ。それからーー
その後に続く言葉は詰まって言えなかったようだ。
ふらふらと身だしなみを整えてルイーズの遺骨を持った。
(そうだ、聖獣の元に帰らなくっちゃ)
部屋を出ると窓から馬車が見えた。
シリウスが乗っているのかも知れない。
ひんやりした窓ガラスに額を押し付けていると背後からカーティスに声を掛けられた。
「ルーナ、もう泣くな。泣いても俺では慰められない。」
「そうですね、私を慰めてくれる家族の元へ帰ります。」
「・・・アクアは元気にしているか?」
「やはりご存知でしたか。アクアは私の姉でした。似ているでしょう?」
「そうだな、少し似ているかも知れん。何故気づかなかったんだろうな。」
「カーティス様はお姉ちゃんに夢中でしたから。」
「お姉ちゃんか、お前の事は何度も聞いていた。絶対探し出すのだと。仲良くしていればそれでいい。」
寂しげな表情でほんのり笑みを浮かべたカーティスが聞きたいのはアクアの事ではないのか?
アクアにはもう恋人がいるのを話した方がいいのだろうか。
「ルーナ、俺の所に嫁いでくるか?まだ正式に婚約解消はされていないはずだ。」
「嫁ぎません。私恨まれてるでしょう?」
「まあな、多少はな。だが俺の妃になれば誰も文句は言わん。」
「・・・お姉ちゃんから恨まれます。」
「アクアにはもう恋人がいるだろう?ならば恨んだりしないのではないか?」
もう調べ済みだった。アクアを調べたという事はまだ未練があるに違いない。それなのに求婚してくるとは。
「振られた者同士傷を舐め合う趣味はありません。」
「やはり似ているな。俺は当分結婚はしない。やらなければならない事が山積みだからな。寂しくて耐えきれなくなったらいつでも来い。危ないから供をつけてくるんだぞ。」
「解りました。人生に疲れたら愛人にしてください。」
カーティスは笑って承知したと言った。
「たまには文でも寄越せ。お前の事は妹のように大切に思っている。わかったな?」
ルーナは深く頭を下げた。傷だらけの心に響く有り難い言葉だった。
(お姉ちゃん、カーティス様はいい男だよ。反対していた爺さんはもう居ないよ。・・・なんて本人には言えないけど。)
ルーナはその日の午後に船に乗った。送ると言ってくれたエルザ様には丁重にお断りをして1人で船に乗ったのだ。
心配したカーティスがセキュリティのしっかりした部屋を押さえて全額支払ってくれた。
「ちゃんと食べろよ、泣きたくなったら俺に文を書け。いくらでも聞いてやる。溜め込むなよ。妹としていつでも会いに来い。俺も商談で訪れる事もあるだろう。」
「では兄のリオと商談する事になりそうですね。兄もカーティス様の事を気にかけていました。お待ちしております。またお会いする日までお元気で。」
そうして何もかも失った悲しみを胸にルーナはひとりモンクスフードへ戻って行った。
最後はハピエンにするつもりです。




