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サイラス陛下の思惑

ピリピリと突き刺さる視線でどう思われているかが瞬時に伝わってくる。


(明らかに歓迎されていない)


攻撃的な魔法で他国を従えていたのを国民は知らないのだろう。

国民にとっては便利な魔法だったのだ。

それが突然消えた。

魔力で灯されていた灯りは消え、井戸から汲まずとも水は貯められた。

ルーナの知らない様々な魔法が他にも沢山あったのだ。



皇族は壇上に現れる。

その周りには既に他国からの王子や姫が談笑しているのが見えた。

遠くから見ても一際輝きを放っている。


ルーナが歩く度に視線が刺さり会話が止まる。

向けられた視線はルイーズにも向かっているかも知れないし、少し前を歩いているエルザ夫妻に向けられているのかも知れない。


(生きて帰れるかな)


そんな事を考えてしまうくらいの冷たい空気なのだ。



シリウスを探したいが怖くてルイーズから離れられないし来客の群がルーナ達の周りを囲む様に立っていて動けない。


ルーナはルイーズに呼ばれるまで現実逃避をするかの如くグラスを持ったエルザの指に不気味に輝くドラゴンの指輪を見つめていた。


気付いて顔を上げると壇上には既にサイラス陛下が立っていた。名前は忘れたがルーナに剣を突きつけた側近もいる。


カーティスの横にいるのは彼の両親だ。母親によく似ている。


恐怖心からか耳がよく聞こえない。

陛下が紹介した老人は白髪にしては不思議な色をしている。

元が空色だったのかも知れない。

ニコル様と同じだとルーナは思った。


捕らえられていたと聞いているがソレール様は元気そうに見える。ルイーズの旦那様にしては随分と老けているがあちらが歳相応なのかも知れない。


(2人を会わせてどんな儀式をするんだろう。ルイーズは何も起こらないと言っていた。魔法は消えた。今更何をしたいのかな。)


ルーナは気付いていないがサイラス陛下はルーナをじっと見ていた。

だから気付かなかったのだ。

陛下の側近は2人居るはずだ。けれど背後には1人しかいない事に。


あまりの大声に突然耳がはっきりと聞こえた。


「ルーナ!」


ルーナの背後から剣を差し向けた男がいた。

それに気付いたルイーズがルーナを庇う様に抱きつく。


後ろから抱き抱えられ何が起きているかわからない。


「ルイーズ!」


次の瞬間ルーナはシリウスに腕を引かれていた。


血まみれのルイーズを庇う様に倒れている男も首を斬られたのか大量の血が流れている。


ルイーズに駆け寄りたいのにシリウスは離してくれない。

それどころか見せない様に胸に寄せてきつく抱きしめてくる。


壇上で悲鳴が聞こえる。

シリウスの腕から顔だけ向けることが出来た。


サイラス陛下が倒れたのか?皆が壁際に寄った為に壇上がよく見える。

倒れた陛下の足元に立ち薄ら笑いを浮かべていたのはソレール様だけだ。


ルーナの頭は怒りでハッキリしてくる。


(油断した。儀式など最初からする気は無かったんだ。私を殺すのが目的だった。)


カーティスは誰よりも早く動いた。

無関係の来客を部屋に戻らせ関係者だけをホールに残した。

カーティスの両親はショックなのか皇族用の立派な椅子に座りお付きの者が扇子で仰いでいる。

今は他にすべき事が山ほどあるというのに。

成程、だから陛下はカーティスを連れ回していたのだ。


(あれは使えない。邪魔だから追い出せばいいのに身内が死んだからしょうがないのか。)



漸くルーナはシリウスの腕から離れルイーズに近寄る事が出来た。心臓を貫かれ即死だったのか。


「ルイーズを庇おうとしたのは叔父上だ。王弟殿下だよ、魔法が解けて容姿が戻ったからわかりにくいよな。」


ルーナを背後から庇った様に彼もまたルイーズの背後から覆い被さり刺されていた。おそらく2回は刺されている。

もう息はしていない。

血溜まりが広がって行くだけだ。



「ジョイ、久しいな。大丈夫か?怪我はしていないか?ルイーズに抱かれたままでいたらお前にも刺さっていたな。」


そうか、シリウスが引っ張ってくれなかったら死んでいたかも知れない。


「・・・お久しぶりです、カーティス様。陛下は・・・」


「場所を移そう、シリウス殿も来てくれ。婚約者のご令嬢はいいのか?」


「彼女は両親といますから問題ありません。」


ルーナはこんな姿になったルイーズから離れたくない。目に涙を溜めてカーティスを見ると理解したのか騎士団らしき男が数人でルイーズと王弟殿下をシーツでくるみ何処へ運んで行った。


どうなるか不安だが人目にずっと晒されているよりはマシだと思った。



カーティスに連れて行かれた先はどうやらカーティスの自室のようだ。


「ここが1番安全なんだ、信じ難いかも知れないが。とりあえず座ってくれ。いま信頼出来る側近に茶を淹れさせる。」


「ルーナ、大丈夫か?ちゃんと息をしろよ。」


シリウスは自分のシャツの袖口でルーナの涙を拭った。ジャケットはルーナにかけられていたから。


「そうか、ルーナが真名なのだな。ぴったりな名を与えられたものだ。」


側近が茶を淹れてくれた。目の前で淹れたのは毒入りではないと見せる為か、カーティスが先に飲んで見せた。


「さて、何から話そうか。」


そう言ってカーティスは話し始めた。


サイラス陛下はソレール様に刺されて絶命した事、ソレール様は陛下の側近にその場で殺された事。


「お祖父様は魔法にこだわり過ぎていたのだ。魔法そのものが弱り新しい文明へと国民は前を向いていたのにお祖父様は魔法は復活すると言って重鎮達を味方に付けてしまった。ずっと軟禁していたソレール様に期待していたのだ。この夜会でルイーズと感動の再会をさせるつもりだった。」


「お2人は不仲なのを陛下はご存じなかったのですか?」


カーティスは驚いていた。どうやら知らなかったようだ。


「シリウスは知っていたの?驚いていないようだけれど。」


シリウスは知っていた。ルーナよりもカーティスよりも。


「知ったのはこの国に来る船の中だ。王弟殿下とルイーズ様はずっと恋仲だったのだと。」



あまりの衝撃にルーナの涙はとまりカーティスもカップを落としそうになる。


「その証拠にルイーズ様を庇って死んでしまっただろう?」


シリウスは自分のカップを持つとゆっくり飲んで大きな溜息を吐いた。


「ルイーズ様がソレール様と婚姻を結んでもずっと諦めきれずにいたそうだ。マーカス夫妻は義務として子を作ったがお2人の間に愛情はない。ソレール様に愛人がいるのを調べた上でルイーズ様と心を通わせたと言っていた。」


「でもでもでも!おばあちゃんのがずっと歳が上でしょう?」


「おばあちゃん?」


「私が魔法を消した日からずっと祖母として一緒に居てくれたのです。モンクスフードで家族と再会してからもずっと。」


「正確には私の祖母なのです。母親はルイーズ様の娘なので。」


3人は黙ってしまった。

ルーナは悲しみでいっぱいだったがシリウスとカーティスは王子だ。

これからの事を考えなくてはならない。

シリウスは王太子だが国王は息災だ。なんとでもなる。

大国は国王陛下が亡くなったが息子がいる。少々物足りなさはあるが補佐が優秀ならば国は回るだろう。


「私は父上の所へ行かねばならない。暫くしたら戻るが今夜はこの部屋の続き部屋を使うと良い。妃様に作られた寝室だから何でも揃っているだろう。」


シリウスは自分の側近に、ルーナはルイーズの居ない今誰にも言う必要はないと思ったがエルザ夫妻に今夜はカーティスとシリウスと話をすると伝言を頼んだ。


ルイーズにもう会えないとは思えなかった。

最後に交わした言葉を思い出せないくらいに信じられなかった。



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