懐かしのステラ
「はい、そこまで。」
ルーナの両親が立っていた。
シリウスがちょっと気まずそうにしたのでルーナが口を開きかけた時母親のステラが頭を深く下げた。
その少し後ろで父親も頭を下げて居る。
シリウスはその様子を見て久しいなと言った。皇族から話さなければ頭を上げれないのだ。
「ご無沙汰しております、シリウス様。突然姿を消した事をお許しください。」
そうだ、突然居なくなったのだ。涙に暮れて居た時にルーナに会った。
「良い、ステラが幸せならばそれで良い。」
「ありがとうございます。夫にも子供達にも会えて幸せに暮らしております。この国でルーナにも会えました。」
「悪かった、ステラ。私の我儘で王宮に引き留めた。許してくれ。」
ステラは長い間シリウスを恨んでいた。強く恨んでいたのかそうでないかは本人にもよく分からなかった。
大国で家族と暮らして居る時は穏やかに過ごしていたが時々ルーナを思い出した。
ルーナの星はいつも強い星に囲まれている。
もう会えないかも知れないと考えることもあった。
ルーナへの思いが少し薄れていたのは事実だった。
「シリウス様、もういいのです。この国でルーナに会う事が出来ました。それだけで充分です。」
シリウスはルーナの手を離さない。ルーナも離す気はない。
「シリウス様、ルーナをどうするおつもりですか。」
「シリウス様には婚約者がおられるでしょう。」
もう手遅れだとは思うが2人の噂はすぐに広まってしまう。
王子を拐かした罪に問われるのは平民のルーナだ。
「いいの、婚約者がいても。シリウスは私のものだから。ニコラス様に会いに行くわ。シリウスを下さいって。」
ルーナの子供じみた考えが許される筈はない。
シリウスもわかっている。
「ルーナ、陛下がシリウス様を除籍したとしましょう。2人でどうやって生きて行くつもり?」
「好きなだけでは生きて行けない。私達は反対している訳ではない。だがきちんと考えろと言っているんだ。皆が納得しなくてはな。」
「わかってる。そんな事わかってる。でももうシリウスと離れたくない!」
ルーナの目から涙が溢れる。
シリウスはルーナをぎゅっと抱きしめた。
「最善を尽くします。これからの事も。こんな事を言える立場ではありませんがルーナを
「駄目だ、まだ言ってはいけない。」
シリウスの口を塞いだのは走って来たリオだった。
「シリウス様、貴方は王太子殿下なのです。婚約者もおられる。お立場を理解していますか?」
この場にはヴィオラはいない。
エルザ様が上手くやってくれているのだろう。
だがシリウスは感情が溢れてルーナしか見えて居なかった。
啜り泣くルーナを抱いたままリオを見た。
「シリウス様、まだ問題は山積みでは?ひとつずつ確実に片付けてください。身綺麗にしないとルーナが悲しむ事になります。」
リオはルーナの手を引こうとするがシリウスにしがみついて離れない。
「ルーナ、シリウス様のお立場も考えろ。とりあえず離れてくれないか。」
ルーナは首を振るだけで離れようとしない。
普段何も欲しがらないルーナが初めて見せた感情に驚いた。
シリウスが小声でルーナの耳元で何か話している。
少しずつ落ち付いて行くのがわかる。
「お父さん、お母さん、お兄ちゃん、あと少しシリウスと話をさせて。ちゃんと距離を取って話すから。」
シリウスとルーナは家の居間で話す事が許された。
居間の外に両親と兄と姉が見張っている。
その家族を更にシリウスの護衛が見張っていた。
「シリウス、聖獣は?」
「ああ、忘れていたよ。この国に入る前から消えたんだ。それまではずっと一緒に居た。」
「姿は見えた?声は?」
「姿も見えたし会話もしていた。」
「そ、ならいいの。聖獣は産まれた場所に戻ってるよ。多分。」
「多分ってなんだよ。」
「この国の建国物語は読んだ?」
ルーナの言っているのは子供向けの建国物語ではなかった。
モンクスフードの真実を記した書の事だった。
他国の王太子のシリウスが知る術もない書の内容をルーナは知っていた。




