視点
壇上に設けられた席にはたっぷりのお酒と素朴な料理が並んでいた。
少々硬いが椅子やソファーに座り歓談を楽しむ。
壇上からはフロアで踊る人々がよく見える。
軽快な音楽に合わせた複雑なステップは見ているだけで楽しくなる。
好みの女の子を見つけてダンスを申し込みたいがあのダンスは難しい。
若い貴族の男性達は談笑しながら見ていると少女が数人父親に連れられてやって来た。
昼間の視察で会った商人の娘だろう。
精一杯着飾った娘達はぎこちないカーテシーをする。
「君達は自由恋愛を楽しんでから結婚するんだろう?恋人はいるの?」
「何人くらいとお付き合いをしたんだい?」
矢継ぎ早に質問が飛び交う。
「私達商家の娘は親の決めたお相手と婚姻を結びます。」
「ですから自由恋愛とは程遠いのです。」
「農家や酪農家のお家が多いので私達は他国に嫁ぐ様に言われて育ちました。兄は跡を継ぎますが姉は他国に嫁いでいます。」
「そうなんだ。じゃあこの場はお見合いなのかな?」
「そう言う訳ではないのですが。」
誤魔化しきれない初々しさが可愛らしい。
アルコール度数の低い葡萄酒を飲み始めると徐々に緊張が解けたのか口数が増えつつあった。
楽しげな輪に人が増えていく。
主に若い男性だ。
「じゃあさ、1番タイプは誰?」
商家の娘はほんのり紅く染まった頬に手を当て困った顔をした。
「お酒の席だから無礼講だよ。教えてよ。」
「えっと、シリウス様です。」
「あーー、やっぱりね。国境を超えてモテるんだよ。でも婚約者が居るからね、諦めて。」
「いえ、あのタイプを聞かれましたので、それだけです。」
シリウスはこの席には居なかった。
少し離れたテーブルで誰かとチェスを楽しんでいる。
「視察で会ったの?」
「はい。少しだけですがお話をさせて頂きました。この国をよく理解してくださって聡明な方だと思いました。」
「まあね、シリウス殿に関しては良い噂しかないからな。」
そろそろ会話のネタが尽きかけた時だった。
クラスメイトのルーナが美しい女性に連れられてやって来た。
妖艶な女性の隣でルーナがとても幼く見えた。
「あの子可愛いね、エルザ様のお知り合いかな。」
「あんな服だけど貴族の子だよ、座り方が違うよね。」
商家の娘達はマナーこそ学んではいるが最低限であり細かい事までは習っていない。
ルーナは座り方は勿論のことお茶を飲む手も会話をする仕草も普段とは全然違った。
「でもルーナは貴族ではないわ。ルーナのお父さんは農家だし。」
「知り合いなの?紹介して欲しいな。」
「絶対貴族だよ、元貴族なのかな?没落したとか?」
そんな会話をしながらルーナ達を眺めていると驚くべき展開になった。
エルザ様と言う女性の旦那様がルーナをダンスに誘おうと手を引いた時に横から現れたのはシリウス王太子殿下だったからだ。
娘達は驚きのあまり声も出ない。
近寄りがたい王太子殿下に抱きしめられて居るのは間違いなくクラスメイトのルーナだ。
シリウス王太子殿下の婚約者が現れた。
その頃には会場中が固唾を飲んで見守っている。
娘達はヴィオラ嬢の低い声に震えながらクラスメイトの心配をしている。
「無理よ、殴るなんて。」
「そんな事したらルーナの首が飛んじゃうわ。」
「謝るのよ、ルーナ。」
小声で祈る様に呟く娘達は優しい。
貴族の娘達ならば扇子でほくそ笑んだ口元を隠して居るに違いない。
ルーナに張り倒された後のシリウスはただの少年に戻っていた。
軽快な2人のやり取りは男友達の会話のようだ。
2人の間には誰も入る事は出来ないだろう。
どう見ても心を通い合わせている。
けれど2人が待ち受けるのは困難だ。
「ルーナの恋人は王子様だったのね。」
「誰にも靡かないのは王子様がいたからだわ。」
「なんて美しい物語なの。」
少女達は涙を浮かべながら感動している。
物語はこれで終わりではない。
これから先が1番盛り上がる所なのだ。
クライマックスを楽しみにしようではないか。




