シリウス王子の成長
シリウス王子は昼間王宮で王子教育を受ける事になった。
10歳に満たない子供達がシリウス王子を合わせて16人いた。
(16人もの妃が殺されたということね。今のお妃に追い出された妃は10人程、子供が何人いるかわからないけど将来的に勢力争いにならないのかしら。まあでも正妃が決まったし悪王も落ちつくといいけれど)
ステラは時々食事の世話に呼ばれて16人の子供達を観察する。
教育係の付いている王子は5人いて小さいながらマナーを何とかこなしている感じだ。
あとの11人はマナーとは程遠くとても自由に食べている。侍女も少なく、きっと母親の身分が低いせいだろう。
(その内別々の教育が始まりそうね。これは選別なのだわ。王太子になる為の。)
ステラはアクアとリオに想いを馳せる。
夫はちゃんと面倒を見ているかしら。
魔法を悪用してないと良いけれど。
学校に通えています様に。
ステラが4回目に呼ばれた時だった。
ステラは食事の世話だけなので隣の続き部屋で他の侍女とおやつの支度をしていた。
授業中に急に国王がやって来たのを見た時にひとりの子供が悲鳴をあげて漏らしてしまった。
侍女が慌てて側に寄り子供を抱きしめ頭を下げた。
メイドは素早く床を拭く。
「お前は見覚えがあるぞ、ドリスの息子だな。いつも泣いていただろう。お前は下がってよい。王子教育には向いておらん。」
ステラのいる続き部屋の隣室はドアが開いたままなので丸見えだ。
ステラも隣室から跪いて頭を下げている。
侍女は泣く子供の手を引き隣室に連れて来た。
国王は暫く授業を受ける子供達を見ていたが何も言わずに戻って行った。
泣いた子供の服を着替えさせたが虚ろな顔で涙を堪えている。
ステラはソファの隣に座り背中を撫でてやった。
国王が帰ったので侍女が口を開く。
「この子は母親のドリス様が殺されるのを目の前で見ているのです。それ以来国王様に恐怖を感じるようなのです。可哀想に、教育を受けねば親のいないこの子はどうしたらいいのでしょう。」
ステラは同情した。
母親を殺され親類の元に身を寄せる事さえ許されない。
きっと将来親類が子供を使って勢力争いに加わるからだろう。
ではずっとこの王宮に囚われたままなのか?
王太子教育から外されたらどうなる?
ステラが最悪の場合を考えて青褪めた時侍女が言った。
「大丈夫です。王弟殿下に相談しましょう。すぐ使いを出しましたから。さあ、ショーン様もう泣かないでいいのですよ。」
(王弟殿下?)
「王弟殿下は孤児院をいくつも経営なさっています。その内のひとつは親を亡くした貴族の子供がいるのです。衣食住も保証され勉強も続けられる。何より安全なのです。」
「それなら全員そこで保護してくだされば良いのに。」
「位の高い王子様以外はそうなるかも知れません。正妃様が懐妊されたら子供達は必要なくなるでしょうから。」
王弟殿下がどんな人かは解らないが悪王よりはマシだろう。
孤児院を経営するくらいだから。
全員が孤児院に行くといい。
ステラは王宮から解放される。
「貴方といると子供達が落ち着くようね。食事の時間が穏やかになるわ。私達の時は騒がしいのよ。」
「気のせいです。私は陰気で子供達に好かれる要素はありませんから。」
「そうかしら?」
懐いてもらっては困る。
ステラはこちらの手伝いに来るのをやめようと思った。
侍女が言っていたようにショーンと呼ばれた王子は孤児院に引き取られて行ったようだ。
その後の様子は知ることが出来ないが気まぐれに殺されたりはしないだろう。
目の前で親が殺された記憶は薄れて行くかも知れないが消えはしない。
トラウマを抱えて生きるしかない。
将来憎悪に変わらなければ良いけれど。
ステラは今日も祈る。
夫が元気でいます様に
アクアとリオが健やかであります様に
ルーナが保護された先に幸せがあります様に
毎日ひたすら地味に慎ましく過ごした。
淡々とした日々が過ぎて行く。
苦しくなるので先を考えるのをやめた。
シリウス王子は義兄弟と仲良く過ごしている。
部屋を行き来する事も増えて明るくなった。
歳上の義兄から色んな事を教わるのは良い事だ。
日々成長するシリウス王子に侍女頭のルイーズは喜んだ。
「ルイーズ、何故姫はいないのだ?義兄弟は男ばかりだ。兄上に聞いても解らんと言われた。」
「姫さま方は別邸でお過ごしなのです。婚約者が決まるとこの城から出ていかれます。」
ステラは半分嘘だなと思う。
位の高い娘以外はもうこの世にはいないだろう。
残った娘は相当な器量良しくらいかも知れない。
悪王の毒牙にかかりません様に。
溜息しか出て来なかった。
シリウス王子は好奇心が旺盛だ。
義兄弟から様々な事を知り得ては心を痛めて時折涙を流していた。
こんな小さいのに理解しているのか疑問だが泣いているのは少なからず理解しているのだろう。
ステラは陰からそっと見守る。
夫と子供に会いたいという願いにもうひとつ願いが加わった。
(誰でもいい。将来この王子たちの誰かが悪王を排除してくれます様に。)
もうすぐ正妃様に子供が産まれる。
王子が産まれたなら王位継承権はその子だろう。
ステラは解放される日々を夢見て少しだけ希望を感じた。