続・シリウスの視察
今回モンクスフードへやって来たのはシリウス達だけではない。
他国からも外交官らしき人物や高位貴族らしき者が船から降り立った。
シリウスは義兄弟数人と護衛と共に来た。将来的に政治に関わるであろう王族の血を引いた兄弟だ。
数多いる義兄弟の中でも出自のはっきりした者を選んだ。
シリウスが選んだわけではないが。
シリウスより歳上の義兄弟がこの国に従って挨拶をした。
「我がモンクスフードをご理解頂き光栄です。神のお導きに感謝します。」
白髪混じりの壮年の男性が修道士なのだろう。
シリウスは事前にモンクスフードの建国の本を読み歴史を頭に叩き込んで来た。
「嬉しいですね。我が国の独特の挨拶をご存知とは。」
「こちらへ来る前に齧っただけなのです。付け焼き刃で申し訳ありません。」
「いえいえ、そのお気持ちが嬉しいのです。」
勉強して来た者とそうでない者、どちらが正しいかはわからないが嬉しいと言われたのならば良かったとシリウスは思う。
今回シリウスは礼儀として学んでから行く様にと提案したのだ。
聖獣も嬉しそうに頷いていた。
「フードの衣装は常に着ているわけではないのですか?」
「ああ、名前の由来のマントですね。歴史を遡ると相応しく無い衣装なのですよ。修道士ではありますが普段は別の仕事をしています。」
門外不出の歴史があるのだなと思った。
「皆さんお疲れでしょう。夜の食事会までゆっくりお過ごし下さい。街のホテルをご用意致しました。」
ホテルは思ったより立派だった。貴族制度の無い国なので小さな街や広大な畑を想像していたのだ。
ホテルの部屋の窓から見える遠くの景色は農地だ。
あちこちに教会らしき建物が見える。
街を流れる川は両側の堤防が整備されていて木やベンチや花壇が等間隔に並び憩いの場になっている。
(散歩にでようか)
「シリウス様、私は出掛けますが宜しいですか?お友達が港のホテルにおりますの。夕方のパーティーまでには戻りますわ。どうせシリウス様はお誘いしても行きませんわよね?」
「よく解っているな。夕方下のロビーで待つ。」
ヴィオラは他国に友人が多い。さすが侯爵家の娘だ。
解放されたシリウスは義兄弟を誘い散歩に出た。
幼い頃から仲の良いショーンと婚約者のリリーだ。
「俺たちは春には式を挙げるがシリウス達はまだなのか?婚約期間は誰よりも長いだろう?」
「ここだけの話婚約者候補だ。いつでも解消出来る。母上が良しと言わない限りはな。」
「そうか、お前ヴィオラ様好きじゃ無いもんな。」
「シリウス様のお眼鏡に叶う方は居ませんの?ヴィオラ様は性格が少々厳ついですもんね。」
3人は仲が良い。複雑な血筋だが皇族だ。リリーにも少なからず皇族の血が流れている。
「男爵や子爵家の子を虐めていたもんな。何でシリウスがあの子を選んだのか全く理解出来ないよ。」
「そうですわ、他にも性格も容姿も良い娘が大勢おりましたのに。」
何故性格の厳つい難ありのヴィオラを選んだのか。
答えは簡単だ。
絶対好きにならないから。
「浮気しそうだろ?」
「あ、成程ね。いつでも切れる訳か。」
「正解。」
悪戯っ子のような幼い笑顔を見せるのはこの3人でいる時だけだろうとショーンは常にシリウスを心配している。
王太子など貧乏籤のハズレだ。
容姿に優れて賢かったが為に選ばれてしまった。
ショーンは全力を出さない様に賢く立ち回っている。
その方が楽だから。
「産まれたらお前は唯の王子になれるんだろ?」
「そうだな、お2人の血を引く正当な赤子が王太子になればいい。俺たちはニコラス様の子ではないからな。」
「もう少しの我慢だシリウス。支える側に回ろうぜ。」
「シリウス様、性格の良い子を探して婚姻を結んでくださいね。何なら私が探しますわよ?」
3人は子供の様にはしゃいで観光をした。
あちらこちらで珍しい食べ物を買い川縁に座って食べた。
ヴィオラだけが場違いな大仰なドレスを着込んでいる。
修道士は食事会と言っていた。
パーティだと勘違いした結果ひとりだけ浮いている。
「ショーン、挨拶回りするぞ。」
「では私も。」
「ヴィオラ嬢は必要ない。他国との交流を深めてくれれば良い。」
シリウスの狙いは決まっている。
国王の名代で来た事を告げモンクスフード式の挨拶をする。
「ジョージ・フォレスターと申します。お会い出来て光栄です。私だと直ぐにおわかりになったのは何故ですか?」
フォレスター医師は和かに問う。
「建国の物語は何度も読みました。私の憧れの国なのです。フォレスター殿の瞳は特有のオッドアイでいらっしゃる。グリーンがかった髪も正当な血筋の証ではありませんか?」
「我が国の建国物語は他国で手に入れるのは難しい。だが読んで下さったのは嬉しいですね。」
「皇族の端くれですから。ここまではっきりした建国物語は知る限りモンクスフードだけです。」
「お若いのに御謙遜を。今回の目的は薬でしょう?」
「はい。モンクスフードの薬草の素晴らしい効能は我が国にも届いております。是非お取り引きを願いたい。」
フォレスターの和かな笑顔は崩れない。
「シリウス様と仰っしゃいましたか。」
「敬称は入りません。国では王太子と言う立場ですが知識の浅い未熟者ですので。」
「ではシリウス、敬愛を込めて呼びますからお許しくださいね、まずはお食事をどうぞ。」
円卓にフォレスターとシリウス、ショーンが座ると前菜が運ばれて来た。
貴族の居ない国だがフォレスターの所作は完璧だ。
ついでに言えば料理も美味い。
凝っている訳でもなく珍しい料理でも無い。何処の国にもあるメニューだ。
「野菜も肉も魚ですら力強く感じました。食材に何か秘訣でもあるのですか?」
「シリウスにもショーンにもわかるのですね。とても嬉しいです。我がフォレスターの土地で育った薬草は多くの民を癒して来ました。他国の薬草と何ら変わりは無いはずです。では何故モンクスフードの薬を皆が欲しがるのでしょう。私にはわかりません。」
薬を買いに行ったならば棚に並ぶ薬から選ぶのはモンクスフード産だ。
誰もが常識のようになっている。
「皆さん勘違いをしていますが何でも治る薬など存在しないのです。腹痛や頭痛を和らげる程度の物しかありません。言わば風邪薬ですね。ですが何故モンクスフード産を欲しがるのでしょう。」
「長寿で病死が圧倒的に少ないからです。違いますか?」
「よくご存知ですね。ですが薬を飲んだからと言って病気を防げる訳はありません。おふたりともおかわりは如何ですか?もうデザートをお持ちしましょうか?」
シリウスとショーンはデザートを頼む。
「バランスの取れた食事だった。この国では普通ですか?」
「そうですね、バランスですよシリウス。野菜を中心にしたメニュー、それが答えです。」
「長寿の秘訣なのですか?」
「そうですよ。肉も魚も食べますがね。睡眠、食事、運動。それだけです。」
「祈りもですね。とても素晴らしい教えだと思います。」
「確かにそれも関係あるかも知れません。教会も多く修道士が大勢います。機会があれば祈りの日に参加してみては如何です?歌がお得意ならばおすすめします。」
「歌?祈りではないのか?」
「祈りの歌を皆で歌うのです。跪き手を合わせるだけが祈りではないのですよ。明日は薬草畑を視察されますか?明日の夜は街の外れでお祭りがあります。若者が集まりますから交流されてはどうですか?」
にっこり笑ってフォレスターは席を立った。
シリウスがこの訪問で用があるのはこの男だけだった。
「薬に秘訣などないんだな。」
シリウスは大きな溜息を吐いた。
「食事が美味いな、シリウスがデザートまで食べるなんて。」
「フルーツも全部食べた。野菜がこんなに美味いとは思わなかったな。」
「国に必要なのは薬だけだが野菜も取り引きの視野に入れてはどうだ?」
そんな話をしているとリリーがやって来た。
「お食事は終わりました?とても美味しかったですわね。緑の手を持つと言う野菜に生命を吹き込む方がいるらしいんですの。お会いしたいですわ。」
植物を育てるのが上手い人をそう呼ぶが生命を吹き込むとは。
「明日は薬草畑の視察だ。その者に会えるか聞いてみよう。」
上質なドレスを纏ったヴィオラも食事は満足したのだろう。上機嫌でシリウスの隣に座り紅茶を飲んだ。
「すぐ会えますわよ。薬草畑を仕切っているのが緑の手を持つソルムと言う男性だそうですから。」




