優しい家族
「ああ、ルーナ何故このモンクスフードに居るんだい?」
「星のお導きだわ。」
「顔をよく見せて、深い海の瞳は貴方しか居ないわ。ああ、ルーナ。会いたかったわ。」
「こんなに可愛く成長したなんて!君を守れなかったお父さんを許してくれ、うっ。」
「リオは知っていたのね!何故言わないの!」
「あんたカーティスの側妃候補だったでしょう。カーティスは私と婚約していたのよ!」
4人が同時に話すので何を言っているか解らない。
母親はルーナの手をずっと握ったまま涙ぐんでいるし父親はルーナの前に跪いている。座っていても大きな体躯だなと見ているとその後ろにいるリオと目が合った。
「ちょっとみんな、いっぺんに話しても何を言ってるかわかんないよ!落ち着こう。まずはお茶を飲んで、はいこれ、ルーナも飲みな。」
(なにこれ、美味しい)
「気に入った?香りもいいだろ。さて、まずはルーナだ。いま何処に住んでるの?」
「ルイーズを道連れにこの国に来ました。船でお世話になったフォレスター医師の医院にいます。移民手続きの際ルイーズ・マーカスの孫として登録しました。学校へは行かずに医院で小さな子に読み書きを教えています。」
「そうか、1人じゃないなら安心だ。ルイーズとは上手くやっている?」
「はい。お祖母様と呼んでいます。私を理解してくれていますし仲も良いです。」
「ふーん、あの国からの追手はない?モンクスフードは中立国だからってまだ安心しない方がいいかもね。俺たち家族は大国で居場所が無くなって此処に来たんだ。君が魔法を消したからね。アクアもカーティスとの婚約は破棄されたよ。」
「そうでしたか。魔法を消した件は謝りません。あの陛下は諸外国に対して悪用していましたから。魔法も年々弱まっていたそうなので消えるのも時間の問題でした。それが少し早まっただけです。」
「追手が来るとしたら陛下だけど魔法のないあの人達は無力だよね。この国にも圧力をかけていたから入国も出来ないと思う。」
ルーナはシリウスのその後が知りたかったがリオは何も言わない。
「ルーナ、俺たちと住まないか?最初はみんな緊張するだろうけど父さんは面白い人だし母さんは優しいよ。アクアと君も仲良くなれるんじゃないかな。考えてよ。家族が会えたんだ。俺はみんなで暮らしたいな。」
リオは話が上手い。ルーナはちょっと心が揺らぐ。
「考えてみます。家族なんて考えた事もないし、欲しかった事もないから。」
ステラとソルムは心底悲しそうな顔をした。
「辛い生活をしてきたの?」
「いいえ、最初に育ててくれたのは王弟宮の料理人の夫婦でした。忙しい中でも親切にして頂きました。その後はバークレー伯爵家の養女として教育を受け大国のカーティス王子の側妃になるよう命じられたのです。私の意思は少しもありません。アクア様にご不快な思いをさせて申し訳ありませんでした。お詫び申し上げます。」
軽く頭を下げたルーナは簡素なワンピースを着ていても立派な貴族のお嬢様だった。
身に付いた美しい所作は頭を下げられた方のアクアが萎縮してしまう。
「ルーナが悪いんじゃないのはわかってるの。ごめんね、八つ当たりして。」
母親のステラがお茶を淹れ直してる所へ来客を知らせるベルが鳴る。
玄関を開けると何故かフォレスター医師とルイーズが立っていた。
「失礼、ジョージ・フォレスターと申します。こちらにルーナ・マーカスが来ていませんか?大柄な男性が連れ去ったと噂になっていましてね、聞き込みしたらこちらに辿り着いたのです。」
「お久しぶりですね、私を覚えていらっしゃいます?ルイーズ・マーカスです。」
対応したステラは覚えていない訳はない。この侍女頭の元でシリウスを育てていたのだから。
「ご無沙汰しております、ルイーズ様。ルーナは此方に来ております。お入りになって。」
ルイーズを見てあからさまに顔を歪めるアクアは正直者なのだろう。貴族には向かない。ましてや皇族の嫁など。破談になって良かったのではとルーナは思う。
それにしても何故フォレスター先生が来たのか。
「ルーナ、ご両親が見つかったのは喜ばしいですね。さぞかし嬉しいでしょう。」
「ありがとうございます。物心ついた時にはひとりでしたからまだ実感がないのです。」
「そうでしょうね、ルーナ、君にはまだやり残したことがあるだろう?薬草も植えたばかりではないか。子供達の食事改善もするのだろう?ご両親の元へは偶に遊びに来て徐々に慣れて行くのはどうかな?」
尤もらしい提案に聞こえる。両親も反対では無さそうだ。
けれど引っかかる。
先日まで食事改善に難色を示していたはずだ。
薬草の事だけ言われたら見逃していたかも知れない。
ルーナは疑い深いのだ。
「今日はお祖母様も交えてもう少しこちらで過ごします。先生は先にお帰りになられて下さいな。」
お祖母様というワードに両親も兄弟も面食らう。
「ならばそうしましょう。ルーナ、貴方は仕事がある事を忘れないで下さいね。」
「はい。夜には帰ります。お祖母様と。」
フォレスター医師は和かな笑みを浮かべて帰って行った。
ルーナが帰れと圧の顔をしたからだ。
貴族の嗜みも偶には役に立つ。
「ルイーズ、あれおかしいよね?船から私達を狙ってた?」
「あらルーナ、今頃気付いたの?鈍い子ねえ。誰に似たのかしら、あっ、失礼。」
「目的は何よ。また私を嫁に欲しいの?」
「それは微妙だけどあんたは大国の国王と親しいでしょ?ニコラス陛下達王族と面識もある。利用し甲斐があるからね。」
単純そうな父が憤慨している。アクアもまるで味方の様に怒っていた。先程まではルーナに厳しかったのに。
「リオ様、あの医師を調べれませんか?得意でしょう?」
「諜報か、やれなくはないけど。何で俺?」
「得意そうに見えたので。人の懐に入るのも。」
「私もやるわ。リオと騎士団にいたのよ。」
騎士団は体力仕事だろう。魔法もない今は何の役にも立たなそうだ。
「アクア様はお顔に気持ちが出過ぎです。向いてないと思います。」
「そうだな、アクアは我慢も苦手だもんな。」
「ですがカーティス様がいつも褒めていました。俺の可愛いアクアは天才だと。誰にもやらんと仰っていましたよ。」
アクアは唇をきゅっと結ぶ。
「魔法の天才だったのにあんたが消すから婚約破棄されたのよ!」
「アクア様は魔法以外も何でもそつ無くこなすのだとも仰っておりました。愛されているのですね。」
アクアはしょんぼりしてしまった。しまった、言い過ぎたかと反省する。
「ごめんね、ルーナ。あんたなんて言って。カーティスの事はもういいの。妃なんてなれないの気付いてたから。ルーナは立派な貴族の教育を受けて来たのね。所作でわかるわ。」
「教育は受けましたが貴族が立派かどうかは疑問です。何の役にも立たなさそうですし、もうバークレーからも勘当されてる筈です。」
「バークレーでは辛い事があったの?」
「辛くはないですね。何も望んだ事も無いですし。あ、大国に連れて行かれた時は辛かったです。知り合いも無くひとりぼっちでしたから。時々カーティス様がアクア様の自慢をしに来ました。」
半分は本当だ。カーティスはアクアが1番好きなのは間違い無いがルーナの事も気に入っていた様に見えた。だがそれは黙っておく。
「もっと早くルーナを見つけたかった。カーティスはもういいの。王族に関わりたくないわ。お帰り、ルーナ。」
アクアがルーナを抱きしめる。
ルーナは何も言えずに小さくハグを返した。
「ところで緑の手って何ですか?」
1番聞きたかった事を思い出した。




