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残されたシリウス

ルーナが消えた今いちばん貧乏籤を引いたのはシリウスだ。


(嵐のようなやつめ)


この世から魔法の力を消し去り聖獣と元魔女を味方につけ聖女の加護をもつ娘。


(ルーナか、まさかステラの娘だったなんて)


あの時何度もルーナはシリウスに視線を合わせて来た。

一緒に逃げようと言っていたと思う。

けれど答えられなかった。

自分の我儘の所為で捨てられた可哀想な赤ん坊。

まだ12歳だというのに人を信じる事が出来なくなった。

あの容姿なら微笑むだけで独り勝ちだろうに。


ずっとステラに会いたかった。

優しく厳しい母親のようなステラ。


(俺の所為で家族は引き離された)


今は何も考えたくない。

自分の甘さに反吐が出そうだ。



虚な顔のシリウスを王家はどうするつもりなのか。

国王は後始末などニコラスにさせよと言わんばかりに退位に同意した。

ニコラスは大国の国王と話し合いをしている。


シリウスはそっと場を離れようとしたが空色の髪の女性に手を引かれた。


「こちらへいらっしゃい。話があるの。」


シリウスは何の抵抗もなく黙って後をついて行った。


暖かい紅茶を勧められて少し落ち着いたらぼんやりしていた視界が少しだけ見えるようになってきた。


「私の事はご存知かしら?ニコラス殿下の妃でニコルと申します。あのルイーズの娘です。」


「ルイーズの、ですか。」


「貴方は誰より面倒臭い事に巻き込まれてしまったわね。多分ニコラス殿下と私の養子として王太子に任命されるでしょう。」


「そうですか。」


ジョイ、いや、ルーナはこんな心境だったのだなと改めて思う。命じられるまま養子に出され妻を娶り生涯を終えるのだ。


「私の魔法は母と同じで容姿を変えられるのよ。出来れば貴方を逃してあげたかったけれどもう叶わないわ。ルーナがこの世から魔法を消したから。」


味方と見せかけて敵かも知れない。本当にルーナの心境と同じだ。誰を信じていいのかわからない。ルーナはそんな中でシリウスだけを信頼してくれた。


「ルーナを責めているんじゃないの。寧ろ魔法が無くなって良かったと思う。これで大国も焦るでしょう。この国は資源が豊富だからまだ友好国でいられたけれど。」


「友好国じゃない国もあるのですか?」


「あるわよ。魔法を使って支配していた国がいくつもあるわ。」


「あの陛下は気の良いお爺さんくらいに思ってました。」


「ルーナのお気に入りの貴方にはそう見えたのかもね。これからは風当たりがきつくなるわ。けれど私が守るから。ニコラス様が国を変える。貴方は学びなさい。」


ルーナはいつも言っていた。勉強をして力を付ける。そして出て行くのだと。今ならその気持ちが痛いほどわかる。


「今はまだ大国の案を受け入れるはずよ。いつでも逃げれる様に学びなさい。貴方が受け入れるなら逃げろとは言わないわ。結婚して子を持てばその内王座が舞い込むかもね。」


「本当の父はアイザック様だと聞きました。」


「だから?これからはニコラス殿下が父親よ。慕っているなら良いけれどあの方は人の親になれないわ。人として何かが足りない。」


「はい。」

その通りだと思う。人を惹きつける容姿で男も女も魅了して来たアイザック様は魔法が解けた。

魔法が解けた、その言葉がピッタリだ。

良くも悪くもない普通の男、肉欲が激しいのか実年齢より老けた肌は荒れていた。


「それからルーナが言っていた妖精って聞いた事ある?聖獣と妖精を連れて行くと言っていたわ。陛下がその事を聞いているのにルーナはずっと無視していたわね。ふふふ、面白い娘だこと。聖獣も妖精も私の母まで連れ去って行った。この国はどうなるのかしら。」


「聖獣は見た事があります。妖精は1度も聞いた事はありません。どうなるのですか?」



聖獣とはその国の守神だ。天災から国を護る守護神。妖精はその神の化身だと言われる。大地と植物の護りを担う。

妖精が祝福を授けた土地は豊かな実りを約束される。


「その両方が居なくなったの。どうなるかしらね。」


「ステラが言っていました。実りを大切に食べなさいと。育った大地にも育てた農夫にも調理をしたコックにも感謝を忘れるなと。そしてそれを与えてくれる親に感謝をしなさいと。俺はずっとニコラス様が父親だと信じていました。」


「ずっとニコラス様に感謝をしていたのね。素晴らしい教えだわ。学校の教科書に載せなくてはね。」


ステラにも感謝を忘れないようにと言われたが複雑だ。

ルーナだってステラの元で育っていたら明るく年相応に笑う少女でいられたかも知れない。

自分が奪った。


「暫くは気分が上がったり下がったりを繰り返すと思うわ。けれど自分がしたい事を忘れないで。無いなら探すのを目標にして。時の流れに生きていては時間が勿体ないわ。子供が成長する時間ってあっという間なんだから。ぐずぐずしていたらすぐ結婚よ。」


「何故俺の味方を?」


ニコルは敵でも味方でも無いけれど命は必ず守ると言った。

シリウスがどう生きるのかを見届けたいそうだ。

こんな俺に何か期待されても困る。

王族の血がほんの少しだけ流れているに過ぎないのだから。



その翌日には長年暮らした王弟宮を出て王宮に居を移した。

生まれ育った別邸ではなく居心地が良いとは言い難い本邸で暮らす事になった。


学校へは前と変わらず通う事にした。

学校も街も何も変わっていない。

変わったのは王弟殿下とその息子であるガブリエルとアイザックの容姿だけだ。

容姿に自信のあった彼らは公の場に出ないかもしれない。

殆どの仕事はニコラス様が引き受けていたから問題はない。


誰の息子だろうが誰の養子だろうが自分は自分、そう前向きに思えたのは残された1通の手紙があったからだ。




シリウスへ


この手紙がシリウスに届くかな。

私の手を取ってくれたのなら届かないね。


手紙を読んでるって事はお別れをした事になる。

どっちかな。


シリウスの大事な乳母ステラは私のお母さんでした。

それを教えてくれたのはシリウスの侍女頭だったルイーズです。

シリウスがステラの教えをずっと守ってるのを知ってます。

シリウスを知るに連れステラは立派な方なんだなと思う様になりました。

けれど知った今も自分の親だとは思えないの。

こんな歪んだ私とは似ても似つかないでしょう?



私はこの世から魔法を消す力を手に入れました。

魔法は使い方で善にも悪にもなります。

陛下は悪でした。私は少なくともそう思いました。

ちょっとばかり人より優れた力があるだけで威張り散らすのはどうかと思う。

だから消すの。

人間として産まれたなら平等じゃなくちゃね。

ルイーズにそう言ったら貴方の容姿は平等じゃないわよと言われたけどこの容姿で良かった事なんてひとつもない。

シリウスにも何度も話したけれど利用されるだけだから。


魔法を消した後は殺されるかも知れない。

でも聖獣が護ってくれるはず。

この国を出よう、シリウス!!!


誰にも支配されない所で生きたい。

そう思わない?


明日私の手を取ってくれる事を祈りながら眠ります。

誰に祈ろう?

大好きなシリウスに祈ります。


この手紙がシリウスに届かずにすむように。


愛と私の快進撃成功の祈りを込めて



ルーナ(ジョイより気に入ってるの。シリウスの名前に近いから。王弟殿下に付けられた名前なんていらないし)


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