ルーナの魔法 後編
ルイーズへ
様は付けないわ。
貴方のせいで捨てられたし。
でも恨んでないから安心して。
私を最初に見つけてくれたのが聖獣だったから。
そんな人他に居ないでしょう?
会いに行こうと思っていたけど辞めておく。
情がわいてうっかり助けちゃいそうだから。
それに貴方も人を殺めたでしょう?
向こうで会ったらちゃんと謝ってね。
恨んで幽霊になってたら会えないけど。
知ってる?幽霊って絶対白い服なんだって。
独りで旅立つのは寂しい?
道連れが欲しいと思う?
残念だけど私には出来ないの。
人の命を奪うなんて出来ない。
悪い事だってわかるから。
それに今更誰が死んでも変わらないでしょう?
しれっと悪事を重ねて来た人間が更生するとも思えない。
だからお仕置きをする。
貴方が処刑される前にそれを見せれるといいんだけど。
でも気が向いたら会いに行くね。
私手紙を書くのは2度目なの。
最初はシリウスで次はルイーズ。
貴方は信用できるって思った。
だって見えるから。
陛下は見えなくなったんだよ。
心が汚れたのね。
あ、妖精に会ったよ。
どんなか知りたいでしょ。
裏に絵を描いたから見てね。
私が鉄槌を下すまでは生きていて。
ルーナ
聖獣が密かに現れて手紙を渡す。
ルイーズはくすくす笑いながら読んだ。
裏に描かれた妖精はお世辞にも上手とは言えず、それを知ってか解説付きだった。
(本当に面白い子だこと。ステラは堅物だったのに。旦那様に似たのかしらね。)
「返事は書けないわよ。紙もないしペンもないから。伝えてくれる?ルーナに助け出して貰う気でいたけど手紙を読んで諦めたって。」
聖獣はもう1通の封筒を渡した。
中には紙とペンが入っている。
返事を書けという事か。
ルイーズはさらさらと絵を描いた。
受け取った聖獣は姿を消した。
「なにこれ。可愛いんだけど。」
ルイーズが描いたのは聖獣の絵だった。
可愛らしくデフォルメされた聖獣は大きな目をしている。
ふわふわの鬣はケーキのクリームのようだ。
胸元に三日月のネックレスをしている。
絵の右下に丸い文字で何か書いてあった。
ユニコーン
「美化しすぎじゃない?」
《可愛らしいな》
《ルイーズには我等がこう見えているのか》
「そんな訳ないよ。可愛く描いてもらえて良かったね。」
《この絵は国中の女子を魅了するだろう》
《ハンカチなどに刺繍されるだろうよ》
「何にまにましてんの。気持ち悪いよ!」
《こんなに可愛い我等に気持ち悪いなどと言う奴はお前だけだぞ》
《大丈夫だ、お前も可愛い》
「この三日月は私なのかな。丸い月だと何かわからないけど。私だったら嬉しい。」
ルイーズは中々処刑されなかった。
王家は毎日毎日話し合いを重ねている。
ボンクラが話し合っても対して案は浮かばないだろうとルーナは思う。
リオは毎日ルーナに会いに来る。
「シリウスは部屋に軟禁状態だ。あいつをどうしたいんだか。俺は大国に連れて行きたいんだよね。この国に残っても心配だからさ。」
シリウスの今後を考えているようでルーナはこの男も信用出来そうだと思った。
少なくともシリウスを利用はしないだろう。
「色んな便利な道具を見せてあげたい。」
「そうだろ?シリウス絶対気にいると思うんだよね。」
「何故軟禁されてるの?」
リオは顔を曇らせた。
「王家はこのままの生活を維持したい。まあ国王は引退してニコラス様が継ぐのが良いんだけどさ、王弟殿下の息子が反対している。」
「どうして?」
「国民に優しいニコラス様が王位を継いだら王族も慎ましい生活を強いられるからさ。それは陛下も望んでいる。魔法で動いている色んな事が弱り始めてるんだ。だから陛下はこの国の資源が欲しい。」
「ああ見えて阿呆な王弟殿下のが操りやすいって事?」
リオは笑いながらルーナな髪をくしゃくしゃに撫でた。
「で?シリウスは何故?」
「後継者だよ。何人もいる子供達の中で1番賢く見目が良い。性格もよく人望も厚い。」
ルーナは怒りに満ちていた。
尻拭いをさせるなんて許せないと。
「人を見る目だけはあるんだな。シリウスの他にも沢山優秀な子は居るらしいのに。」
「何故陛下までシリウス推しなの?」
「ルーナに護られているからだよ。聖獣からの加護を得たシリウスは将来安泰に決まってんじゃん。陛下はルーナを孫の嫁にすればシリウスも下手な事はしないだろ?」
また利用されるんだ。国の為、王家の為に。
ルーナは怒りで頭が煮え繰り返りそうになっていた。
だからリオからルーナと呼ばれた事に気づかなかった。
リオとルーナの会話が途切れて随分経った頃に慌ただしく陛下の側近が2人を迎えに来た。
ルーナに剣を刺した男だ。名前なんて覚えない。
着いた先は天井の高い大きなホールだった。
たくさんの窓も扉も閉め切られて少し蒸し暑い。
窓の外には護衛が何人もいる。
扉の外にも居るのだろう。
左右の玉座にそれぞれの王が座る。
立派な椅子が左右対称に置かれ王族が座った。
陛下側の椅子には側近達が座る。
ルーナとリオは下座に立たされたままだ。
(シリウスがいる。良かった、見た目は元気そうだ。)
ルーナに気付いたシリウスは小さく頷いた。
「連れて来い。」
ルイーズが手にも足にも枷を付けられ両脇を抱き抱える様に連れて来られる。
ルイーズひとりに全ての罪をなすりつけるのだ。
「お前が死んでもその魔法は娘が引き継ぐ。安心してあの世へ行くが良い。何か最後に言いたい事はあるか。」
ルイーズは顔を上げるとルーナを真っ直ぐ見つめた。
これから死ぬとは思えない程に輝いた瞳で見てくる。
何も言わないが鉄槌を下せという事だろう。
ルーナは何故だか楽しくなって来た。
軽い足取りで前に出る。
すぐさま護衛に剣を向けられるが気にしない。
陛下が剣を下げさた。
「ジョイ、何か言いたいことでもあるのか?」
「山程ございますがそれよりも聞きたいことがございます。」
「何だ、申してみよ。」
「陛下の魔法の力は何なのでしょう。」
陛下はふっと小さく笑みを浮かべた。
国の頂に長い間君臨している男に相応しい笑みだ。
王家らしくない傍若無人な態度が許されるこの男の魔法とは。
「魔法による攻撃を止める事ができる。言わば無敵だ。」
なるほど、だから強気で居られるのか。
魔法の力は年々弱まって居るというのに。
そんな力は無用だとルーナは思う。
「癒しの魔法だけはずっと残って貰いたいですね。ですがそれももう終わりです。」
そう言ってルーナは両手の拳を前に出しぎゅっと握りしめた。
見えない何かを握り潰す様に固く固く。
見ている者は何が起こっているのかわからない。
「なんだそれは。何かの呪いか?ジョイには魔法は使えんだろう?」
陛下に聞かれたルーナは楽しそうに微笑んだ。
元々の美しい容姿も相まって微笑むルーナは神々しくもある。
それを見た王族は天使だ、妖精だと口にするが本当の妖精を見たルーナはアレと一緒にしないでくれと思う。天使は知らないがどうせ人間が美化しているに違いない。
「私も魔法の力を授かりましたの。今それを使った所です。ニコラス様は魔法の治療は終わりました?これからは自力で回復しませんと。ルイーズ様の魔法の力も消えましたからね。名札を用意しませんと誰かわからなくなりそうです。」
王族はニコラス様以外顔が変わっていた。
王弟殿下は背丈こそ変わらないが老人のようになっている。
「ジョイ、お前の魔法とは何なのだ。お前も容姿を変えられる闇魔法なのか!」
「いいえ、陛下。私の魔法は魔法を無効化するのです。陛下の魔法を先に聞いておいて良かったです。」
陛下は慌ててルーナに向かい魔法を掛けた。
だが何も起こらない。無効化したから。
「この世から魔法は消えました。ルイーズの魔法も解けてます。皆様の本来のお姿に戻りましたわね。」
ルイーズは満足そうに微笑んでいた。
「お前のした事で混乱を招くぞ。国の運営が成り立たなくなる。罪を犯したのだ。」
「あら、ラインハルト先生の研究があるではありませんか。元々弱まった魔法を補う為の研究なのでしょう?」
「まだ完成ではない!」
「だからラインハルト先生の恋人を質に取っているのですね。えげつない人ですこと。」
「聖獣も居ないお前など価値はないぞ。そんな口の聞き方で平穏な日々を送れると思うな。」
本性を剥き出しにした陛下はルーナの首に手をかける。
ルーナの細い首など片手で充分絞めれるだろう。
だがどれだけ力を込めてもルーナが苦しむことは無かった。
「何故死なぬ。魔法は消えたのだろう?」
「魔法は消えました。魔法はね。」
「加護は消えぬと申すか。」
「癒しの力は魔法とは違う様です。本来持って産まれた力なのです。聖女の末裔の方は失う事なく発揮出来るのではないでしょうか。」
「ならばーー
「また権力で末裔を囲みますか?ならば私は願います。癒しの力は未来永劫分け隔てなく使われます様に。」
妖精から祝福のキスを受けた頬を触りながらルーナは強く願った。
ルーナの願いに満足そうに笑っているのは聖獣だった。
《くだらない願いに使うかと思っていたぞ》
《シリウスとの未来を望んでも良かったのだかな》
「あ、シリウスの幸せを願えば良かった!」
「聖獣が居るのか?魔法が消えても聖獣は消えぬか。ジョイよ、まだシリウスの幸せだけを願うか。シリウスの我儘でお前は家族と引き離され捨てられたのにな。」
「え?」
普段強気なルーナも優しいシリウスも陛下の言葉で立ち尽くすしかなかった。




