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ルイーズ

(いた。絶対そうだ。)


この王弟宮に来てから時々見かけたメイド。シリウスが1人の時は必ずこのメイドが部屋を掃除しに来る。


(ルイーズだ。)


濃いメイクで誤魔化しているが老いた手は隠しきれていない。ハイネックのメイド服から覗く細い首も年相応に皺がある。

皆の目には若く清楚なメイドに見えているのだろう。

だがシリウスには昔世話になったルイーズが歳を取り若作りな化粧をしているに過ぎなかった。



「シリウス様、お掃除をしますのでお部屋から出て下さいませ。30分程で済ませます。」


「今日はしなくともよい。ずっとこの部屋にいるが汚れてはおらん。」


「シリウス様のお部屋が乱れていた事はございませんが寝具だけでもお取り替えをさせて下さい。」


この数日ずっと部屋に軟禁されている。

大して汚れてもいない。

ルイーズは頭を下げてシリウスが出ていくのを待っている。

出たところで別の部屋に閉じこめられるだけなのだが。


「わかった。30分だな。ああ、これは持って行かねばな。」


シリウスは枕の下から4通の封筒を取り出した。

ルイーズによく見える様に。

だが頭を下げている為気付かない。

シリウスは態と1通を落とした。


「おっと。落としてしまった。」


ルイーズは封筒に気付き顔を上げた。



「掃除の手間が省けました。ありがとうございます。」


「久しいな、ルイーズ。」


「私がこれを取りに戻った時にはシリウス様が持ち出した後でした。私の物です。お返しください。」


「渡す訳にはいかんな。あとひとつは見つかったのか?」


「ですからその4通を取り返しに来ましたの。怪我をしないうちに寄越しなさい。」


「奪ってみろ。俺が怪我をしようが奪うのだろう?」


「何故私がルイーズだと?」


「世話になったあの頃と同じ顔だからだ。」


その頃より確実に老けているが言わないでおいた。


「やっぱり、貴方はステラの加護を貰ったのね。だから私の魔法が効かないんだわ。」


「姿を変える魔法か、闇の力とは本当か?」


「そうね、本当よ。私の邪魔をしなければ生かしておいてあげるけど。」


「邪魔しなければ何をする気だ。」


「・・・時間があまりないのよ。悪く思わないで。」



シリウスを一瞬で拘束したのはルイーズの後ろにいたメイドだった。

ルイーズはすかさずシリウスの懐から4通の封筒を取り出した。

中身を確認するとニヤリと笑った。


「揃った。これで終わらせる。」


だがルイーズは部屋から出れなかった。





《シリウスは死んではおらんぞ》

《眠っているだけだ》


「シリウスはちゃんと目覚めるんでしょうね?」


シリウスの危険を察知した聖獣がこの部屋に来た時に既に眠らされていた。

ルーナは聖獣の後を追う様に気を辿りやって来た。


ルイーズとルーナは睨み合う。

ルイーズの横の若いメイドがルーナに向けて詠唱を唱える。


(魔法を使う気か。)


何やら技らしき事を言い片手を向けて来た。



何度唱えてもルーナには効かなかった。

この隙にルイーズが5枚の詠唱が書かれた紙を重ね小瓶の液を垂らす。


(まじか。お話の中だけだと思っていたけど現実にあるんだ、あんな謎の液体。)


「これで完成だ。王家もこの国も終わる。腐った国は何も無い大地からやり直せ。」




「まずはそちらのメイドさん、貴方の拘束の魔法は私には効かないわ。」


メイドは駆けつけた王弟宮の者に捕らえられた。


ルイーズはただルーナを睨む。


「喚き散らさないの?」


「喚いたところで捕まるわ。」


「種明かしが聞きたい?」


「そうね、最後に聞きたいわ。貴方がやったの?」


「そう。詠唱を書き替えたの。闇魔法が消える様に。」


ルイーズは驚いた様にルーナを見つめる。

穴が開くほど見つめられたルーナを見て意外なほど優しく微笑んだ為に逆にルーナが萎縮してしまう。


「ああ、生きていたのね、ルーナ。確実に殺しておけば良かったわ。まさか生きながらえていたなんて。」



(・・・ルーナ?)


遠くからたくさんの足音が聞こえる。

きっと王弟殿下やサイラス陛下達だ。

ルイーズを捕らえに来た。


ルーナは呆然として動けない。


(シリウスを起こさなくっちゃ)


「ルーナ、王族など信じてはいけない。私は奴らを滅ぼす為に闇堕ちした。奴らは悪だ。私はこのまま処刑されるだろう。魔法を封じて。強く願うのよ。」


ルイーズは捕らえられたようだ。

ルーナはその場で倒れてしまった為に彼女が連行された所は見なかった。


サイラス陛下達と距離を置いていたルーナは元両親と暮らしていた狭い部屋のベッドで目が覚めた。


「ジョイ、気分はどう?」

「・・母さま。」

「どうしたの?泣きそうな顔をしているわ。」

「・・泣きたい。」


育ての親であるジーナはルーナをそっと抱きしめて泣いても良いわよと言った。

ルーナは懐かしいジーナの甘いお菓子の匂いに包まれて泣きじゃくった。

本当にジーナの子供だったら良かったのに。

王族となんて関わりたく無かったのに。


「リオって男の子が貴方を連れて来たのよ。起きた時に私がいれば安心するだろうからって。」


ジーナは親指の腹で涙を拭ってやった。


「・・母さま、王弟宮の人達は母さまに優しい?」


ジーナはまた優しくルーナを抱きしめる。


「仕事を与えてくれるからね。唯、与え過ぎだから私とルーカスは子供を作る暇がなかったわ。貴方を養子に迎える前に一度身籠ったけれど忙し過ぎて流産してしまったの。貴方が王族に見初められ無い様にいつも男の子の服を着せていたわ。覚えてる?」


ルーナは小さく頷いた。


「貴方の世話もあまり出来なかった。常に仕事が舞い込んで来たから。ごめんねジョイ。貴方を手放したくなかったわ。」


今度はジーナが涙ぐんだのでルーナは涙を止めてぎゅっと抱きつく腕に力をこめた。


「王家はそんなに酷いの?」


「そうね、平民からすれば良くはないわね。だから大国に助けを求めたのよ。それから少しだけマシになった。」


ルーナは考えなければならない事が沢山ありすぎた。

こうしていつまでもジーナに抱きついていたいがそんな訳にはいかないだろう。



「あ、シリウスは?シリウスは無事なの?」


《生きてるぞ》

《また部屋に閉じ込められてはいるがな》


「また?まあ生きてるなら良いわ。ルイーズは?」


《公開処刑だろうな》

《王家の犯した罪も全てルイーズになすりつけるだろう》

《今頃王族は会議だ》


「ルイーズに会えない?こっそり。」


《シリウスにではないのか》


「まずはルイーズ。聞きたいことがあるの。」


聖獣とのやり取りを見ていたジーナはルーナの頭を優しくなでた。


「今も変な子が見えるの?小さな内だけだと思ってたけど。不思議な力があるのね。」


聖獣は変な子と言われて懐かしさを覚えた。

そんな事もあったなと。


「うん。私不思議な力があるみたい。その力を正義の為に使いたい。シリウスならきっとそうするから。」


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