表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/80

ニコラス殿下と妃のニコル

いつから記憶がないのだろう。

頭がぼんやりするのは薬のせいだ。

もう針を刺す場所などないくらい両腕は変色している。


「ニコル、私はあとどのくらい生きられる?」

「ニコラス様、そんな事言わないで下さい。」


あと少しの我慢だ。

あと少しで全てが終わる。

解放されたい。

 

「眠ってください。私がお側におります。」


現国王の長子ニコラスは今にも死にそうだった。

元から細身で背もあまり高くなく色白であった為に健康そうには見えなかった。

だが現在彼は誰が見ても病人だ。


国王である父の忠実な臣下として日々を過ごしていた。

民の為に常に尽くし寄り添い公務に励んだ。

幸いこの国は豊かな土壌で作物の実りも良く他国と違い魔獣の被害もない。

穀物を流通する事で国庫は潤っている。

それが間違いだったのか。


父も弟も欲を出した。

大国など手に入る訳はないのに。



最初の妃は誰だったか。

婚姻前に顔を合わせる事なく式を挙げた。

それでも数ヶ月は幸せだったような気もする。

知らないうちに妃は増え続けた。

夜伽の度に強い香が焚かれ快楽すらも覚えていない。

側妃達の名前すら知らない。


ある日夜中に目覚めた時に寝ている自分の横で弟と名前も知らない妃が睦み合っているのを見た時に悟った。


(ああ、良かった。私の子供は居ないのだな。薬物まみれの子では可哀想だからな。)


何十人もの子が自分の子ではない事に心底胸を撫で下ろし気付かない振りをして眠った。

あとは暴君でいればいい。


最後に私に嫁いで来たニコルは顔に大きな傷があった。

傷のせいで結婚は諦めていたが自ら望んで嫁いで来た。

なぜ私に?

良い噂などひとつもない。


「ニコラス様が民の為に尽くしてくださった事は皆覚えています。ご乱心を心配しているでしょう。」


そうだ、潤った国庫を使い工場を建設し学校を建て貧しい民の為に居住区を設け住む場所を整えた。

親が働けば子はまともに育つ。子は学ばねば生きていけないだろう。

父や弟には煩わしかったのだ。

父は狡賢い。長いものに巻かれたがる。

だから大国に擦り寄った。

弟は美味い汁だけを吸い取る。


だからいまだに執務をする為だけに生かされている。


「ニコラス様、眠ってください。私がお側におります。」

「そうだな、先程も言われたな。」


瞼を閉じ僅かな安堵を感じた時だった。



「失礼する。ニコラス様にお会いしたく参った。」


突然部屋に入って来たのは大柄で精悍な顔つきの男性だった。

後ろに2人の護衛らしき者も従えているこの男は。


「陛下、何故この場所が。」


ニコルは眠ったばかりのニコラスの前に出て庇うように問うた。


「面会を希望しても会わせて貰えないだろう?王弟殿下がひた隠しにしているからな。具合はどうだ?もう限界に近いのではないか?」


陛下は無遠慮にニコラスに近づくと腕をそっと持ち脈をとる。


「辛うじて生きているな。これを飲めるか?其方の父上にも与えた聖女の薬だ。」


慣れた手付きでニコラスに薬を与える。


「これは酷いな。かなり薬を盛られているな。おい、アベル結界を忘れるなよ。」

「承知しております。

「こっちのジェイムズは医師なのだ。診させてもらうぞ。」


医師なのに鞄から器具を取り出す訳でもない。

ジェイムズと呼ばれた男は触診を始めた。

ひたすら顔や身体に指を這わせる。


「臓器が悲鳴をあげてますね。」


ジェイムズは汗だくだった。

ハンカチで汗を拭いながら考え事をしている。


「血の流れが良くなったはずです。溜まっていた毒素は汗や排泄で出て来ます。お世話してあげて下さい。吐き気もあると思います。陛下の薬は毎日飲んでくださいね。」

「魔法だよ、彼等は国の魔法使いの中でも優秀だ。この部屋にも結界を張った。会話も聞かれる事はない。安心して過ごせ。」


ニコルはホッとしたような何か言いたげな顔をしている。

ジェイムズは施術の説明をした。


「指先で触ると弱っている箇所が解るのです。聖女のように光で治せる力はありませんが溜まった毒素を分解できます。

それが上手く排泄出来れば良くなるでしょう。人間は食べる事と排泄が1人で出来れば生きられますからね。」


「我が国でも珍しい使い手だ。少しずつ回復するだろう。王弟殿下から薬を渡される事はもうない。脅しておいたからな。」

「眠りましたね。汗が出始めましたよ。薬漬けでしたから汗の匂いが強いと思います。湯浴みの用意もお願いします。」


久しぶりに見る安らかな寝顔にニコルは泣きそうになる。

ニコラスは助かったのだ。

あとは生きる意思があればいい。

ニコルは堪えきれずに涙を流した。


「陛下にお会いしとうございました。」

ニコルは自分に掛けた魔法を解いた。

現れたのは若く美しい空色の髪をした女だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ