リオとシリウス
シリウスはいつもの様に庭をぶらぶらした後にサロンに寄りお茶を飲んだ。
そしていつもの様にお茶を用意してくれたメイドに礼を言うと自室に戻った。
なんとなく怪しまれている様な気がしたからだ。
学校の鞄は従者が侍女に預ける。
そしてそれは侍女がシリウスの自室に届けてくれるのだ。
お腹に隠したノートが落ちないようにゆっくり歩く。
預けたカバンに入れたノートは乱雑に入れたがきちんと揃えて入れ直してあった。
侍女が直したのか他の誰かが見たのかはわからない。
何か印をしておけば良かったと思った。
平静を装いノートを開く。
誰も見ていないので装う必要もないのだが鼓動を抑える為に仕方がないのだ。
最初の妃から記載されている。
いつ婚姻をして子が何人産まれたか。
妃の名前、実家の家族まで書かれている。
エリザ・バーナード
×××年 AU3 シリウス
あった。
初めて知る母親の名前を指でなぞる。
(ああ、誕生日は合っているな。嘘かと思っていたが。)
自分の誕生日の記載もついでになぞってみた。
婚約者のいた母はシリウスを産むと直ぐに実家へ帰ったようだ。
その婚約者とどうなったかは書かれていない。
シリウスは目を閉じて頭の中で覚えている限りの貴族街を思い出す。
マーカス侯爵家から始まり順に辿る。
だが全部を覚えている訳ではないので行き詰まってしまう。
もう1度ノートを開くと義兄弟達の名前が出て来た。
シリウスと同じように母親からは引き離されている。
(何故こんなに娶る必要がある?妻は必要がなくなると帰されているな。子だけ欲しかったのか。だが大切にされていた記憶はない。目的は何だ?)
シリウスは絵の描かれたノートの内側に小さく番号を書いて引き出しにしまった。
ガラクタは捨てても良かったが綺麗な空箱に入れて窓辺のチェストの上に置いた。
妃のノートだけは寝る時も腹に巻いた布に挟む。
学校へも持って行くつもりだ。
ズボンのポケットに無造作に入れた手紙は4通あった。
どれも薄くて嵩張らなかったがくしゃくしゃになっている。
内容は異国の言葉で解らない。
(マーカス侯爵家へ行ってみるか。)
翌日からシリウスは少しずつ調べ始めようと思ったが机の引き出しに仕舞ったノートの順番が変わっていた事で疑いが晴れるまでは大人しくしている事にした。
「母様、マーカス侯爵様ってどうして失踪したんだと思う?」
「んー、怪しいものね。愚王が失脚したから消えるのはおかしいわよね。高度な魔法を使えるからこの国の出身だと思うわ。こっそり帰って来てるんじゃないかと思う。」
「やっぱりそう思うよね。俺調べたんだけどさ、認識阻害魔法って闇属性らしい。闇って魔女しか使えないってどの本にも書いてある。ってことはさ。」
「魔女?まさかの魔女?」
「誰に対して使うのよ。愚王こそ魔女じゃないの。」
「魔女が愚王を操ってたって説は?」
「目的は?愚王がした事は子供を掃いて捨てるほど作っただけよ。」
「それなんだよなあ。操りまでは合ってる気がするけど目的で行き詰まるんだよな。マーカス侯爵の跡を辿りたいからあの国に行ってくるよ。」
「え?待って、待って。何故リオが行くの?」
「陛下も調べる事があるから付き添いだよ。俺はついでに調べたいだけだから。」
「アクアは?」
「俺だけ。カーティスも行かないよ。」
母親のステラは心配そうにリオを見つめる。
「ルーナを探すの?」
「うん。幸せそうなら名乗らないつもり。何処にいるか知りたいんだ。星を見た?」
「ええ。近くにいるのね。」
ステラはルーナが近くにいる事を知って怖くなった。
会った時に、名乗った時に氷のような冷たい眼を向けられたら耐えられない。
引き離された経緯をわかってもらえなかったら。
考える程怖くて震えてしまう。
「恨まれてるかも知れないわね。」
「それでも探すよ。俺たち家族は星でずっと繋がっている事を伝えたいんだ。」
あの少女がどういった経緯でこの国に来たのかを調べなければ。
何番目かの妃の侍女が世話をしていた事は母親から聞いてわかっている。
だがその後の事は全く解らないのだ。
直接聞こうかと思ったが絶対にルーナだという証拠もない。
変な事を聞いて王族に対する不敬と捉えられるのも困る。
シリウスは疑われている事を知り警戒していた。
調べたい事が色々あったが中々難しい。
無邪気な振りして聞くような歳でも性格でもない。
(あーあ、また夜会でも開かれないかな。カーティス王子と一緒にジョイが来るだろうし。)
シリウスは教室で数人のクラスメイトと他愛無い話をしている。
女の子も混じって昨日は何処へ行ったとかなにを食べたとかの話は延々と続く。
(ジョイならきっと鋭い突っ込みで黙らせていたに違いない。)
居なくなって初めて気づく。
無口なジョイの的確な突っ込みの痛快さを。
(女の子の会話って脈絡もないし日記みたいだ。ジョイは楽しかった。)
ついつい比べてしまい落ち込むシリウスに朗報が舞い込んだ。
大国の国王がお忍びでやってくるらしい。
数日後リオにシリウスは呼び出された。
「初めまして。リオ・レイノルズと申します。こうしてお話するのは初めてですが以前夜会でお見かけした事がございます。」
知っている。この名前は覚えている。
シリウスが懐いていた侍女の名前がステラ・レイノルズで夫はソルム。
息子リオ、その下の娘アクア、末娘ルーナ
末娘ルーナはキャサリンの侍女に預けられたと書かれていた。
唯の偶然か、それとも。
シリウスは警戒をかくしきれない。
「私の母がシリウス様の乳母をしておりました。母を連れ戻したのは父です。何も言わずに連れ去った事をお詫び申し上げます。」
深く頭を下げるリオは悪者には見えなかった。
「もうよい。ステラが家族と再会出来たのなら喜ばしい事だ。長年よく世話をしてくれた。礼を伝えてくれ。元気にしているか?」
「ありがとうございます。母は元気に暮らしております。唯、末の妹のルーナが行方不明のままなのです。行方が知りたくてシリウス様にお会いしたかったのです。」
シリウスはノートに書かれていた事を教えた。
キャサリンという名の妃の侍女がルーナと言う赤子を引き取り世話をしていたと。
その後キャサリンは子を産んだ後にやはり実家に戻っている。
「その侍女もついて行ったはずだ。こちらで調べておこう。」
「キャサリン様の姓はわかりますか?」
「アンバーだ。男爵だが今はもう没落している。貴族名鑑が必要ならば王宮にある。」
リオはがっかりした風でもなく出て行った。




