兄妹
学校にも少しずつ慣れてクラスメイトとも話すようになった頃レイラとキャシーが言った。
「高等部の試験を見に行こうよ!」
「ラインハルト先生が良いって言ってたしね。」
「無詠唱の2人が見れるよ!」
2人の声が大きかったせいでクラスメイト全員が高等部へ向かった。
初めて来る高等部は建物が古く晴れているのに暗い感じがする。
「いかにも魔法って感じでしょ。昔から沢山の魔法使いが出てるんだよ。今は年々減ってるけど。」
「見て、ラインハルト先生も審査員なんだよ。」
広い校庭だけは遮る木もなく明るい。
初等部よりも地味な色合いのチェックの制服で向かい合った生徒は距離を取り合図を待っている。
「対決で勝った方が勝ち進むトーナメント方式なの。昨日までで8人が残ったらしいよ。」
「カーティス殿下も残ってる!」
「あー、大体いつもの顔ぶれよねー。」
「あっちの明るい金髪の2人は兄妹なんだよ。すっごく強いの。」
「あ、始まるよ。」
向かい合った2人の上に魔法陣が展開される。
授業で見慣れたクラスメイトのものとは違う。
(複雑で詠唱も早い)
あちこちから歓声が飛ぶ。
放たれた火が矢のようだ。
水は大きな翼のように広がる。
すごい、すごい。
ルーナは感動で口を開けたままだ。
「火の勝ちだったねー。」
「水の方が詠唱がちょっと長かったから不利だったのかな。」
「次はカーティス殿下だよ。殿下は少し特殊なの。」
「デイビス様と2人で技が完成するんだよ。」
「ふたり?」
「デイビス様は強化魔法の使い手なの。幼い頃からカーティス殿下とペアで組んでるから他の人とは無理なんだって。」
(ははーん。だから頼んでも見せてくれなかったんだ。ひとりじゃ魔法使えないのかな。)
対戦相手もペアだった。
息の合った立ち回りで見応えはあったがルーナは腑に落ちない。
なんだか狡い気がするのだ。
だがルーナ自身は使えないので人の事をとやかく言える立場ではない。
ギャラリーは盛り上がっているので狡い事ではないのだなとぼんやり考えているうちに終わった。
カーティスの相手チームの1人が怪我をした様でラインハルト先生が何やら魔法をかけていた。
「ラインハルト先生は癒し魔法が使えるの。病気までは無理だけど傷なら塞げるんだよ。光魔法の使い手よ。」
「光魔法は少ないの。聖女の物語は読んだ?この国じゃみんな知ってるお話よ。」
「実話なんだよ。図書室にもあるんじゃないかな。」
その言葉を遮るように響き渡る歓声の中現れたのは明るい髪の男女だった。
(先程聞いた兄妹だ)
2人はにこやかに笑っている。
戦う前とは思えない。
先生の合図も待たずに鋭い氷の矢が降り注ぐ。
(凄い。火でガードした。)
ガードだけではなくすかさず女性の周りを炎が囲む。
詠唱の要らない2人の攻撃はとにかく早い。
その上範囲が広い。
教師たちは見学の生徒たちを校庭のぎりぎりまで下がらせた。
「あの人達さっきから攻撃当たってるのに怪我してない。どうして?あれも魔法?」
「うーん、加護の魔法だと思うけど2人ともその魔法は使えるって聞いた事ない。」
「ラインハルト先生じゃないの?」
「だとしたらさっき怪我した人にも加護しないと差別になっちゃう。」
「謎よねー。」
2人の戦いはどちらも譲らず決着が付かなかった。
「明日は今日の勝者での戦いよ。また来ましょう。」
ルーナ達が立ち上がると向こうからカーティス殿下がやって来た。
皆は一斉に膝をつき頭を下げる。
「頭を上げてよい。ジョイよ、魔法はどうだった?また感想を聞かせてくれ。其方も魔法が使えるよう励めよ。」
「はい、お心遣い感謝します。」
カーティス殿下が去るとひそひそと小声で噂話が聞こえて来た。
ルーナはまたかと思った。
また噂話の的になるのだろう。
「ジョイはカーティス殿下とお知り合いなの?」
「はい。隣国より参りましたので国籍など色々な手続きをしてくださいました。親類も知り合いも居ませんので王宮の片隅に住まわせて頂いております。寮に入れるようお願いをしました。」
最後のは咄嗟の嘘だが納得して貰えるとありがたい。
クラスメイトは心配そうに見ているが上の学年の生徒から質問をされたり嫌味を言われたりした。
友達ができて少し気が大きくなっていたのかつい昔のように言い返してしまった。
「私の意思でこちらに来た訳ではありません。言われた通りにしたまでですので。詳しくお知りになりたいのでしたらカーティス殿下に直接聞いてください。」
一際煩い方に向かい合って言うと生意気だの猫被りだのお決まりの台詞が聞こえて来る。
どの国も同じなんだなと納得しレイラとキャシーと初等部に戻ろうとした。
「なんで無視するのよ。」
肩を掴まれる。
「ひとりごとでしたよね?面と向かって言われたなら答えますけど。」
掴んだ手を叩き落とす。
ルーナの睨みに相手が怯んだ時に間に入って来たのは先程の火の魔法使いの兄だった。
「他国からのお嬢様を殿下が気にかけるのは当たり前だろ?外交問題になる前にやめておけ。」
彼が言うと皆が口を噤む。
ルーナはお礼を言いその場を立ち去った。
「アクア、あの子だよ、カーティスの相手。ふはっ、趣味が一貫してんのな。」
「何よ、趣味って。」
「あの子お前にそっくりじゃん。気の強さとか、髪の色とか。」
アクアは去って行く小さな少女の後ろ姿を見た。
顔は見えずに下ろしたままの綺麗な金色の髪だけが印象に残る。
「カーティスは結局お前が好きなんだよな。」
アクアは複雑な気分で少女の事を考えた。




