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聖獣と王弟殿下

《捨てられたか、この赤子は》

《人間は愚かだ、要らぬなら作らねばよい》

《いや、攫われた可能性もある》

《我等を見ても泣かぬな、肝の据わった赤子だ》

《我等が保護してやろう、赤子の運命が決まるまで》

《まだ歩けぬか、名もわからぬな、足の裏に書かれてないか?》

《人間だからな、身体に名は書かれぬよ》

《お前の背中に乗せるか》

《しがみついておれぬだろう》



物言わぬ赤子は不思議な生き物を見ても怖がらず会話をじっと聞いていた。

実際は声がするから見ていただけで会話など理解できるはずもない。


生き物が立ち上がると赤子ははいはいでついてきた。


《おお!素晴らしい移動手段だな》

《思ったより早いな》

《ちゃんと曲がれるのがすごいな》

《手も膝も傷だらけになってしまうな》


森の奥深くに着くと赤子は疲れたのか眠ってしまった。

不思議な生き物は傷を癒してやろうと赤子を見るが裸の赤ん坊が森の中をはいはいしていたはずなのに傷ひとつ見当たらない。


《なるほどな、強力な加護の魔法か又は結界か》

《だから我等が見つけたのだな》


赤ん坊は生き物の腹に寄り添う様に眠っている。


《なんと可愛らしい、ジョイと呼んでやろう》

《喜びの名か、捨てられた赤子にその名は酷だろう》

《いや、我等にとっての喜びだ、見よあれを》


薄暗い森の中に陽が差し込んでいる。

人間には見ることの出来ない小さな不思議な生き物が木々の間を飛び交う。

キラキラと輝き喜びを表しているようだ。


《赤子は何者だ?妖精が祝福しているぞ》

《この赤子に導かれて誰かがやって来るまでは保護してやるか》



ルーナはステラの結界に守られている。

彼女を物理的に傷つけるのは不可能だ。

すやすや眠るルーナに妖精は祝福のキスを与えた。


《妖精達よ、そのキスは何の意味があるのだ?》

《単なるお礼よ、森の空気が浄化されたわ。これからは花も咲くし木の実もなるわ。いやな魔物も近づけないわね》

《この赤子に浄化の力があると?》

《ないわ、そんな力。その子にかけられた魔法の力よ》

《ふむ、この赤子からは何の力も感じないのにな、不思議な子だ》

《聖獣に不思議とか言われたくないわね》



聖獣が人間の子供、ましてや赤ん坊を育てるには無理がある。御伽話のように幸せな事ばかりなどない。



《裸のままで育てるのか?》

《服などないからな》

《垂れ流しではないか》

《それより何を食べるのだ、我等のように霞を食べて生きる事など出来んだろう》


ジョイと名付けられた赤ん坊は聖獣が動くと四つん這いでついてくる。


《我等が育てればジョイは人でなくなるぞ》

《確かに。獣のように四つ足で歩き言葉も話せぬだろう》

《人間の元に戻すなら赤子である今のうちだ》




聖獣はジョイを保護する事を諦めた。

この国で信頼のおける者はいないかと神聖な瞳で国を見渡した。


《王族はひどいな、国を滅ぼす気か》

《あそこはどうだ、あの森の側なら我等も見守る事ができるぞ》

《ふむ、王家を欺く者か》


聖獣の眼で見てもルーナの未来はさっぱりわからない。

いくつもの道が分岐している。


《複雑に絡み合っているな、ここまで複雑なのも珍しい》

《だが最後は幸せが待っているぞ、ジョイにとって幸せかはわからぬが》

《幸せは其々だからな、我等に育てられた方が幸せかも知れん》

《人間はややこしい、だが人として産まれたなら人になるべきだ》


ジョイがすっかり気に入った聖獣は10日ばかりを森で過ごした後に王都の端に位置する森に囲まれた屋敷にやって来た。


《ジョイよ、我等はお前を捨てるわけではないぞ、人間に預けに来たのだ》

《我等はこの森にいつでも来れる、いつもお前の事を見ているぞ》

《我等を忘れないでくれ》



ジョイは泣かなかった。

聖獣をじっと見つめている。

聖獣はジョイが誰かに保護されるまで側に寄り添った。


やがてひとりの大柄な男が現れた。

男はジョイを見ると驚き素早く抱き上げた。

自分のコートを脱いでジョイを包むと屋敷の中に入って行った。

男に大事そうに包まれたジョイは聖獣を見て微かに微笑んだように見えた。



《あの男の元にいるなら安心だ》

《養子になるか召使いになるかはわからんぞ》

《だが死にはせんよ》

《辛くて泣いていたら奪いにこよう》



男は赤ん坊を侍女に渡した。

侍女は温かい湯で赤ん坊を洗いミルクのお粥を与えた。

赤ん坊のサイズの服が無かった為柔らかい布を巻いた。


「旦那様、見たところ怪我もなく粥も沢山食べましたので病気ではない様です。」


ジョイはニコニコと侍女に抱かれている。


「すまないが密かにこの赤子の服を買ってきてくれないか?執事を連れて行け。」


「畏まりました。」


「ああ、それから赤ん坊に必要な物も揃えてくれ。」


侍女は頷くと部屋を出て行った。


男はこの屋敷の主だ。

森の中の豪華な屋敷だが人は少ない。

信用のおける者しかいないからだ。


ジョイは包まれた布からゴソゴソ這い出した。

窮屈だったのか手足を伸ばして裸のまま男に抱きつく。

人懐こい赤ん坊に気を良くした男は赤ん坊に小さくキスをした。


これがルーナと王弟殿下の出会いだった。

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