ルーナ学校へ行く
困った。
どうやらカーティスに気に入られたようだ。
口数の少ないルーナはお喋りな相手には向かないだろうと思っていたがつまらない話も大人しく聞いていたのが間違いだった。
魔獣退治の武勇伝は他人の手柄を横取りした結果だし、釣書がわんさか届いて困る話も王族だからに過ぎない。
少々うざいが嫌と言う程ではない。
可愛らしい自慢話と受け止めた。
「ジョイはこんなに美しいのにあまり笑わないのだな。欲しいものもないそうじゃないか。何か趣味はないのか?好きな物は何だ?」
笑わないのは面白くないからだ。
欲しい物など幼い頃からひとつもない。
好きな物も趣味もない。
「趣味などありませんが魔法に興味があります。こちらの国で魔法を見せて頂くのを楽しみに参りました。」
「そうか、ジョイの国には珍しいのだな。学校に来れば様々な魔法が見れるぞ。」
(今ここでちゃちゃっと見せてくれれば良いのに。)
カーティスはそそくさと戻って行った。
ルーナは魔法学校に来ている。
魔法が使える者しか入れないのだがルーナは特別枠だった。
カーティスの側妃候補として国王がごり押しで入学させた。
この事は教師だけに伝えられる。
その教師の中でも特に優秀なラインハルトは国王から直々に面倒を見る様頼まれた。
「また面倒な娘を囲いましたね。魔法が使えないとなると立場が悪いですよ。」
「今はまだ使えないだけだ。隣国で育った為に魔法を知らん。慣れ親しめば属性が現れるだろう。姿を見てみろ、光属性と言っても頷けるぞ。」
「聖女の素質があると?」
「ははっ、それはわからん。」
ラインハルトは魔法の研究者でもある。
厄介事を押し付けられて渋々重い腰を上げた。
まだ若いのに国王からの頼みの度に老化の進みが早い気がする。
研究室の続き部屋でルーナはひとりで待っていた。
窓からの光を浴びて輝く髪に白い肌は聖女を思わせる。
12歳の横顔はひどく大人びて見える。
「こんにちは、君がジョイかい?」
「はじめまして。ジョイ・バークレーと申します。」
その声は可愛らしく大人びて見えたのが嘘のようだ。
「さて、陛下から聞いているよ。魔法が使えないんだってね。」
「はい、見た事もありません。」
「そうか、これからは授業で見放題だ。君にひとつ言っておかねばならない。魔法が使えない者に厳しい視線が送られるかも知れない。概ね優しく親切な子供達だが中には気の強い者もいる事を覚えておいてくれ。」
「はい。」
「婚約者なのは秘密なんだね?陛下の紹介で入学した事を言えば怪我をさせられる事はないと思うけど。」
「言わないで下さい。意地悪されたり陰口を言われるのは平気ですから。」
「まあその容姿だからね。やっかみは多いだろうよ。何かあれば公表するよ、あってからじゃ遅いんだけどね。」
ルーナはホッとした。
聖獣の秘密は守られているようだ。
「それじゃあ教室に行こうか。すぐに魔法の授業が始まるよ。」
ルーナは正直に話した。
隣国から来たこと、魔法が使えない事、魔法を見た事もない事を。
ラインハルトの予想とは違い子供達はルーナを受け入れた。
「基本は知ってるの?属性の事よ?」
「まずは見たいだろ?」
「私は初歩なの。一緒に頑張りましょう。」
その後ルーナは初めて魔法を見た。
(思ってたのと違う)
それがルーナの感想だった。
(なんか言ってる。あれ言ってる間に魔獣にやられちゃわないのかな。)
スンっとしたルーナを見たラインハルトはちょっと笑っている気がする。
「どう?魔法を発動する前に呪文を唱えるんだよ。そうすると魔法陣が発動するんだ。見えるかい?」
空中にうっすらと文字が浮かび上がる。
大きな声で何かを叫ぶと的に向かって水が放たれた。
飛距離はなく手前で消えた。
「魔法陣が構築されてから技の名前を叫ぶと攻撃が出来る。水だったり火だったりするんだけど、両方の属性を持つ子も稀にいるよ。」
「魔法陣綺麗だった。」
「だろう?使い方は色々あるよ。攻撃から覚えるのは発動を早める為だから。」
素直に感動したルーナに子供達は親切だ。
遅れている分のノートも貸してくれたし難しい所も教えてくれる。
きっと魔法も使えない様な下っ端だから親切にしてくれているに違いないとルーナは思った。
ただ本当に親切な優しい心なのだが残念な事にルーナは疑い深いのだ。
《どうだ、魔法は》
《不思議な力であろう》
「遅えって思った。発動中に死ぬよねあれ。」
《口が悪くなったな》
《誰から覚えてきたのだ》
「シリウスがたまに言ってた。忘れないようにわたしが使う。」
《そうか》
《遅いなどと言ってやるなよ、傷つくぞ》
「言わないよ。みんな優しいから。でも詠唱なしで発動出来る人がいるんだって、高等部に。合同訓練で見れるらしい。楽しみだな。」
ルーナは空を見上げながらシリウスを想う。
(魔法見たよ。不思議な力だった。シリウスにも見せてあげたいな。)
ルーナが優しいクラスメイトに囲まれた事に聖獣は安堵した。




