アクアの気持ち
もう引っ越しはこれで最後だろうか、いや、側妃になるならまた違う部屋を当てがわれる。
そんな事を思いながら新しい部屋の隅に立っている。
何を思ったか知らないがピンクや水色の可愛らしい調度品の多い部屋に吐き気がする。
クローゼットには沢山のドレスが詰まっているし、どの引き出しを開けてもぎっしりと宝石の付いたアクセサリーがある。
目利きが出来ないがルーナ用なのでさほど高価でもないだろうと思う。
奥の寝室に入るとここもまた可愛らしく整えられていた。
ルーナは先程から溜息しかでない。
人付き合いが好きではないと言ってあるので部屋に居ても構わないだろう。
「欲しい物を聞かれたら内側から閉める鍵って言おうかな。要らない物を聞かれたらベッド以外全部って言いたい。」
《与えられる事に感謝をしろ》
《欲しくても買えない子供などいくらでもいる》
「ならこんな贅沢を辞めて税を下げてあげればいい。私はこんなの欲しくない。」
《ふむ、貰う苦しみもあるのだな》
《悪かった、ジョイ》
「いつもなら我慢出来てた。黙って居れば良かったし、小さな頃はそれで許されたから。」
ジョイはまだ何か言いたげだったが小さな声でごめんねと謝った。
「ジョイ、不自由はないか?同じ年頃の娘を持つ者に聞いて部屋を整えたのだ。聖獣殿と過ごせるようにこちらの宮にしたのだが寂しいか?」
「ご用意下さったのは国王様だったのですね。ありがとうございます、不自由はありません。こちらは別邸なのですか?」
「別邸みたいなものかな、廊下で繋がっている。1番上の奥は私の自室だ。何かあれば私の護衛に言ってくれ。ジョイにも護衛が付く。」
「私には護衛は必要ありません。そんな大層な身分でもありませんし。何より彼らがいますので。」
「ああ、だが他の者には見えないだろう?カーティスの婚約者として発表されればやっかみも起きやすい。」
「では発表しないでください。」
国王は考えておくと言って笑った。何故笑ったのかはわからないが魔法学校に通わせてくれるらしい。
「カーティスはもう高等部だから校舎は違うが同じ敷地内にある。一緒に通うとよい。」
「はい。ありがとうございます。」
「ジョイが学校へ行っている間は聖獣殿は部屋にいるのだろうか?」
「どうでしょう。ずっと姿を現している訳ではないので。」
「そうか、彼らの希望があれば言ってくれ。」
「はい。」
元の国に帰してくれと言っていました。
そんな嘘を言えば帰してくれるだろうか。
でも魔法を使える様になりたいし。
ルーナが心で葛藤している間に制服が整えられた。
ルーナの心とは反対に少しばかり浮き足だって学校へ来ていたのはカーティスだった。
彼は得意げな表情を隠す事なく婚約者のアクアに新たな側妃が決まった事を告げた。
側妃を持つことを愛する婚約者に告げるのは元よりその表情がアクアには気に食わなかった。
「お祖父様が突然決めたのだ。俺の立場では断れない。アクアとの婚姻が済み数年後に娶る事になるだろう。暫くは新婚生活を楽しむ事が出来るから安心しろ。どうした、その顔は?心配するな、俺が愛しているのはアクアだけだ。」
何も言わないアクアをぎゅっと抱きしめながらカーティスは言いたい事を言えた事に満足していた。
途中でアクアに遮られると思っていたからだ。
アクアは困惑しているのだと思いカーティスは抱きしめる腕に力を込める。
耳元で愛していると囁きながら。
アクアが何も言わず見つめてくるのでカーティスは大丈夫だ、安心しろと言うしかない。
「その娘には気の毒だが俺の愛はアクアにしか渡せない。王宮内にはいるがお祖父様が別邸を与えた。婚姻後もそこに住んでもらう事になる。公の場に出る事もないだろう。俺はたまには顔を出さねばならんがな。」
(校内で話す事かしら。)
カーティスの話を淡々と聞いたアクアは少し考えたいので失礼しますと抱きしめる腕を解きその場を離れた。
(あんな人だったのか。)
やっぱり王族は王族だと思う。
人の気持ちを考えた事はあるのだろうか。
側妃を迎えるのはしょうがない。
だがあの待遇は酷すぎないか?
ずっと離れに閉じ込めるなんて正気ではない。
私だったら狂ってしまう。
(あのドヤ顔は本心だわね。私の為に側妃を遠ざけるんじゃないわ。)
アクアは冷めてしまった。
カーティスの態度に少しずつではなく急速に冷めてしまったのだ。
隠してはいるが新たな側妃に会っているようで誘導尋問をしたらあっさり認めた。
(やっぱり馬鹿だな。)
「仕方なくだ。お祖父様の顔に泥を塗る事があってはならん。暮らしぶりを気にかけてやっているだけだ。どうした、嫉妬してくれたのか?」
「嫉妬はしていないわ。その方が穏やかに過ごしているならいいの。」
「優しいなアクアは。正妃に相応しい人格だ。」
(さて、私は婚約破棄出来るかしら。円満にする方法を考えなきゃね。)




