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婚約者として

ルーナは伯爵家に戻って来た。

屋敷は多くの木々に囲まれている。

小道を抜けると小川まであり自然豊かに作り込まれていた。

敷地内の最奥まで来ればほぼ誰も来ない。

「魔法で魔獣と戦うところ見たかった。」

《ジョイよ、本来魔法とは戦いの為のものではない》

《人を癒し大地を癒し生活を支えて来たのだ》

《何百年も時を経て人間が少しずつ歪み魔法を悪用した結果に過ぎん》

「魔獣はいつからいるの?」

《アレも人間が産み出した》

《醜い心が産み出した塊にすぎん》

「じゃあ人間が倒すしかないじゃない。」

《そうだ、やられては憎みまた戦う事を永遠に繰り返す》

「人間は愚かだと思う?」

《愚かだな》

《だが愚かだからこそ学び進化をしている》

「でも人間が産み出した相手と戦い続ける為の進化っておかしくない?」

《さあな、我等は人間の為に存在している訳ではないから知らぬよ》


ルーナは聖獣にもたれかかり寛いでいた。

足を投げ出し靴を脱ぎ裸足で雑草の感触を楽しんでいた時だった。


「其方は人か?」


突然話しかけられルーナは咄嗟に身構える。


「驚かせて悪かった。聖なる気を辿り歩いて来たらこの屋敷に着いたのだ。暖かい光の筋の先にまさかこんな光景を見るとは。」


(こんな光景?私だけなら驚かないはず。聖獣が見えている?)

ルーナは何て言えば良いのかわからない。


身なりの良いこの男は貴族の中でも上の身分だろう。

着ているものが物語っている。


「君は人間なのか?」


(あれ?聖獣は見えてない?目が悪いのかな、私の姿もぼんやりしか見えないのかな)


「ちゃんと人間です。この伯爵家の養女でジョイと申します。」

「ああ、良かった。あまりに儚げで妖精かと思ったよ。その可愛らしい容姿で裸足は間違えてもしょうがないだろう?」

「お褒め頂き光栄です。」


男は少しルーナに近づいて来た。


「ふうん、人間にも懐くのだな。聖獣と意思疎通が出来るとは驚いた。君の属性は?」

「属性?」

「ん?魔法の属性だ、光とか火とか水とかだ」

「私は魔法は使えません。」

「は?聖獣を従えて魔法が使えない訳なかろう?」

「使えません。聖獣は従えてる訳ではありません。」

「ならば何だと言うのだ。」


ルーナは考えた。ルーナにとって大切で最も信頼できる相手だ。


「その前に確認なのですが聖獣の姿は見えているのですか?」

「ちゃんと見えているぞ。神々しく神秘的で美しい。此処にいるだけで身体が癒されるのがわかる。」

「え?美しい?あの、私が見ているのとは違うのではないでしょうか?」

「何を言っているのだ、この世のものとは思えない美しさではないか。」


この世のものではないのだがルーナは黙って聞いていた。

男は懐から小さなノートとペンを出してルーナに渡して来た。


「絵に描いてみろ。」


ルーナは久しぶりに聖獣の絵を描いた。

絵心はあの頃より確実に進化している。

男はルーナの描いた次のページにサラサラと描いた。


「お前の絵は下手くそだが特徴は捉えているな。私の描いた絵と同じだ。」


男の絵は格段に上手かったがルーナの絵も同じだと言うので唾を飲み込み黙っておいた。


「ほら、美しいだろう。この曲線に美しい翼。光に照らされ銀色に輝いているではないか。」

「人によって感じ方は違いますものね。」

「美しいとは思わぬか?何処を見てそう思うのだ。」

「えっと、この脇腹の柄とかですかね。この斑点がちょっと病気っぽいというか、あと細すぎる足も全体的なバランスがおかしくないかなと。」


《まてまて、病気とは失礼な》 

《聖獣だぞ、美しさの極みではないか》

「え?私からみたら神様の失敗作・・・」

《どの変が失敗なのだ、申してみよ》

「だって馬に翼を付けるってどうかと思う。なんかこう思い付きで作ったとしか。ドラゴンとフェニックスに力を入れ過ぎたから最後はコミカルにしたのかなって。」



背後から男が笑い出した。

文字通り腹を抱えて笑っている。


「聖獣の声が聞こえますか?」

「ふっ、ふははっ、すまぬ、ふふ、いや、聞こえぬよ。」

「では何故笑っているのですか?」

「それは笑うだろう?聖獣に失敗作だのコミカルだの、ふっ。其方の言葉しかわからんが何となく会話の内容は伝わった。」


男は聖獣に触れたそうに手を伸ばしかけてやめた。


「ジョイと言ったな、幾つだ?」

「12歳です。」

「そうか、もしかしたら魔法が使える様になるかも知れんな。属性を調べたいから大国へ来ると良い。其方はこの国では生き辛くないか?」

「いえ、義父も義母も良くしてくださいます。不自由はありません。」

「もう少しこの国にいる。考えよ。言い忘れたが私は大国の国王だ。」


ルーナは驚き急いで頭を垂れた。

国王と名乗った男はルーナの頬にそっと触れ踵を返して去って行った。


「魔法で貴方達の居場所がわかるって事?」




ルーナは正式に誘われた訳ではないので返事はおろかその事さえも忘れていた。

学校が終わりシリウスに誘われて王弟宮に来ていた所に従者らしき者が文を持って現れた。


シリウスが文の宛名を見るとルーナの名前が書いてある。


「大国の国王より急ぎで届けよとの事でしたのでこちらに。」


手紙を開けると驚きの内容が記されていた。

ルーナとシリウスは顔を見合わせる。

なにを言えばいいかわからず2人とも黙ったままだ。


「どうする?お前が嫌だと言うならガブリエル様に話をしてやろう。」

「大国の国王からのお話を断れる?無理でしょう?」


手紙にはカーティスの婚約者としてジョイ・バークレーを大国に連れて行くと書かれていた。


「今度は何に利用するのか知らないけど行かないとね。私に選択肢は相変わらずないもの。」

「まだお前は12歳だぞ!ひとりで誰も知らない土地へ行くなど!」

「寂しい。シリウスとはずっと一緒にいたから。」

シリウスはルーナの手をぎゅっと握って今にも泣きそうだ。

「寂しいに決まっている。どうしてお前が利用されねばならんのだ。」

「捨て子だから?大丈夫、嫌なら逃げ出すから。逃げ出したら戻って来てもいい?シリウスだけは味方で居てくれる?」


シリウスは力一杯ルーナを抱きしめた。

ルーナが敬語をやめてから2人の距離はずっと縮まった気がした。

何でも話せる大切な相手を守ることも引き止める力もない。


「俺が迎えに行く。絶対迎えに行く。早く大人になるから。」

「シリウス、今まで黙ってた私の秘密を教えてあげる。」


ルーナはそう言って聖獣を紹介してくれた。


「見える?」

「・・・見える。聖獣?」

「そう。シリウスに姿を見せてって頼んだの。だから安心していいよ。」


シリウスは跪き聖獣にルーナを守る様お願いをした。

聖獣の返事はシリウスに聞こえなかったが頷くのが見えた。


「私聖獣の姿も見えるし会話も出来るの。大国の国王がもしかしたら魔法が使えるんじゃないかって。だから行ってくるね。あの子達が居るから私は雑に扱われないと思う。」

「わかった。暫しの別れだ。絶対迎えに行く。」


すぐには連れて行かれないとは思うが涙の別れはしたくない。

絶対また会うから。


「そうだ、この子達美しいと思う?」

「凛々しい顔とか毛並みとか美しいけど。」

「けど?」

「何で翼を授けちゃったんだ?残念だよなあ。」

「やっぱり気が合うね、私達。」

ルーナはシリウスの頬に軽くキスをした。



《翼ちぎってやろうかな》

《残念なフォルムだしな》

《それより我等はジョイと共に行けるのだろうか》

《ジョイの血を飲み契約を結ぶか》

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