聖獣?
「ジョイは休みか?何故だ、具合でも悪いのか。」
「解りませんわ。先生が今日はお休みだと言っておりました。」
「シリウス様、私達とランチをご一緒しませんか?」
「いや、今日は昼前には帰らねばならん。」
帰る用事もないのだがランチなど一緒に食べるのも嫌だったしジョイが心配でシリウスは早めに帰る事にしたのだ。
彼女達は高位貴族の為あまりキツく当たるなと言われていて他の義兄弟達にやんわり勧めているが1人どうしてもシリウスがいいと言っているから困っている。
(このままではあの性悪と婚約させられる。あんなキツいのは好かん。)
キツさで言えばルーナも相当気が強いがシリウスは性悪女達のせいだと思っている。
(あいつらがジョイにいちいち嫌な事を言うからだ。)
シリウスはルーナに会いに行きたいが急に行くのは許されない。
先触れを出すよう言われている。
(1度王弟宮に帰ってからにするか。)
ルーナは自室に居た。
具合は悪く無く寧ろ元気いっぱいだ。
《うえっ、苦しいぞジョイ》
《大きくなったな、泣いている顔は変わらぬがな》
《もう会えぬかと思っていた》
《こら、鼻水を付けるな、カピカピになるではないか》
ルーナは嬉しくて嬉しくて嬉しさの涙が止まらない。
涙と鼻水でベタベタの顔を聖獣に押し付ける。
「どうして急に居なくなったの?消えるなら言ってよ。」
《我等にとっても急だったのだ》
《この地に戻ったのも急にだ》
ルーナはずっと聞きたかった事がある。
「ずっと変な獣だと思ってたけど(喋れるし)急に消えたから獣の幽霊だと考えたの。でもあなた達が消えてからいっぱい本を読んだわ。見つけたの、貴方達は聖獣みたいなもの?」
《そこは聖獣でいいのではないか》
《みたいなものとは失礼な》
「じゃあ本物の聖獣なの?」
《いかにも、我等は聖獣であるぞ》
《聖なる力を持ち魔物と化した者を無効化する》
「えっと、聖獣にも色んな種類があるのね。本に載ってたのと違うって言うか、えっと、悪者顔なのね。」
聖獣はちょっとだけショックだった。
「でも悪役顔のが威厳があっていいわね。獣の姿なのに翼もあるってトリッキーよね。」
《トリッキー・・・》
《悪役顔・・・》
「でもそんな事はどうだっていいの。また会えたんだもの。貴方達が居てくれれば他に何にもいらないわ。会いたかった、大好き。」
ルーナの涙で悪役顔も泣き顔になった。
ルーナは暫く学校を休みたいと義両親に話した。
高位貴族の娘達から意地悪を言われて疲れたからだと告げると心配そうに承諾をしてくれた。
これで当分は聖獣と過ごせる。
そう思っていたら夕方シリウスがやって来た。
「大丈夫か?具合が悪いのか?」
「元気ですよ。唯あの侯爵娘が鬱陶しくて少々疲れてしまいました。しばらく学校はお休みしますね。」
「むう、ならば俺も休んで此処に来るぞ。」
シリウス様が来たら聖獣と過ごせない。
「シリウス様は私よりも学ぶべき事が沢山あるあるはずです。学校に行かせて貰える幸せを忘れてはいけません。」
「それはお前もじゃないか!ジョイが来ないとアイツらがしつこく俺に声を掛けてくる。助けてくれ。」
ルーナは聖獣をそっと見ると悪役顔が笑顔になっていた。
学校へ行ってもいいと言う事か。
「義両親からお許しを貰えたんですけど。仕方ないからたまに顔を出します。」
「嫌だ、毎日来い。」
「え、嫌です。」
「じゃあ何日か休んだらちゃんと行きます。」
「2日な、2日なら我慢する。」
そう言い残しシリウス王子は帰って行ったのだがルーナは2日後に学校へ行かなかった。
《行ってやれよ》
《なかなか骨のある男ではないか》
《我等の変わりにジョイの側に居てくれたのだろう》
確かにそうだとルーナは思った。
「けど私だってシリウスの侍女が居なくなって落ち込んでいる時にそばに居たわ。」
《ジョイよ、我等は行かねばならぬ》
《魔物の臭いが強くなっている》
《魔法が使える者が居ないこの国を護らねばならん》
《我等が居ない間は学校へ行け、長い間ではない》
「行かなくていいわ、退治なんて。魔法大国から魔獣討伐隊が来るって聞いたもの。貴方達の出番はないから。」
そもそもおかしい。
我等聖獣が居たからこの地に魔獣は現れなかったのではないか?
今何らかの理由で再びこの地に舞い戻って来たのになぜ魔獣は消えないのか。
それ程強い魔の力を持っているのだろうか。
《我等でも叶わぬくらいの力ならば魔法など歯が立たぬかも知れん》
《奴らが敵わぬならこの国は終いだぞ》
「いいの、滅んだって。貴方達は生き残れるのよね?」
《何故そう言い切る》
《助けたいと思わぬのか》
「思わないわ。みんな自分の事しか大切じゃないもの。そんな人達を助ける意味がわからない。」
《お前は大切に育てられているではないか》
「そうよ、利益の為に嫁がされるわ。その為に大切にされているの。だからこの伯爵家に貰われたのよ。前の両親だって可愛がってくれたのは本当に小さな時にだけ。赤ちゃんが好きなだけだって知った時は腑に落ちた。わかった?私は利益の為に生かされてるだけよ。だから誰も助けたいと思わない。自分も助かりたいなんて思ってないから。」
ルーナは感情が薄い。
自分の立場を受け入れたときから期待もして居なければ希望もない。
一生懸命勉強をしたのは唯聖獣に会いたいからだった。
それが叶った今ルーナはもういつ死んでも構わないと思っている。
《お前の本当の親に会いたいとは思わぬか》
《探そうとは思わぬのか》
「思った事ないわ。本当の親なんて居ても居なくてもいいの。貴方達が私の家族だから。」
《我等とてジョイの事は家族以上に思っているぞ》
《お前を見つけたのは運命だと思っておる》
ルーナは嬉しくてまた聖獣に抱きついた。
彼等がいれば他に何もいらないのは本心だ。
「私を何処で見つけたの?」
《妖精の森だ》
「妖精ってほんとにいるの?私も見れるかしら?」
《あまり姿を表す事はないが見れるだろうな》
《お前にかけられている加護の魔法の力であの森が蘇ったのだ》
《浄化作用のある珍しい魔法だ》
「行ってみたいわ。」
ルーナは思った。
どうせ国ごと滅びるのであれば最後に自分が誰なのか知りたいと。
自分に魔法がかけられているとは夢にも思わなかったが、これを手掛かりにわかるかも知れない。
いま丁度魔法大国から討伐隊が来ている。
どうにかして会う方法はないものか。
「自分の事を知ってから死ぬのも悪くないわよね。手伝ってよ。」
聖獣は少し安心した。
ジョイから生きる喜びを感じなかったからだ。
死ぬ前提だが目的を持つ事は良いことだ。
生きる気力がない者は心が蝕まれていき魔物に支配されてしまう。
《皆が寝静まる頃からなら連れて行ける》
《目立たぬ服を来て行くのだ》
「貴方達は私が誰か知ろうと思わなかったの?」
《ふむ、全く思わなかった》
《すまぬ、我も思わなかった》
「私だけが貴方達の姿を見て話せる事に疑問はなかった?」
《むむっ、正論だな》
《お前が可愛くて知ろうとも思わなかったのだ》
「責めたりしてないわ。でも協力してね。」
圧が強かった。




