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幼妻候補

「久しいな、体調は戻ったか?」

「呼び立ててすまないな。体調は見ての通りだ。回復はしたが老け込んだままだ。孫か?」


監禁されていた国王は肋が浮き出るほど痩せてしまった。

徐々に回復はしたが以前の容貌は取り戻せなかった。

だが国に平穏が戻ったのだ。自分の容姿などどうでもいい。


「孫のカーティスだ。15歳になる。魔獣の討伐にも出れるくらいの実力はあるぞ。」

「聡明な顔をしているな。」

「其方の孫にも1人や2人は混じってるんじゃないか?やり方はどうあれ阿呆ではないはずだ。外交は恙無くこなしていたようだしな。」

「アレの子供は確かに多い。優秀な子供は我が弟が保護し教育をしている。もうあんな間違いは起こさせんよ。」


その夜は王宮で泊まり翌日破壊された村に向かう事になった。

夕食には王弟とその息子が2人、シリウスと数人の子供達が呼ばれた。


「男ばっかりだな。」

「察してください。見目の良い娘は殆ど鬼に食われました故。」

「ガブリエル殿の奥方は息災か?」

「はい、夜会には出席致します。」

「アイザック殿はまだ独り身なのか?」

「はい、まだ決めかねているのです。」

「そうか、男はどれだけ歳が離れついても婚姻が結べるからな。可愛い幼妻でも娶るつもりか?」


魔法大国の国王につられて皆が笑った。

場が和んだ所で部屋を移動して子供達は帰された。


あの場でシリウスは笑えなかった。

幼妻

もしかしたらジョイの事かも知れない。

ジョイはいつも言っている。


私の使い道は誰かに嫁ぐ事なんだって。

お相手に寄ってはまた違う家に養子に出されてから嫁ぐんだって。

そのうちジョイって名前も変えられちゃうかもね。


シリウスとジョイにまだ恋愛感情はない。

だがお互い信頼し合っている事は確かだ。


シリウスは王弟宮で過ごすうちに王弟殿下もガブリエル様もアイザック様さえ裏の顔があると気付いた。

裏の顔があるからこそ王族なのだと納得する理由は沢山あった。

だが彼は極悪ではない。

自分の出自を理解しているシリウスは決して逆らったりはしなかった。

けれどジョイを妻にするのはやめてほしいと思う。


「シリウス、俺たちも夜会に参加していいそうだ。たぶん婚約者選びだな。」

「俺たちも王族の血を引いている。婚約する相手に寄ってこの先立場が変わってくるぞ。」


シリウス以外の王子達は殆どが学校の寄宿舎に入り騎士団になる為に鍛錬をしている。

そのせいかシリウスよりも体格ががっしりしていた。


お菓子をつまみながら話をしていると部屋に人が入って来た。


「すまない、ちと聞きたい事があるんだが今いいか?」


魔法大国の王子だった。

皆は一瞬シンとなったがすぐに席を空けて茶を出した。


「ああ、気を使わなくてよい。マーカス侯爵家と縁のある者はいないか?」


暫し考える。


「あの、私の侍女頭がマーカス侯爵夫人のルイーズでした。王弟宮に引き取られるまでは王宮で世話になっておりました。」

「そうか、マーカス侯爵家を訪ねたのだが屋敷には誰も住んで居なかった。何処にいるのか知らないか?」


シリウスは全然知らなかった。

ルイーズよりもステラに懐いていたから。


「いえ、知りません。」


「明日から魔獣被害が出た村へ視察に行く。帰り次第王宮で夜会が開かれる。まあ討伐費用集めの為だな。その夜会でマーカス侯爵に会えればいいのだが。何か思い出したら知らせてくれ。じゃあまた夜会でな。」


シリウスはあの男をカッコいいと思った。

供も付けずに颯爽と歩く。

あの笑みに裏表が無い気がした。


(仲良くなったら魔法を見せて貰えるだろうか。)



シリウスは翌日こっそりマーカス侯爵家について調べ始めた。

カーティス王子と仲良くなりたいのが本音だったが調べて行く内にマーカス侯爵もルイーズも忽然と居なくなった事がわかった。

(偶然?ステラが居なくなってからひと月後くらいか。)

ランチルームにいるとジョイがやって来た。


「魔法使いはどうだった?」

「なんていうか、カッコよかった。ぞろぞろと供を引き連れたりしないんだ。余程強いんだろうな。」

「魔法を見せてくれた?」

「まさか。」

「夜会で披露してくれないかなー。」

「は?お前も夜会に行くのか?」

「そう。12歳から上は強制参加。あの辺の意地悪達もね。圧倒的に女子が少ないから数合わせじゃない?」


シリウスは焦った。

ジョイに婚約者が決まったらこうして話す事も2人で出掛ける事も出来なくなる。


「婚約の話とか来てる?」

「来てるみたいよ。伯爵家の養女だけど拾われたって知られてるからね、全然決まらなくて笑える。事実を広めてくれたあの子達にそれだけは感謝しなきゃね。」

「それは俺からも感謝しよう。菓子でも贈るか。」

「あの子達が欲しいのはシリウスからのドレスや宝石よ。」


シリウスはジョイにドレスを贈りたい。

年頃の義兄弟たちは意中の女の子に自分の瞳の色や髪色のドレスを贈ると話していたからだ。


「シリウスは髪も明るいし濃いパープルの瞳も珍しくて素敵だわ。他の王子は髪も眼も茶色でしょう?ドレスを贈っても地味よね。あ、でも逆にシックで素敵かも。チョコレートみたいな光沢のドレス大人っぽいわ。もうピンクはうんざり。」


「濃いパープルのドレス着たいと思うか?」


「・・・ええっと、大人になったら思うかも。」



シリウスは気付いた事がある。

今までに何度かジョイにドレスを贈ろうとした事がある。

それは全て却下されてきた。

その他の要望は通るのにジョイに関してだけは許されない。

先程の会話から却下したのはアイザック様だと思った。


貴族の結婚は政略だ。

歳が親子ほど離れようとも関係ない。

アイザックとジョイは15も離れていないはず。

けれどあんなに可愛がっていた子供を妻になんて。


(気持ち悪い)


シリウスからしたら気味の悪い性癖にしか思えなかった。




バークレー伯爵夫妻はキャロラインが嫁いだ後もルーナを養女として育てているが、どんどん美しく成長するルーナを持て余している節が見られる。


「お前は地味なドレスも着こなすなあ。何を着せても目立つじゃないか。」

「以前白のドレスを着せた時はしばらく妖精姫と言われてましたからね。今回は地味にと思ったのだけれど。」


伯爵夫妻と仕立て屋はルーナを前に考え込む。


「この若草色にしましょうか。飾りも少なめで健康的な娘に仕上げましょう。」


健康的というワードに笑いそうになるがルーナは耐えた。

今回も大人しく従うだけだ。


魔獣討伐の為の資金集めの夜会が行われる。

夜会の費用を充てればいいのにとルーナは思う。


広いホールの奥に王族が見える。

シリウスもあの中にいるのだろうか。

爵位の低い貴族は入り口に近いところにいて同じ位の者同士話している。

バークレー伯爵家はキャロライン様がガブリエル様に嫁いだので王族のいる奥まで行く事が出来るのだが。

義両親はともかくルーナには横槍が入る。

夜会の為ひっそりと。


「ジョイじゃないの、あなたはこんな奥まで来れないんじゃなくて?」

「バークレー伯爵様はお優しいのね。こんな捨て子を夜会に連れて来てくださるんですもの。」


いつもの事だ。


「私の事が気に入らないのなら話しかけないでと何度も忠告しましたよね?脳みそ入ってます?綿でも詰まってるのかしら。覚えが悪いのはどなたに似たのかしら?私の口が悪いのは義両親に似た訳ではないと理解してくださいます?」


背後から笑い声が聞こえた。

振り向くとアイザック様と少年が立っていた。


「ジョイは相変わらず気が強いな。いつもいつも同じ事を言われているのか?」

「私の婚約者に似ているな。気の強さがそっくりで親近感が湧く。」

「あの娘達はクラスメイトか。侯爵家に釘を刺しておいてやる。好きなだけ言い返せよ。」


そう言ってアイザックと少年は場を離れた。


「もしかしてあの娘が幼妻候補ですか?」

「まあな、候補は他にも沢山いる。どうだ、ジョイは美しいだろう?」

「確かに美しいですね。将来が楽しみですか?」

「欲しくならんか?カーティス王子なら俺よりも歳が近いだろう?」

「私には決めた相手がおります。その者以外は考えられません。」


遠目でもう一度ルーナを見た。

美しいがまだ子供じゃないか。


バークレー夫人がルーナに着せたドレスは言っていた通り飾りも膨らみも少なく元気な子供向けの物だった。

だからカーティス王子からみたルーナは10歳にも満たない幼女に見えた。

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