アクアとカーティス王子
「ジョイ、お前も聞いたか?」
「はい。お義姉様に昨日。」
「じゃあガブリエル様の事も?」
「はい。お義姉様に昨日。」
「そうか、父上は国王ではなかったんだな。罪人扱いはされないそうだ。だから義兄弟達も刑は免れた。」
「そうですね。」
シリウスは少し疲れた顔でルーナの隣に座った。
「魔法大国の国王が来たのは本当の国王を助けるためだったのだ。たった3人で。」
「相当腕が立つそうですね。お義母様から聞きました。魔法を使う戦士だそうです。見てみたいですね。」
「ガブリエル様とキャロライン様の婚儀に来るかもしれんぞ。」
「婚儀で戦闘はないと思います。」
「この先この国に魔獣が現れるかも知れん。怖いが見てみたい気もする。剣で切れぬ魔獣とどうやって闘うのか。」
やっと国王が返り咲き平和が訪れると思っていたが違う心配をしなくてはならない。
ルーナは昨日この話を聞いた時に思ったのだ。あの変な生き物は魔獣ではないかと。だが彼らは優しかったしルーナを傷つける事も無かった。
聖なる者が魔法大国に戻ったから平和が訪れたならあの生き物達は聖なる者とも考えられる。
「魔法大国に行ってみたい。」
ルーナはぽつりと呟いた。
変わらぬ日常は過ぎていく。
クラスメイトの女子達も相変わらずだ。
数人の仲良し同士でかたまり噂話とドレスや装飾品の話をする。
学校だろうが茶会だろうが何処へ行っても話題は同じなのだ。
話が尽きるとルーナの悪口を言うのもお決まりだった。
ルーナは何を言われても気にならなくなった。
(将来の事を考えなくて良いのは羨ましい。だからいつもくだらない話ばかりしていられる。私は違う。いつ放り出されるか解らない。使い道のある内は置いてもらえるだろうけど。)
ルーナは愛情を期待しない。
着飾って連れて行かれた茶会で誉めそやされた。
息子の婚約者にどうかと次から次へと話が来たが養女と知ると愛想笑いに変わり男爵家や子爵家ならいいだろうと言われる。
伯爵家に貰われた時点で覚悟はしていたが胸が痛み苦しくなる。
結婚が決まらなければきっとまた家を出る事になるだろうと思った。
だから人にも物にも執着はない。
お気に入りを集めても突然連れ去られるかも知れないから。
早く大人になりたい。
「アクア、やっぱり魔獣被害が出たぞ。あの国から聖獣が消えたからな。」
「でもあの国の人には魔獣なんて目視出来ないでしょう?どうして解ったの?」
「一瞬で村が全滅するなんて魔獣しか考えられないだろ?魔獣退治の要請が来た。」
アクアの産まれた国だ。平和で美しく沢山の楽しい思い出がある。
「帰りたいか?」
「わからない。この国も好きだし。魔法が使える事を隠さなくていいし。」
「妹がまだあっちにいるんだろ?リオが言っていた。行方不明のままだけど生きてると。」
アクアは話していない。
今会話しているこの男は王族だ。現国王の孫にあたる。
魔法学校で親しくなったがアクアはプライベートな話はなるべく避けていた。
「カーティス、今回の討伐は私たちも行くの?何か聞いてる?」
「騎士団が行くみたいだよ。俺たち学生は居残りだ。だけど俺はお祖父様と王族としてあちらの国に行く。」
アクアは妹を探しに行きたい。けれど1人では無理だし両親も許してくれないに決まっている。
「行きたいんだろ?」
「うん。行っても何の手がかりもないけど。」
「俺の婚約者としてなら行けるかもな。」
カーティスがアクアに好意を抱いているのは出会ってからずっとだ。
魔法でアクアに勝てずにいた彼は代わりに勉強を教えていた。
アクアよりも小さかったカーティスは姉を慕う様に懐いていたがいつの間にか追い抜いた。
「私に敬語を使っていたのに。」
「お前の高飛車な態度がそうさせたんだよ。」
「婚約者の振りでもいい?」
「振りなら連れて行かない。俺の気持ちはわかっているよな?」
「知ってるわ。なら私の事もわかるでしょう?」
「お前の妹が連れ去られたのは誰の責任でもない。両親は必死に探しているか?そうでもないんだろ?」
母は毎日星を見ている。
心で想い続けているのだ。
探す術がないだけ。
だから誰にも言わない。
思い出して泣いているのを父が慰めている。
「探す術がないのよ。貴族でもないし、向こうの国に親族もいないから。」
「なら俺を頼ればいいだろう。」
カーティスと同じくらいアクアも気持ちを寄せている。
それに気づいてからカーティスは遠慮がなくなった。
話していてもじっと見つめてくるので心臓がもたないくらい鼓動が早くなってしまう。
両親は王族が好きではない。
何でも思い通りになると思っているのが嫌なのだ。
それを考えるとカーティスとの未来は望めそうにない。
「今回は行くのを諦めるわ。けどお願いがあるの。マーカス侯爵家でルーナの事を聞いて来て欲しい。」
「わかった。探している事を伝えよう。国王が返り咲いた今なら話が出来るだろう。」
「私達の名前は出さないで。母様はこっそり連れて来ちゃったから。」
出立は早かった。
アクアは母親のステラから貰った加護の魔法がかけられたブレスレットをカーティスに渡した。
「着けてくれ。」
差し出した手にブレスレットを着けると同時に唇が触れた。
ほんの一瞬でキスかどうかもわからないくらいだ。
赤くなるアクアを見て満足そうに微笑む。
「気を付けて。」
「お前の両親に認めてもらう為にルーナを探す。利用するみたいで悪いがそれ程アクアが欲しいのだ。お前も俺を利用しろ。王族の使い道なんてそんなものだ。」
絡みあった手が中々離せない。
アクアに恋人が出来るくらいに時は流れたのだ。




