魔法大国の国王
それは突然の事だった。
「何故に何の前触れもなく参られた?」
「突然すまないな。其方達に用があって参ったのだ。」
魔法大国の王が自らやって来た。
共に付けている者が2人。
たったの3人で大国の国王が自ら現れた。
「ふうん。其方が国王の仕事を代理でしているのか。自らを国王と名乗るのは本当か?まだ正式に即位していないだろう?」
「いえ、代理に過ぎません。」
魔法大国の王は全てを知っていて聞いている。
「そうか、この部屋に通されるまで其方を国王と呼ぶ者に何人会ったかなあ。其方に拐かされて孕まされ捨てられた我が国の娘達は全員保護している。その者達からも国王に無理矢理されたと聞いているが?」
国王は唇をギュッと噛み大国の王から目を逸らした。
「国王を連れて来い。生きているのかこの目で確かめねばならん。話はそれからだ。」
暫く後に変わり果てた国王が運ばれて来た。
痩せて顔色どころか見えている肌の色も悪い。
かさかさの唇は皮がめくれ所々切れて血が付いている。
自力で立つ事も難しいのか椅子に座らされたまま運ばれて来たのだ。
「久しいな、目は見えているか?監禁されておったか。まあ想定内だがな。栄養失調による衰弱か、まずこれを飲め。」
魔法大国の王に付いていた側近らしき男が小瓶の蓋をあけてやつれた国王の口に流し込んだ。
「待て、変な薬ではあるまいな?」
「どの口が言うか。其方の与える物より遥かに信用出来るだろう。父王は何の疑いもなく飲み干したではないか。」
国王はぐうの音もでない。
「聖女の煎じた万能薬だ。聖水とも言う。これで体調は戻るだろうが栄養失調は直ぐには治せん。食事を持って来い。病人食だ。」
国王はゆったりとしたソファに寝かされた。
「其方が毒味してみろ。」
国王は病人食に手を付けない。
「早く食べよ。毒入りで食せないか?暗殺者と自ら言っているのと同じだぞ。」
国王は魔法大国の王の側近に拘束された。
「信用出来る者は居らぬのか?まともな食事を運ばせろ。」
暫くして王妃自らが食事を運んで来た。
頭を下げ名を名乗りまずは国王に食事をと言って自ら毒味をして見せる。
弱った国王の背にクッションをいくつも当てスプーンを口に運んだ。
「食べられるなら回復するだろう。暫くは療養してくれ。さて、暗殺者はどうするかな。其方の悪行は他国にも知れ渡っているぞ。お前ひとりこの世から消えても殺された者達は浮かばれんしなあ。とりあえず幽閉しておけ。国王が監禁されていた部屋をそのまま使えばいいだろう。おい、案内させよ。ああ、私の側近に歯向かうのは辞めておけよ、命が幾つあっても足らんくなるぞ。」
魔法大国の王は椅子を国王の側に寄せてどかっと腰掛けた。
優しい眼差しを向けて手を取る。
「無事で良かった。生きているのはわかっていたが魔獣との戦いで中々助けに来れなかった。」
国王は力無く首を振った。
「我々の国の魔獣との戦いは終わった。聖なる血を引く者が国に戻ったからだ。聖なる者がこの国の地を守って来た所為で他国からの攻撃を免れ長年に渡り国は平和だったであろう?だがこれからはどうなるか解らんぞ。其方はもう退位した方がよい。アレの他にも息子はいるであろう。」
王弟殿下の目の前には魔法大国の国王が座っている。
父王と年齢はそう変わらないであろうこの男はまだ現役と言っても過言ではない位に若々しく見える。
上背もあり体格も良く騎士の様だ。
実際騎士に混じり魔獣退治をしているのも納得だった。
「では単なる噂なのですか?」
「そうだ、国王に呪いなどかけていないし即位する証など持ち合わせていない。」
「なぜそんな噂が一人歩きしたのです?」
「さあな、あの愚息の思い込みだろう。何故あそこまで残虐になれたのかが不思議なくらいだよ。」
王弟殿下はその理由が何となく解っていた。
兄はコンプレックスの塊なのだ。
自分と違い小柄で細身の兄、髪はありふれた茶色で目の色も茶色だ。良くも悪くもないが秀でた美しさもない。
勉強に力を入れていた時期もあったと聞くが今となっては活かされているとは到底思えない。
兄が王座を欲しがっていたのを知っていた。
他国と違い魔獣も出ず侵略もない平和な国。
貴族は家柄の政略に縛られる事なく自由に恋愛を楽しんでいた時代。
その後に産まれた世代の兄は平和ボケした世の中に疑問を持った。
いつまでも平和とは限らない。自国を守れる準備を怠るな、騎士団の鍛錬は強化しよう。他国との交易はこの先どんどん拡大していく。言葉を学ぼう。
兄の言葉は届かなかった。
平和すぎるのだ。
歳の離れた自分は兄の言葉が心に響く。
一生懸命学び鍛錬をした結果12歳で兄の背を抜き鍛えた身体は女性から誘われる一因となる。
兄は自分を遠ざける様になった。
その頃から変わっていったのだ。
兄とは真逆な容姿の自分が憎いのだろう。
「聖なる者の消えたこの国は平和が続くとは限らなくなった。出来うる限り備えよ。あの兄を国王に据え傀儡するもよし、囮に使うもよし、殺さず生かせ。まだ使い道はあろう。」
「魔獣とやらが攻めてくる可能性もあるでしょうか?我々の目に見えるのかも疑問です。」
「可能性はあるな。其方達にとっては御伽話に過ぎんだろう?だが実際にいるのだ。奴らが蔓延ると地も人も荒れる。数年で国は消えてしまうだろう。」
「見えないのに戦わねばなりませんか?戦い方も知りません。」
「本当に出たら呼べ。我が騎士団は強い。魔法の真髄を見せてやろう。」
魔法大国の国王は数日滞在した。
最後の日に再び王弟宮にやって来た。
「ジョイもこっそり見に行こう。魔法大国の国王なんて一生見れないぜ。」
「見つかったら死刑になりませんか?」
2人は門を見渡せる庭にいた。
「無邪気なふりして遊んでいれば大丈夫だ。」
「両手に菓子でも持ちますか?」
「食いしん坊パターンか、ジョイがやれよ。俺は腕白パターンにする。」
庭師のアヒルを捕まえて噴水で泳がせようとするのが腕白だと考えるシリウスがアホ過ぎて笑っていたら声をかけられた。
「楽しそうだな。お前たちは王弟殿下の子か?」
この方が魔法大国の国王だと一目でわかる。
シリウスとジョイは慌てて頭を下げた。
「いえ、私は兄王の息子です。こちらはバークレー伯爵令嬢です。」
国王は元気な子供を無遠慮に見つめた。
シリウスの聡明そうな顔を見て微笑みジョイに目線を移す。
金色のような銀髪。夜の海の様な瞳。
「これは可愛らしいお嬢さんだな。君の婚約者なのか?」
「いいえ違います。小さい頃から顔見知りで仲が良いのです。」
「そうであったか、ふむ、何かの縁を感じるな。またいづれ会うかもしれぬな。」
国王はジョイの額に軽くキスを落としシリウスの髪をくしゃっとするとお付きのものと帰って行った。
「縁なんて感じないけど。」
「シリウス様はまた会えるんじゃないですか?国王の息子ですもん。」
「そうか?会いたいとは思わんが。」
魔法大国の国王が王弟宮に来た理由が解ったのはその日から数週間が経ってからだった。




