噂の上書き
シリウスはめちゃくちゃ笑っている。
涙まで流しながら。
「怖いもの知らずだな。バークレー伯爵から叱られてしまうぞ。」
「言い過ぎましたか?でももう話さなくていいからスッキリしましたよ?」
シリウスの笑い声が気になりキャロラインとバークレー伯爵夫人がやって来た。
経緯を聞いたキャロラインも笑い出す。
「気にしなくていいわ、私もそのくらい言い返したかった。その内に貴方派のお友達が出来るかもね。」
「あんな友達ならいりません。」
「ジョイの友達は俺達だけでいいぞ。阿保と付き合うとうつるって言うからな。」
やり取りを聞いていたバークレー伯爵夫人はルーナの頭を撫でながら優しく微笑んだ。
「言われるだけなら良いけれど手を出されたらすぐ言いなさい。大事な貴方に何かしたら容赦しないわ。学校内では平等よ、学ぶのに身分なんて関係ないの。」
ルーナはちょっぴり感動でうるっとしてしまう。
例え利用されても大切に思われるのは嬉しい。
バークレーの名前を汚さないように勉強に励もうと決めた。
シリウスと2人きりになるとリラックスしてソファに深く腰掛けた。
足を投げ出しお菓子を食べる。
シリウスは近況を教えてくれた。
ガブリエル様が忙しそうな事、アイザック様の婚約者選定が始まった事、拐かされた2人の侍女を探してもらっている事。
「お前の元両親は元気だぞ。今日の帰りにバークレー家に行くと言ったらこれを渡された。」
それはルーナの大好きな苺のパイだった。
「俺にもくれよ。王弟宮の食事は美味いからな。特にお前の元母の作ったパイとケーキは絶品だ。」
久しぶりの母の味に強張っていた身体が解れる気がした。
誰にも心の奥底は見せずに常に疑い考え生きているが元両親は悪い人ではないのは承知している。
ひとりで抱え込むのは疲れる。
「シリウス様、みんなが敵になってもシリウス様は味方でいてくれますか?」
「当たり前だろう?友達じゃないか。俺は腹を割って何でも話せるのはジョイだけだ。沢山学んで早く大人になりたい。」
「約束ですよ?シリウス様がいるなら友達はいりません。私も早く何でも出来る大人になりたいです。」
「ジョイは何故大人になりたいのだ?」
「選択肢があるから。今まで自分で選んだ事が1度もない。」
ルーナは遠い目をしたまま答えた。
ルーナは窓際の隅で窓からの日差しを浴びながら授業を受けた。
「ぷっ。あんな席にいたら日焼けで滲だらけになってしまうわ。」
わざわざ嫌味っぽく教えてくれたのだろうか。親切に感謝せねばと思いながらルーナはカーテンを引いた。
クラスは男子生徒の方が多い。
そのせいで女生徒が少し高飛車なのだ。
近い将来婚約者探しに必死になるのだから。
キラキラ高位貴族が水面下で仕切っているせいでルーナに話しかける女子は皆無だ。
だがルーナは気にならない。独りには慣れている。
「ジョイって呼んでいい?君この問題解いてただろ?何処まで勉強進んでいるの?」
「俺も名前で呼んでいいから。この文字も読めるんでしょ?教えて欲しい所があるんだ。」
ルーナの勉強は進んでいた。する事がなくて仕方なく勉強をしていたからだった。
女生徒からは無視されているが気さくな男子生徒から話しかけられる事が増えた。
気軽にジョイと呼んでくるのでこちらも名前で呼ぶ。
案の定キラキラ達はそれについて進言をして来る。
「養女の私が気に入らない様でしたから話しかけないでと言いましたよね?忘れてしまいましたか?もう1度言いましょうか?彼らが先に私の名を呼びました。その代わりに自分の事も名前で呼ぶ様にと言われたのでそうしています。何か問題でも?この説明の何処かに文句がありますか?聞きますけど。」
「な
「何故生意気と言われなければならないのかも聞きたいです。」
キラキラのセリフを遮り追い討ちをかけてやった。
「高位貴族なんですから男子生徒に直接言ったらどうですか?ジョイと気安く呼ぶのを辞めろと。」
その内暗殺されるかもなと思う。
まあそれならそれで構わない。
それだけの人生なのだ。
(死んだら変な生き物に会えるかな。あ、幽霊説は無くなったんだっけ。)
「ジョイ、終わったか?ランチに行くぞ。お前いつもああして絡まれているのか?」
シリウスが迎えに来たのでキラキラ達は焦っている。
「いつもですよ。いつも何かとジョイに絡んでいますね。今日は僕たちがジョイと名前で呼び合うのを指摘していました。」
「昨日は僕たちに気に入られようと必死ねと言って来てましたね。」
クラスの男子生徒から暴露されてしまう。
シリウスは内心ジョイと名前で呼び合う事がちょっと気に入らないがスンとして言った。
「そうか、どうにかせねばならんな。父上に聞いてみよう。」
シリウスの父上とは国王だ。
良い噂のひとつもない女好き。6歳の子供でも知っている。
親類や姉が泣く泣く嫁いだのを見ている者もいるかも知れない。
今だ国王は恐怖なのだ。
(ここまで言われても謝らないんだ。謝れない子なのね。教育って大事だわー。)
キラキラも他の女生徒も2人がランチルームに行くのを立ちすくんだまま見送った。
6人のキラキラを擁護する者は居ない。
彼女達は慌てて兄や姉の教室に向かった。
「シリウス様、聖獣の事が書いてある本をお義母様に頂きました。難しくてわからない箇所があるので教えてください。」
「そんな敵国の本がよく手に入ったな。本はバークレー家にあるのか?」
「いいえ持ち歩いています。」
「ならば今日は王弟宮に来い。御者に使いを出すからな。帰りは送ってやろう。」
シリウスは侍女を探したいと言う目的がありルーナには変な生き物とまた会いたいという願望があった。
涙を見せ合い悲しみを乗り越えた友情で結ばれているのだ。
ルーナとランチを共にしたいクラスメイトは中々入り込む隙がなく遠巻きに見ているだけだった。
彼らは純粋に逞しいルーナと友達になりたいと思う。
考え込む時にペンを鼻の下と上唇で挟むルーナは可愛いし、教科書を落とした時にちっと言うのも親近感が湧く。
まだ子供なのに女な匂いを出す高位貴族の女子と違い髪も簡素に高い位置で結んだだけだ。
それが一層ルーナの賢さを際立たせた。
「お前成績良いらしいな。」
「やる事なくて勉強しましたからね。舐められない様に必死です。」
「噂になってるぞ。アレを言い負かしたすごい女子がいるって。」
「噂消しといてください。王子の役目です。」
「王子に頼む言い方じゃないだろ。噂は消せん。消えるまで待つか上書きするかだな。」
「どうせまた何か言ってくるから上書きされて行くでしょうね。心臓強いんですよ。疲れちゃう。」
2人は小声で話しながら食べる。
「そのチキン半分くれよ。この魚半分と交換しよう。」
「いいですよ、そのスープひとくちくれたら。」
「ん。」
スプーンであーんを真顔でするのをみんなは見ていた。
シリウスは心の中でほくそ笑む。
(はい、上書き完了)




