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お約束の貴族子女

ルーナはジョイはバークレー家の養女になった。

正式になれたのか成人するまでなのかはわからない。

知りたくもないし興味もない。

言われたらはいそうですかと従うだけだから。


バークレー伯爵夫人は優しい。

こんな捨て子を引き取ってくれたのだから。

ルーナを着せ替え人形にして楽しんでいる。


(飽きるまでは付き合う事にしよう。どうせ大きくなれば見向きもされないだろうし。)


大人しくされるがままにお人形に徹する事にした。


バークレー伯爵は優しくも冷たくもなかった。

ルーナの所作をじっと見てまずまずの出来だなと言った。

養女にする事を誰が言い出したのか知らないが、伯爵は決して進んで引き取った訳ではない事をルーナは心に留めて置く。


ではキャロラインが?

王弟宮では厳しくもあったが概ね優しく親切にしてくれた。

けれど勉強以外の話は殆どしなかったので気に入られる要素はないはず。


思い当たるのは2人の殿下だ。

あの笑顔は偽物に見えるから。


こうしてルーナはバークレー家に住む事になった。


「ジョイ、制服が届いたら学校に行けるわよ。教科書は揃うまでは学校で貸してもらえるわ。ランチが美味しいのよ、食堂で食べるからシリウス様にも会えるはずよ、良かったわね。」

「はい、ありがとうございます、キャロライン様。先程バークレー伯爵夫人から靴を頂きました。」

「ジョイ、あなたもバークレーになったの。敬称はいらないわ。」

「申し訳ありません。まだ慣れなくて。気をつけます。」

「徐々に慣れて行きましょう。初日は執事が学校に付き添うから安心してね。」


ルーナは学校へ行けるのが嬉しい。勉強が出来るのも理由のひとつだがバークレーの屋敷に居なくて済むのが嬉しい。

伯爵が歓迎モードではない為に屋敷のメイドが冷たいのだ。

ここで何年過ごしたらいいのだろう。

ルーナは溜息しか出ない。

何処に行っても敵は現れるんだなと幼心に刻んだ。



夫人に着せられたドレスは今日もピンクだ。

ルーナは与えられた自室でドレスについたリボンの数を数えた。

頭の上のリボンを合わせると23個もある。

明日からは制服を着れると思うと安堵のため息を吐いた。

屋敷のメイドは多いので部屋から出る度に誰かに会ってしまう。

だからルーナはずっと部屋で勉強をするか本を読むしかなかった。


「ジョイ、たまにはお庭に出たら?勉強ばかりしているから顔色が良くないわよ。」

「キャロライン様、私は大丈夫です。」

「お姉様って呼ばないとおかしいわよ。まだ慣れない?」

「はい。気を付けます。」

「今度のお休みにはお茶会に行くわよ、それまでにお姉様って呼んでね。あなたの可愛さにみんな驚くわよ!楽しみね。ふふふっ」

「はい。緊張します。でも頑張ります。」


また溜息の要素が増えてしまった。



「制服も可愛いわね!ピンクばかり着せていたけれど紺色も似合うわ。ウエストは大きくないかしら?ちょっとゆとりを持って作らせたのだけれど。」

「ピッタリより苦しくなくて着やすいです。ありがとうございます。お義母さま。」

「気を付けて行くのよ、行ってらっしゃい、ジョイ。」


夫人はルーナを抱きしめて額にキスをしてくれた。

キャロラインも同じように抱きしめてキスをしてくれる。

冷たかった執事やメイドは態度がほんの少しだけ軟化した気がする。

きっと賢いキャロラインが機転を効かせてメイド達の前で大切にしている事を見せつける事にしたのだとルーナは考える。

疑い深く育ってしまったのだ。

まだたったの6歳なのに。


ルーナは馬車で初めての学校へ向かった。



ルーナは同じ歳のみんなとは少し遅れて入学する事になった。

養女になる手続きと学校に入る為の試験があったからだ。

普通は試験などなくても貴族の子息や子女なら入れるのだが養女という立場上受ける必要があった。

学業面でもマナーも問題ないとお墨付きを貰えたら入学出来るのだ。


「養女だそうね。」

「だから試験があったんだな。」

「入学の為にマナーを身に付けたんだろう?俺達は産まれながらに身に付いているけどな。」


伯爵家より身分が高いのだろう、容赦なく口攻撃をして来た。

そっと周りを見ると肩身が狭そうな子が数人いた。きっと彼らも養子に違いない。

ルーナはそう思ったのだが実際は養子ではなく子爵家か男爵家の者だった。


「養女ですが何か?気に障りますか?あの1番隅に座れば問題ありませんか?」


ルーナの物言いに高飛車な高位貴族が怯んだ。


「養女の癖に俺達と学ぼうなんて生意気なんだよ。」

「私はお義父様に言われて試験を受けて入学しました。文句があるなら直接バークレー伯爵に言ってください。それとも私から伝えれば宜しいですか?」

「言わなくてもいいわ!でもあの隅に座りなさいよ!」


言われなくとも隅が良いに決まっている。

窓際の1番後ろは特等席なのに。

身分だけで差別するとは高位貴族の教育も大した事ないんだなとルーナは思う。

こんなのが将来大人になって何になるんだろう。

関わっても何の得にもなら無さそうなので無視しようと決めた。



「ジョイ!久しいな、一緒にランチを食べよう。」


昼になりルーナの教室まで迎えに来たのはシリウスだった。孤児院で見た事のあるシリウスの異母兄妹もいた。


「シリウス様、お久しぶりです。」


ルーナは王子軍団に深々と頭を下げた。


「ジョイーー!大きくなったな!覚えているか?」

「はい。ご無沙汰しております。ショーン様。」

「片言だったのにすっかり令嬢になったな。」


ショーンは面影を残したまま随分成長していた。

手を引かれて食堂に行くと騒めいた。

そうか、あんな王でもこの国の王様だ。

掃いて捨てるほどいるであろう子供達の中でもこの学校に通えるのは才能のあるほんのひと握りの王子なのだ。

その王子から囲まれてランチをするのは目立つに違いない。


「俺達に囲まれていると虐められちゃうかな。」

「ショーンはモテるからなあ。」


わかっているなら誘わないで欲しい。


「ジョイ、帰りに俺もバークレー家に行くぞ。お許しが出たのだ。」

シリウスが小声で言った。

「知られたら全員来ますよね?」

「こっそり馬車まで行くから大丈夫だ。」


ランチはまあまあ美味しかった。

けれど料理長の元父親が作ったご飯のが数倍美味しかったと思う。

王子軍団と別れ教室に戻るとお約束が待っていた。

数人のキラキラ女子に囲まれるのだ。


「何で王子と知り合いなのよ。」

(はいはい、想定内)

「王弟宮にいましたので」

「ショーン様は王弟宮には居ないでしょ?」

(あーーショーン様狙い)

「ガブリエル様とアイザック様が授業を受け持つ時によく連れて行かれましたので。」

「連れて行かれたなんて!生意気なのよ。連れて行って貰ったんでしょう?」

(私の意思ではない)

「私が殿下と知り合いなのが生意気なのですか?どうすればいいのでしょう?まだ3つの頃でしたので私の意思で知り合った訳ではないのですが。」

「私達はあなたより身分が上なの。あまり王子に近づかないようにね。」

(私から近づいた事はないけど、もう飽きたわこの会話)

「私から話しかけなければいいのですか?あちらから来られた場合は貴方方に都度お伺いを立てればいいのですか?」


貴族の子女は豪語力が弱いようだ。

ちっとも怖くないし鬱陶しい。

帰ったら義両親と義姉に聞いてみよう。

何処までなら言い負かしていいのかを。


キラキラ女子は王子に関しては引かないらしい。


「養女が王子の婚約者になれるとか思わないでね。夢見るくらいなら許されるけど。」

「私達は数少ない高位貴族の娘なの。親戚でもないから血が濃すぎないのよ、この意味わかる?」

「私達は妃候補って事。」


こんな物語が沢山あるとキャロラインが言っていたのを思い出す。彼女もガブリエル様と仲が良い為に子女に散々意地悪をされたそうだ。


あんな今にも暗殺されそうな国王の息子などと結婚したいと考えている事に驚いた。

容姿だけならわかる気もするけれど。

まあ、性格も良いし。


「では私に近づかない様にガブリエル様とアイザック様から言って貰います。失礼ですが貴方のお名前お伺いしても宜しいですか?伝えねばなりませんので。」


「伝えなくていいわ。貴方が気を付ければいいだけなんだから。」

「わかりました。ではお話は終わりですね。もう私に話しかけないでくださいます?身分差も有りますしね。もうお話する必要もないでしょうし。では。」


ルーナに怖いものはない。

この事で学校を辞めさせられたら伯爵家からも追い出されるだろう。

そうなっても構わない。


威張り散らす高位貴族にツンとしたルーナは美しい。

それを見惚れた少年達がいるのに気がついていなかった。



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