シリウスの小さな幸せ
「やっぱり駄目か。磨けば光るのにな。」
ルーナを養女として迎え入れたいアイザックは父親である王弟から却下された。
出自も解らない捨て子を王族には簡単に迎える事は出来ないのは承知している。
「兄上が将来妻に迎えたらどうだ?」
「ははっ、随分とジョイを推してくるな。可愛らしいのは解るが出自がなあ。」
「国王のやらかしで出生が曖昧な子供が多いから紛れて養女に迎えればいいのにな。」
国王の手付きは多く産まれた子供で学校が埋まるとまで囁かれている。
自害したり殺されたりした妃候補もいる為に孤児院を建てた程だ。
「シリウスのついでにジョイにも色々学ばせよう。早く髪が伸びるといいな、あのままだとドレスが似合わん。」
ルーナの発育は悪くは無いが髪は伸びるのが遅く4歳になった今でもまだ肩に届かない。
「髪は盛ってやれよ。髪飾りで誤魔化せるだろ?」
「まあそうなんだが着飾らせても連れて行く所がない。」
「マナーだけ教えておけば何とでもなるだろう。密偵にでもするつもりか?」
密偵か。
美しく育てばいくらでも使い道はある。
(父上次第だな。早くあの愚王をどうにかしてくれ。)
シリウスは毎日決まった時間にガブリエルから勉強を教えてもらっている。
時々アイザックも加わり2人はシリウスを観察した。
「ずいぶんと規律正しい生活をしているのだな。朝寝坊もしないのか?」
「具合が悪い時は寝坊します。」
「いや、それは当たり前だ。普段からそうなのか?王弟宮に来たから気を張っているなら無理しなくてもいいぞ。」
「無理はしていません。規則正しい生活を送ると侍女と約束しましたので。」
「ルイーズか?」
「いいえ、攫われた侍女です。私の乳母でした。優しくも厳しくもありました。叱ってくれるのはその侍女だけでしたから感謝しています。」
「そうか、良い侍女だったのだな。」
「はい。沢山勉強して力をつけて助けに行くつもりです。私の母のような者でしたから。」
子供にとって悪いことをしたら叱ってくれるのは有り難い事だ。
甘やかすだけの親など居ない方がマシだと思う。
「シリウスの優しさはその侍女から与えられたのだな。いつか再会出来る日が来るまでしっかり学べ。学校にも行かせてやろう。」
「ありがとうございます。」
自由時間になるとシリウスはルーナを探した。
庭に居ないと森へ行く。
森にも居ない時は王宮の一室でマナーを教えてもらっていた。
「ジョイ、マナーの勉強は進んでいるか?ガブリエル様からサロンを使っていいと許しを得た。俺と2人でお茶会だ。」
「はい。」
シリウスは強引にルーナを引っ張ってサロンに行く。
こんな場所に入れるような身分ではない事はルーナにも解る。
だが断れない。
お茶や菓子を運んでくるメイドが怪訝な顔をした。
茶会が続いて数ヶ月が経った頃にルーナはメイド達の陰口を聞いてしまう。
唯の料理人の娘の癖に。
マナーは将来給仕係にする為。
王族の菓子を食べるとは何様のつもりだ。
小さなルーナを可愛がってくれていたメイド達は贔屓されるルーナが気に入らないのだ。
シリウス王子とお茶を飲み、特別に講師が付きアイザック王子やガブリエル王子から可愛がられているからだ。
(私からは何も望んでいないのに、言われるがままやっているだけなのに。)
休み時間になるとやってくるシリウスに会うのも億劫に感じる。
だがシリウスと話すのは楽しい。
ルーナはどうしたらいいかわからないまま時は過ぎて行った。
シリウスは色んな事を教えてくれた。
珍しい図鑑も見せてくれたし虫や花にも詳しかった。
「ステラが教えてくれたんだ。」
居なくなった侍女から教わったあれこれをルーナにも教えてくれる。
1番嬉しかったのは字を教えてくれた事だ。
ルーナは本を読む為に一生懸命に覚えた。
ルーナがすらすら本を読める様になった頃シリウスは学校へ通う様になっていた。
シリウスの学年の子供は少ない。
国王のお手つきにされた娘が多く嫁いだ者が少なかったからだ。
だがそれでも2クラスはある。
孤児院から見知った顔もちらほら見かける。
同じ父を持つ令嬢も数人混じっていてシリウスは身震いした。
(これだけ兄弟姉妹がいるのは気持ちが悪いな)
シリウスは周りを見渡した。
(ジョイ程可愛い娘はいないな。来年はこの学校に通うだろうか、ショーンが大喜びしそうだな。)
シリウスは久しぶりにショーンと再会した。
歳上のショーンは随分と大人びたなと思う。
シリウスが王弟宮で暮らしている事は知っているだろうか。
手紙が来なかったから知らされていないかもしれない。
ジョイの事は聞かれるまでは話さないと決めた。
ジョイはあまり笑わなくなった。
けれどシリウスと2人きりの時は笑う。
(俺にだけ心を許してる)
シリウスはそれが嬉しいのだ。




