消えた侍女と聖獣
「では父上は生きているのだな?」
「はい。漸く見つけました。国王の部屋の隠し部屋に監禁されている様です。食事係が口を割りました。1日に2回部屋へ運んでいるそうです。質素な食事なのでずっと疑問に思っていたと。」
「そうか。」
王弟殿下は溜息を深く吐くとソファに沈む様に座った。
父親の先代国王を質に取られずっと手出しが出来なかった。
既に命がないのならこの手で兄王を討ち取る事を考えていたが生きているとは。
「国王は執務も自室でなさいます。夜は王妃を呼び自室から出る事は殆どありません。
最上階にあるので窓からの侵入も不可能と思われます。」
「父上はどんな状態かわかるか?」
「食事係からの情報しかありませんが残す量が増えたと言っていました。」
この部屋には王弟殿下と絶対的な信頼関係を結ぶ腹心の友である側近が2人。
父上が捕らえられてから反撃のチャンスを虎視眈々と狙っている。
「父上がこの世からいなくなると魔法大国に攻められる。それが条件で和解をした。だから兄上は父上を殺さぬ。死なぬ様に必死なのだろう。」
「魔法をかけられているのですか?」
「そうだ、俺にもよくわからんが死ぬと大国には解る仕組みになっている。」
「もう王位は継承されたので先代が生かされている意味はないはずです。言い方は悪いですが、すみません。」
「いや、気にするな。実際には継承されていない。大国には病気の国王の代理と伝えているはずだ。だから攻めてこないのだ。」
小さい頃に王弟殿下も側近も先代国王から聞いたことがある。
この国には結界が張られているから魔獣が来ないと。
魔獣は来れないが人は攻めて来る事が出来る。
お互いの国の平和の為の条約を結んだ。
国王の座を譲る時にある証を渡すのだ。
「兄上はその証を探している。なんらかの異変に気づけば攻めてくるのを知っているからだ。」
「国王が大国の娘を何人も攫って来た事は知られてないのですか?」
「知らぬ訳は無いはずだ。大国にも何か考えがあるのだろう。兄上の首でも差し出さねばな。」
反国王派の重鎮達との密会は何回か行われた。
だがいつも行き詰まる。
魔法
結界
魔獣
この国にはないものだ。対処の仕方がわからない。
ガブリエルとアイザックは父から話だけは聞くことができた。
だが他の者と同様に何も出来ない。
前と変わらず子供達を教えるだけだ。
シリウス王子は授業だけでは物足りなさそうに見えた。
「学校に入るにはあと1年先になる。アイザックもまだ1年通わねばならん。シリウス、俺が教えてやろう。王弟宮で暮らせ。」
シリウスはガブリエルが大好きだった。毎日授業を受けられるのは嬉しいに決まっている。
だがアリッサとステラと楽しく会話しながら過ごす時間も大切なのだ。
「侍女達も連れて行っていいですか?」
「一応聞いてみるが多分ダメだ。父上が使用人を増やすのを嫌がるのだ。」
「でしたら毎日通います。」
「父上と話してからだな。」
数日後その心配は無くなった。
孤児院でシリウスが授業を受けている時に買い物に出たアリッサとステラが拐かされて消えた。
店先にはステラの財布が落ちていた。アリッサのショールも見つかった。
騎士団が探したが2人の侍女は見つからなかった。
何人か連れ去られた所を目撃していたが記憶が曖昧で2人の男としか情報は得られなかった。
シリウス王子は心にぽっかり穴が空いた様な気がした。
赤子の頃からずっと面倒を見てくれた2人を母の様に思っていたから。
胸が痛くて涙が止まらない。
息が出来ないくらいに泣いて泣いて床に崩れ落ちた。
残された3人の侍女は交代でシリウス王子の側にいた。
侍女頭のルイーズ以外は不謹慎だとわかっていてもアリッサとステラが羨ましかった。
2人も孤児院に着いて行きたかったし買い物だってしたかった。
シリウス王子が2人を毎回指名したから行けなかったのだ。
いつ帰れるかもわからない王宮に閉じ込められるくらいなら拐かされた方がマシに思えた。
アリッサとステラが居なくなったからシリウス王子は王弟宮で暮らす事を選ぶだろう。
帰れるかも知れない。
侍女達は心の中で期待を膨らませた。
同じ頃王弟宮の庭で遊んでいたルーナにも異変が起こる。
ルーナにせっせと話しかけていた聖獣が忽然と消えたのだ。
《我等が見えるなら魔法が使えるかも知れぬな》
最後の言葉を残して見えなくなった。
雨が降る前に消える時とは違ってふわっと姿が消えた。
ルーナは虚な顔で聖獣を探し回った。庭を出て森へも行った。こんな深く入った事はない。
小さなルーナは必死に探すがどこにもいない。
立ち止まり目を瞑って気配を追う。
声も聞こえない。
呼んだら来てくれたのにもう来ない。
殆ど泣いた事のないルーナは声を上げて泣きじゃくった。
ルーナが居なくなった事に気づいたメイドが探し回るが見つからない。
王弟宮の者が総出で探した。
「ジョイ、こんな所まで来たのか。皆んなが心配しているぞ、帰ろう。」
湧水の側に座り込んだルーナを見つけたのはアイザック王子だった。
抱き上げると泣き腫らした顔に気づく。
「どうしたのだ?話してみろ。」
ルーナは何も答えずアイザック王子の首に手を回して抱きついた。
誰かに抱きついていないと不安で震えが止まらない。
ルーナは聖獣がいないと生きていけない気がした。




