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ネネネの世界放浪記  作者: ネネネ・J・ノシュタール
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ヤーガの呪い

この本を手に取った好奇心旺盛な皆様、どうもはじめまして。恐らくそう遠くない未来において奇書と呼ばれるであろうこの本を手に取るとは相当な物好きなのでしょう。この本は、私が実際に目撃したこの世界の不思議な村や現象について纏めた本となっています。ひょっとしたら既に解決されている不思議もあるかもしれませんが、ぜひ楽しんでいただけたら幸いです。

原作:ネネネ・J・ノシュタール

翻訳:群青アイス

 私が旅に出てまだ間もない頃、とある森に存在する集落に立ち寄った。人口わずか100にも満たない小さな集落であった。集落にたどり着いた私は村民に案内してもらい、村の長を名乗る男の元に挨拶しに向かった。案内された家に入ると中には訓練された兵士の様に逞しい身体をした男が座っていた。部屋の奥には巨大な指のようなものが飾られている。何かの模型だろうか。

「我がカラカ村にようこそいらっしゃいました 」

 村長は80歳であると案内してくれた村民に聞いていたのだが、とてもそんな老体には見えなかった。

「村の入口付近に空き家があるから、そこを宿にするとよろしい 」

 この集落がある森は2つの大きな都に挟まれているせいか時々旅人が迷い込むことがあるらしく、そういった旅人のために空き家をひとつ用意してくれているというのだ。私はありがたく空き家に住まわせてもらうことにした。村人達はみな明るくもてなしてくれた。一つ気になったことがあるとすれば、すれ違う村人達全員、体の一部を欠損していることくらいだった。中には片腕や片目、頭が一部凹んでいる者もいた。何かわけがあるのだろうが、村民たちとの関係性を崩す可能性もあった為、聞くことはしなかった。

 その日、偶然にもその日は伝統的な祭事が行われる日であると聞き、興味本位で見学させてもらうことにした。祭事の内容は凶悪な鬼、ヤーガを祀り上げ、暴れ出さないよう祈る儀式のようなものなのであり、村の中央に集まった村民達が大きな焚き火を前に黙祷を捧げていた。なぜ凶悪な鬼を祀っているのだろうと疑問には思ったが、みな真剣な表情で祈りを捧げており、私はひとまずそれに習い祈りを捧げることにした。

 黙祷を終えると、みなそそくさと家に帰っていき、結局祭事について尋ねることが出来なかった。仕方なく私も借家に戻り、床に就くことにした。

 翌朝、扉を叩く音で目が覚めた。何事だと私が扉を開けるとそこには包丁片手に笑顔で手を振る村長の姿があった。私はそのとき人生で初めて、死への恐怖を体験することになった。鬼を祀るような村だ、きっと喰われるに違いないと怯えて腰を抜かし、倒れ込んでしまった。その様子を見た村長は慌てて体調の心配をし始めた。その姿はとても人をとって喰らう鬼には見えず、つい笑みをこぼしてしまった。私は村長に落ち着いてもらうためにも、なぜ倒れ込んでしまったのかを話した。

「はっはっはっ! いや失敬! 確かに私が悪かった! 」

 私が話終えると村長は笑いながら今回の件を謝罪してくれた。

「祭事の時に祈りを捧げていたからてっきり村の伝承を知ってくれてるのだと思ってなぁ 」

 どんな理由があったら朝っぱらから包丁をもって人の前に現れるのかと思っていたら、村民の一人が村に保管されている書物を持ってきてくれた。その書物に書かれていたのはこの村に伝わる昔話であった。

 大昔この村の近くにはヤーガという鬼が住んでおり、時々村に現れてはヒトを食らっていたという。鬼を退治する力など持っていなかった村民たちは、生贄を用意することでヤーガに村を襲わないよう交渉をもちかけた。それに対してヤーガは今いる村人たちと、これから生まれてくるであろう子供たちの体の一部を差し出すことで、村を襲わない様に約束したらしい。ヤーガは契約の証として自身の指を1本村人に与え、こう言いった。『この指が村にある限り村人たちは呪われ続け、生まれてくる子供たちの体は、既に一部喰らわれた状態で生まれてくる』と。それ以来村にヤーガが現れることはなくなったが、生まれてくる子供達の多くは体の一部が欠損して生まれてくるようになった。

「欠損のない赤子も生まれてくるのじゃがな、親はヤーガにとって喰われるんじゃないかと恐れ、その体の一部を切り落とし、ヤーガへの供物として捧げるようになったんじゃ 」

 つまり、体の一部を切り落とすことで鬼に襲われなくなるという、一種のお(まじな)いという訳だ。

「本来旅の者には強制しないんじゃが、黙祷を捧げてくれている姿を見て、ヤーガが恐ろしいんじゃと早とちりしてしまったんじゃ 」

 村長は再び大口を開けて笑い出したが、こちらとしては笑い事では無い。つまりはこの村で生まれてくる赤子は皆生まれてすぐに体の一部のだろうと思い尋ねてみると「そんな子はほとんど居ない」との事だった。昔話を読んだ時、最初は体に障害をおった子供たちを差別しないように作られた話なのだと思っていたのだが、本当にヤーガの呪いが存在するのだろうか。その答えはすぐにわかった。

 その日の晩、部屋に押しかけてきた若い女性と一夜を過ごすことになったのだが、その時面白い話を聞いた。どうやらこの村は特定の家族を持たず、好きな時に好きな誰かと子作りをする習慣があるらしい。つまり真実は血の濃いもの同士による交配を続けた結果、奇形として生まれてくる子供が多くいるため、それを架空の鬼、ヤーガによる呪いのせいということにしたのではないだろうか。奇形児を授かった母親を安心させる為に当時の村長が作った小話が広まっただけなのだと私は結論をだした。しかしこの結論には一つだけ疑問が残る。

 村長宅に飾られていた、あの巨大な指は一体なんだったのだろうか。

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