第九話 「2人で食べるアイスの味」
「んー、美味しい!」
れなは美味しそうにアイスクリームを食べている。そんな姿をまじまじと眺めていると、
「花恋も早く食べな? 溶けちゃうよ」
と言ってれなはスプーンで掬ったアイスクリームを私の口に差し出す。私がパクりとアイスを食べるとれなは満足そうにしている。
「ほら、美味しいでしょ?」
口に入れると抹茶の香りがひんやりと口の中に広がる。それに甘くて美味しい。
「......あ、ほんとだ。美味しい」
そういうとれなは思い出した様に話し出す。
「お金、どうしよう......明日返すのでもいい?」
「ううん、せっかくこんな美味しいアイスクリーム屋さん教えてくれたんだしそれは貰って?」
「うーん、でも」
と言いながられなが少し唸っている。
「私の方がお姉さんなんだから遠慮しないの!」
「うぅ、ちょっと不服だけど、今回は甘えてもいい?」
「うん!」
最近なんだか子供扱いされてそうな気がしてたからちょっと満足した。そうこうしているうちに2人ともアイスを食べ終わる。
「じゃあ、花恋いこ?」
「次はどこに行くの?」
「うーん、内緒! ちょっと離れてるけど大丈夫?」
「えーっと、うん」
とりあえず何も聞かずについて行ってみることにした。歩いていると、れなはどんどん街のはずれに進んでいく。一体どこに向かってるんだろう。
「れな、本当にこっちであってるの?」
「大丈夫! もうちょっとだから」
れなはどんどん進んでいく。
「あ、花恋が疲れたなら休むよ? どうする?」
振り返ったれなは後ろに手を組みながら私にそう語りかけてくる。
「ううん、ちょっと心配になっただけ」
「道は間違えてないから心配しないで!」
れなは少し起伏のある坂をぐんぐんと登って行く。
「あのアイスクリーム屋さんはよくいくの?」
ふとそう尋ねるとれなは歩く速度を緩めた。
「よく行くってほどではないけど、たまに行くの。昔お母さんとよくきてたから」
「そうだったんだ」
「うん、最近は1人で来ることが多いんだけどね」
「やっぱり仕事で忙しいんだ?」
「うん、だから今日花恋と一緒に食べられて嬉しかった」
れなは少ししんみりとした顔でそう呟いた。なんかれなのこと守りたくなっちゃうな。これが母性......?
「ここ」
たどり着いたのは小高い丘の上だった。ここからなら夕日に染まった街並みが一望できる。
「すごく綺麗......」
「そうでしょ? ここからだったらこの街がよく見えるかなって思ったから」
「れなはよくくるの?」
「たまーにくるよ。本当に全部やになっちゃった時とか。ここにくると悩んでたことがなんだかすごくちっぽけに見えて、どうでも良くなっちゃうんだ。人と来るのは花恋がはじめて」
れなが夕陽を眺めながらベンチに座るので、私もその隣にちょこんと座った。
「夕陽、本当に綺麗」
私は思ったことが素直に口から溢れていた。
「花恋の方が綺麗じゃない? 夕陽に照らされて、なんかそれっぽいかも」
こういうことを直球に言えてしまうのがれなの悪いところだ。本当に良くない。
「はいはい、ありがと」
私は軽くあしらう様にそう答えた。
「あー、だんだん反応薄くなってきてない?」
「もー慣れたの!」
本当は全然慣れてなんかいないけど、このままずっと受け止め続けていたら私の心が持たないので少しだけ嘘をついた。