第一話 「告白!」
体育館裏に呼び出すなんて流石にありきたりすぎたかな。
私は、一条花恋。華のJK、高校2年生だ。私は今、一世一代の大勝負の真っ只中だ。
これから私は大好きな先輩に告白する。胸が張り裂けるくらい緊張してもうおかしくなりそう。
「好きです。付き合ってください!」
「好きです。付き合ってください!」
そんなありきたりな定型文を小声で練習していると、長かった待ち時間は終わり、約束の時間になる。
建物の影から現れた先輩は誰よりも美しかった。夕陽の橙と部活終わりの汗が煌めいて、まるで天使を見ているのかと思った。
「ごめんごめん、待った? いや、練習長引いちゃってごめんね」
どうやら先輩は息を切らしている様子だ。私なんかのために走ってきてくれたのかな。やっぱり先輩は優しいな。
「それで、大事な話って何?」
言わなきゃ、言わなきゃ。がんばれ、一条花恋! あんなに練習したんだからきっと大丈夫。もしだめだったら......ううん、今からそんなこと考えてちゃダメだ。
大きく息を吸い込んだ。
「好きです! つ、付き合ってくらひゃい!」
(噛んだ!!! あんなに練習したのに......)
そうすると先輩は困ったように微笑む。
「僕これでも一応女の子なんだけどなぁ......」
先輩は苦笑いしながらそう告げる。
(どうしよう、なんか言わなきゃ、言わなきゃ終わっちゃう。なんか言え! 一条花恋!)
「へ、変なこと言ってるのはわかってて......やっぱり女の子が女の子を好きになるなんておかしいですよね。えへへ、それでも私は先輩のことお付き合いしたい方の好きって言うか、なんかその......」
私は精一杯、それでもぎこちなく気持ちを伝える。それを遮るように先輩は口を開いた。
「ごめん、そういうつもりじゃなかったんだ。女の子が女の子を好きになっても別にいいと思う。君の顔見てれば本当に好きなんだってわかるよ」
「じゃあ......」
「ごめん、これは僕の問題なんだけど、人のこと好きになれないみたい。君が魅力的じゃないとかそういうことじゃないんだ。だから、君の気持ちには応えられないと思う。本当にごめんね」
先輩は一度も私と目を逸さなかった。先輩なりに私の気持ちに答えてくれたんだと思う。だから、逃げちゃった.....
「今日は来てくれてありがとうございます」
振り返るまでは表情をくずさないように意識したつもりだったけど、もしかしたら声がくぐもってるのバレちゃったかも。
わかってた。わかってたんだ。うまく行く確率の方が低いんだって。でも頭のどこかでは先輩と仲良く笑い合う未来を思い描いたりして、わかってだけど、やっぱりつらいや。
私は脇目も振らず、走って、走って、走った。いつしか私の足は幼い頃によく遊んだ公園に辿り着いていた。視界はぼやけて、綺麗な夕陽は歪んだ深い橙に変わっていた。
今は低くなってしまったブランコに乗って感傷に浸る。もはや涙を抑えることはできなかった。それでももう高校生なんだから大声で泣くようなことはできなくて、ただ静かに涙を流すことしか出来なかった。
そんな時、後ろから声が聞こえた。
「涙拭きなよ」
その声は予想に反した可愛らしい声で、振り返ってみるとそこには1人の幼女が立っていた。
歪んだ視界の光の輪の中心に現れた彼女は文字通り"天使"だったのかもしれない。